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ダージリン急行
©2012 Twentieth Century Fox Home Entertainment LLC. All Rights Reserved.
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「グランド・ブダペスト・ホテル」に話を戻すと、上記のような映画的身振りは、時間にタメを作るだけでなく、時として、映画を一気に加速させる瞬間を作り出しもする。グスタヴとゼロとは、死んだ老婦人(無垢な動物のように美しい瞳を見開くティルダ・スウィントン!)の遺産を巡る冒険の旅に乗り出すことになるが、その号砲となるのが、老婦人の息子がグスタヴを殴る→息子をゼロが殴る→ゼロを息子の用心棒が殴る、というティンパニの三連打のようなパンチの応酬だ。あるいは、殺人の容疑を着せられたと見るや呆れるほどの素早さで踵を返し、警官の眼前から遁走するグスタヴ。さらには、崖の端にぶら下がり、用心棒(鉄のブラスナックルを着けたウィレム・デフォー!)に蹴落とされそうになるグスタヴを救うために、ゼロが繰り出すアクション(ゼロは後の場面で、同じアクションによって逆に自らを窮地に落としもするわけだが……)。頭が考える前に身体がアクションを起こし、それをエンジンにして、映画をどんどん先に進める。
物語にノスタルジックな衣裳を纏わせながらも、それをスタティックな絵として封じ込めることなく、映画をドライブさせていくダイナミックな身体的アクションを駆使しつつ、ウェス・アンダーソンは、映画作家の王道を軽やかな足取りで渡っていく。