「森の詩」
©瀬戸秀美

平和を願い国内外のトップ・ダンサーが集結したバレエ・ガラ

 ロシアによるウクライナ侵攻は、始まってから既に半年が経過しようとしているが、本稿を書いている8月初旬の時点では、終結を迎える気配はまったくもって見えていない。恐らく、誰もが早くこの争いが終わってほしいと思っているし、そのためにはどうすればいいのか、考えない日はないと思う。

 そんな中、いち早く行動を起こしたのが、草刈民代だ。かつてキエフ・バレエのプリンシパルを務めたアルテム・ダツィシンがロシア軍の砲撃が原因で死亡したことを知り、それがきっかけで、何かをしなければと考えたという。

 「やるからには具体的なものを」と考えた彼女がRENAISSANCE CLASSICSと共にプロデュースしたのは、国内外の最前線で活躍するダンサーたちを集結させたチャリティー・ガラ公演。キエフ・バレエの副芸術監督を務める寺田宜弘氏をはじめ、多くの協力者を得て、出演者のブッキングからスポンサー集め、そして芸術監督とあらゆる面で奔走し、7月5日の公演「キエフ・バレエ支援チャリティーBALLET GALA in TOKYO」を実現させたのであった。

 ヒューストン・バレエ団で活躍する加治屋百合子、元バーミンガム・ロイヤル・バレエの佐久間奈緒、ロイヤル・バレエの平野亮一をはじめとする海外組と、国内は草刈が在籍した牧阿佐美バレヱ団のメンバーを中心に、そしてキエフ・バレエからも2人が参加。総勢21人のトップ・ダンサーたちが古典からコンテンポラリーまで、幅広いレパートリーを披露した。

 冒頭を飾ったのは、水井駿介がキレのある動きで魅せた『デューク・エリントン・バレエ』の〈The Opener〉。ジャズの躍動感とバレエの気品が見事に融合した作品で、青山季可と菊地研が息の合ったパ・ド・ドゥで盛り上げた『ノートルダム・ド・パリ』とともにローラン・プティの振付で知られる牧阿佐美バレヱ団の重要なレパートリーだ。

 ともに所属先でプリンシパルを務める加治屋と平野は『ジゼル』のアダージョでしなやかで優美な動きを披露。加治屋はABT版『コッペリア』の祈りでもおおいに魅せた。

「二羽の鳩」
©瀬戸秀美

 今回の公演は、新しい作品を紹介することもひとつのテーマで、その代表的な一作がノルウェーの振付家、アラン・ルシアン・オイエンによる『And... Carolyn.』だ。1999年の映画『アメリカン・ビューティー』に着想を得た作品で、イングリッシュ・ナショナル・バレエの大谷遥陽とノルウェー国立バレエの松井学郎が、世の中に重くのしかかる不穏な空気を表現した。そして、まさに「現代の日本人バレエダンサーの世界トップレベルの水準と、芸術のもつ多様な可能性を示した舞台」(公演プロデューサー恩田健志)が実現した。

 エンディングに向けて徐々に平和を希求するムードを盛り上げ、最後に登場したのはキエフ・バレエのアンナ・ムロムツェワとニキータ・スハルコフ。ウクライナゆかりの『森の詩』を披露した。

 約2時間のステージは濃密で贅沢このうえなく、これを機にバレエに興味を持つ人が増えるのはもちろん、ウクライナへの想いも忘れないでほしい、という芸術監督草刈民代の願いが込められている。

 


LIVE REPORT
RENAISSANCE CLASSICS「キエフ・バレエ支援チャリティーBALLET GALA in TOKYO」
芸術監督:草刈民代
井田勝大(指揮)/シアター オーケストラ トーキョー

●「デューク・エリントン・バレエ」よりThe Opener
[振付:ローラン・プティ]
 水井駿介(牧阿佐美バレヱ団)

●「薔薇の精」
[振付:ミハイル・フォーキン]
中野伶美(シビウ劇場バレエ)/二山治雄

●「海賊」より グラン・パ・ド・ドゥ
芝本梨花子(デンマーク王立バレエ)
猿橋賢(イングリッシュ・ナショナル・バレエ)
福田昂平(元ノヴォシビルスク・バレエ)

●「グラン・パ・クラシック」
佐々晴香(スウェーデン王立バレエ)/髙橋裕哉

●「And... Carolyn.」
[振付:アラン・ルシアン・オイエン]
大谷遥陽(イングリッシュ・ナショナル・バレエ)
松井学郎(ノルウェー国立バレエ)

●「Deep Song」
[振付:マーサ・グラハム]
佐藤碧(マーサ・グラハム・ダンス・カンパニー)

●「ノートルダム・ド・パリ」より パ・ド・ドゥ
[振付:ローラン・プティ]
青山季可(牧阿佐美バレヱ団)/菊地研(牧阿佐美バレヱ団)

●「ジゼル」より アダージョ
加治屋百合子(ヒューストン・バレエ)/平野亮一(ロイヤル・バレエ)

●「小さな死」
[振付:イリ・キリアン]
藤井彩嘉(チェコ国立バレエ)/江部直哉(カナダ国立バレエ)

●「二羽の鳩」
[振付:フレデリック・アシュトン]
佐久間奈緒(元バーミンガム・ロイヤル・バレエ)
厚地康雄(元バーミンガム・ロイヤル・バレエ)

●「祈り」(アメリカン・バレエ・シアター版『コッペリア』より)
加治屋百合子(ヒューストン・バレエ)

●「森の詩」
アンナ・ムロムツェワ(キエフ・バレエ)
ニキータ・スハルコフ(キエフ・バレエ)
https://www.classics-festival.com/rc/kyiv-ballet-gala-in-tokyo-2022/