
落ち葉は次の芽吹きの始まりでもある
――次は“月光・彩”です。中間部で“舞魚”のテーマが現れますね。
「前作の最終曲“月光”は、私を月になぞらえて、“月光”のテーマと娘を象徴した“舞魚”のテーマが掛け合う重要な曲です。月である私が魚である娘を照らし出して、魚の美しさをより引き立たせるという親子関係を描きたくて書きました。ただ掛け合うだけではなく、途中で転調させたりして立体感を出しています」
――この“舞魚”や“月光”の、モチーフとまではいかなくても、断片みたいなものは、アルバム全体に散りばめられているような気がします。
「本作はアルバム全体を組曲だと捉える意識がとても強いので、全部の曲がお互いに関係し合っている、そんな関連性は確かに重視しています。その中でも“舞魚”と“月光”は特に結びつきが強い2曲ですね」
――続く“小夜時雨(さよしぐれ)”は、本作の中でもかなりリリカルな曲だと思いました。
「探し続けているけれども、なかなか見つからない。そんな悲劇的な状況にも、どこかに優しさがある。そういった心情を表したような曲です。私でいえば、娘を探し、面影を追ってきたけれども、やはりなかなか見つからない、そんな寂しい夜を、細い静かな雨とともに過ごしている情景を描きました。
音楽的には、ミニマルに加え、ジョージ・ウィンストンからの影響を散りばめていますので、ファンの方は楽しんで聴いてください。ちょうどこの曲を作っているときに、ジョージ・ウィンストンが亡くなったんですよね。そんなこともあり、彼へのトリビュート的な性格も持たせました」
――“落葉”は、まさに〈冬〉という感じで、身に沁み入ります。
「桜の花びらもそうですが、葉が散るのはとても美しいですよね。だけど、地面に落ちた後は物語が終わってしまったような、どこか絶望的な印象も受けます。
亡くなってしまった命は、もう取り戻すことができない。だけど、落ち葉は次の芽吹きの始まりでもある。そういう前向きな捉え方に変換できるのではないか、と気づき始めて、次の“PHOENIX”に進みます」
〈生きたい〉という思いがあれば、必ず前に進める
――フェニックス(不死鳥)は、アルバムのジャケットにも登場しますね。
「結局、娘には自分が死ぬまで出会えないのかもしれないけれど、もしかしたら、自分の心の中で出会えるのかもしれない。そう気づくことは、生きるための火種を作ることにつながると思うんです。その火種を象徴するのがフェニックスなんです。
羽ばたく強さ、前に進む強さをもったフェニックスが目の前に現れ、ぶわっと翼を広げ、〈背中に乗れ〉と促してくれる。そんな情景を描いています」
――中盤で16分のリズムを駆使した疾走感あふれる場面が登場します。
「空に飛び立ち、雷雲や風などに象徴される困難をフェニックスの力で打ち破りながら、天界に向かって勢いよく昇っていきます。目指すところは、聴く人によってそれぞれだと思いますが、私の物語の中では娘がいる場所です。すると、その後にメロディはそのままに“桜颪”と同じコード進行が出てくるんです。目の前に現れる困難を打ち破りながら空高く飛び上がっていったら、どこか懐かしい、見覚えのある桜の花びらが舞っている光景が眼下に現れて、このまま進んでいくと娘に会えるのかな、という予感がしてきます」
――先ほどおっしゃっていた“桜颪”の伏線を回収する感じですね。
「そうですね。“PHOENIX”は“桜颪”に対する返答歌ともいえる存在といえます」
――そして“REUNION”でお嬢様と再会を果たす……。
「フェニックスの背中に乗って行き着いた先に待っていたのは、娘が笑顔で駆け寄ってくるような“REUNION”だった。すべては自分の心の持ちようだったというわけです。
本作で描いてきた物語を通して皆さんに伝えたいのは、いろいろ辛いこともあるけれど、自分の中にある〈生きたい〉という強さに頼ることで、必ず前に進めるし、進んだ先には新しい景色が見えて、何かを手にすることもできるということです。そんな人生へのエールを込めたかったんですね。だから“REUNION”はアルバム本編では唯一、長調にして、ハッピーエンドにして終えました。音楽的には坂本龍一さんの影響も入っています」
――そして“愛し君へ”は山下久幸さんによる曲ですね。
「この曲はボーナストラックなのですが、映画でいうエンドロール的な存在だと思ってください。『瞬景』というひとつの物語の、音によるエンドロールです」