ジャンルを超えたダンサーたちとの一期一会の舞台に注目!

 1年以上も続いているコロナ禍は、ただ人類に耐乏を強いるだけでなく、様々な気づきや転換を与えたものではないか。さらに全ての舞台人にとっては〈存在意義〉を見つめ直す機会になったとも思う。草刈民代をはじめとする8人のダンサーが参加して創り上げた動画「Chain of 8 Dancers creation during corona times in Japan」はその〈存在意義〉に意識が向かった結果だろう。以前のインタヴューでもご紹介したとおり、行動を制限されていた草刈が、TikTokなどを観て「本物のダンサーの踊りが無い」ことに愕然としたことはひとつの気づきだし、その状況を変えるべく平原慎太郎らと作ったこの動画は、リモート収録という方法の転換によって完成したからだ。

 オーチャードホールでの〈CHAIN OF ∞ INFINITY -DANCING TRANSFORMATION〉がそれをきっかけに生まれたことは既報の通りだが、結果として画期的な舞台となった。これまでも異ジャンルのダンサーを集めて創る舞台はいくつもあったし、そういった手法を得意とする作り手もいるが、この舞台には先に書いたようなストーリーがある点で、従来のものとは一線を画すものだといえるだろう。

 公演は圧巻の一言に尽きた。各々のダンサーの世界を披露する前半では、草刈や中村による観衆に語りかけるようなダンス。空間をも巻き込むような永井の立体的なダンス。数名のメンバーと共にコンポジションの面白さをみせた辻本や平原。その場の空気を一瞬にして替えた熊谷のタップ。そして上野が魅せつけたクラシックバレエの美しさには思わず息を呑んだ。これらの様々なダンスを方向性が近い音楽をバックにして入り乱れるように組み合わせたのが後半だ。様々なジャンルが出会うことで、さらに新しい世界が生まれることを体現してくれたとも言えるだろう。実際、作り手としての草刈は、この日の舞台をどう評価しているのか。

 「皆さん経験も立場もある人ばかりですから、しっかり自分たちの世界観を表現していましたし、ご覧になったお客さまも、凄くいい感じでお帰りになったと多くの方から伺ったものですから、いい公演になった、全体を通してちゃんとした作品に仕上げることができたと確認できました」

 さて、そんな舞台はここで終わりではなく、夏にかけて、埼玉、兵庫、富山などでの公演が予定されている。注目したいのはこれらの公演が単なる巡回公演ではないことだ。映像に参加したものの東京では出演できなかった菅原小春をはじめ、Kバレエカンパニーで活躍した中村祥子。草刈が神戸の横尾忠則現代美術館で撮影したパフォーマンスで振付・共演した森優貴が参加するので、場所によっては初演を目にすることにもなるわけだ。それぞれの公演に足を運ぶ意義が大いにあるだろう。

 「出演者がすこし変わりますし、曲が変わる人も居ますね、一部での私のパートは森さんには新たに振付をお願いして、それを二人で踊る予定でいます。そして2部では菅原さんと踊るつもりです」

 世界的な停滞から生まれたこの舞台は、停滞することなく前に進んでいく、といったところだろう。まさに一期一会というべき舞台を目に焼き付けたい。

 


公演中止のお知らせ
現状の首都圏における〈まん延防止等重点措置〉の実施を考慮し、6月20日大宮ソニックシティで開催予定の〈INFINITY DANCING TRANSFORMATION 2021〉の開催を中止することになりました。コロナ禍の影響が懸念される中、公演の観客の皆様および出演者・関係者の安全を鑑み、誠に残念ですが開催中止を決定しました。本公演を楽しみにされていた多くの舞台芸術ファン及び関係者の皆様にご迷惑をおかけすることになり、心よりお詫び致します。何卒ご理解のほどお願い申し上げます。