寺尾紗穂による知られざる民謡、わらべうた、流行曲など日本の戦前音楽を訪ねた音楽エッセイ集。西洋音楽が到来し、和洋折衷の唱歌が明治時代に生まれている歴史があるが、より古くからの日本古来の音楽についてその物語を浮き彫りにした貴重な書物だ。特に“安里屋ユンタ”の変遷、山梨の“えぐえぐ節”、“せっせ”――盆歌に残る間引きの記憶(長塚節の小説「土」の一節を想起)、かつて北原白秋やウォルト・ディズニーが戦意高揚への協力にて作品を作らされたことがあるという事は知っていたものの、〈戦争と音楽〉の章は印象に残った。市井の人間たちの人生と歴史。寺尾の鋭くも真摯な筆によりその声なき声が聞こえてくるようだ。