
牧阿佐美から金森穣へ
“弦楽のための三楽章(トリプティーク)”で繋ぐバレエの未来
3月15、16日に牧阿佐美バレエ団〈ダンス・ヴァンドゥⅢ〉が文京シビックホールにて開催された。来年創立70周年を迎える牧阿佐美バレヱ団は、日本バレエ界を牽引し続けてきた名門バレエ団。これまで日本を代表する数多くのバレエダンサーを輩出し、格調高い古典の名作のほか、世界的にも重要なレパートリーを上演し続けてきた。〈ダンス・ヴァンドゥ〉はバレエ団を率いる三谷恭三芸術監督が、そうしたバレエ団の伝統や個性を踊り継ぐとともに、新世紀へ向けた新しいダンスの創造をテーマに掲げ、1993年に〈ダンス・ヴァンテアン〉として開始したシリーズである。
本公演で最も大きな注目を浴びたのが、金森穣による新作「Tryptique~1人の青年の成長、その記憶、そして夢」。三谷恭三芸術監督は、これまで当シリーズにおいてジャンルの枠組みにとらわれず、国内外の優れた振付家の作品を取り上げ上演してきた。そして今回、このバレエ団から巣立ち、日本を代表する振付家に成長した金森穣に作品を委嘱した。オファーを受けた金森が選んだ楽曲は、恩師・牧阿佐美の代表作「トリプティーク~青春三章~」と同じ、芥川也寸志の“弦楽のための三楽章(トリプティーク)”(1953)。新たなる時代に踏み出すべく、あえて偉大なる恩師の作品に挑む金森の覚悟、そして後輩たちへのエールが詰まった渾身の一作であった。金森は、牧の遺した抽象性の高い作品とは全く別の手法で、この楽曲に新たな命を吹き込んだ。バレエ団の支柱である清瀧千晴演じる一人の青年の成長を軸に、仲間たちとの対立と挫折、孤独を味わいながらも、やがて出会う崇高な愛の介在によって、許し合い、同志となって歩き出すまでの物語。ラストシーンで見せる出演者全員によるユニゾンは、未来へと向かうバレエ団の大きな一歩を感じさせた。


今回上演された4作品は、〈ダンス・ヴァンドゥ〉のテーマを明確に示す見応えある演目であった。前半の2作、ジャック・カーター振付「グラン・パ・ド・フィアンセ」、ピーター・ダレル振付「ホフマン物語」は、いずれもイギリス・バレエ界の巨匠が牧阿佐美バレエ団に贈った、日本バレエ界の金字塔的作品。そして、公演のフィナーレを飾ったのは、三谷恭三芸術監督の最高傑作「ガーシュインズ・ドリーム」。ガーシュインの小粋なナンバーにのせて踊られるとびきり楽しいステップの連続に観客は大いに盛り上がった。時代とともに新たな顔ぶれで踊り継がれる作品に、バレエ団の揺るぎない伝統の重みを感じさせた。
バレエ団にとってレパートリーはまさしく財産である。そこには、伝統と実績のみならず、自らがバレエ芸術をいかに捉えるか、そして向かうべき未来が表れている。
次回の牧阿佐美バレヱ団主催公演は、6月14、15日に東京文化会館大ホールにて「ジゼル」(全幕)を上演。パリ・オペラ座バレエ団の新鋭・ブルーエン・バティストーニ&アンドレア・サーリが主演。特別MV(オペラ座リハーサル)を公開中。
INFORMATION
■公式ウェブサイト
https://www.ambt.jp/pf-giselle2025/
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Instagram:https://www.instagram.com/asamimakiballettokyo/
YouTube:https://www.youtube.com/@AsamiMakiBalletTokyo