武満徹の“ギターのための12の歌”再録音を、名器イグナシオ・フレタ・エ・イーホスで聴く

 その日そのときに演奏する。じぶんで弾いた記憶はしっかりあっても、すみずみまでおぼえているとはかぎらない。弾いた記憶が薄れてしまったりもするだろう。誰もが一刻一刻齢をかさねる。演奏家も変わらない。演奏はそのときどき、点のように、生のなか、おかれてゆく。

 ステージのうえ、弾きながら耳にしている音は、ひとが聴いているものとは違う。じぶんで聴けなかった演奏が、聴けるようになったのが20世紀。コンサートで何度も弾いている楽曲がある。そのときどきで変えるところがあり、これは変えずにと意志的に弾くところもある。

 みずからの演奏を録音し、聴く。弾き、なおす。いま、そのとき、つくりあげたいかたちをめざし。できあがってからは、あらためて聴くか聴かないか。ほとんど忘れてしまうひとがいて、何度もくりかえし聴きなおすひとがいる。

 短かからぬ演奏活動のなか、おなじ楽曲をあらためて録音することがある。ステージでの、場所・聴き手との一期一会ではなく、何度も聴きかえす・聴きかえされることを意識する。過去の演奏もある。過去の演奏との対話もおこなう、あるいは、おこなわない。

鈴木大介 『ギターは謳う』 ART INFINI(2021)

 鈴木大介が50歳を迎えて、という。“12の歌”は20年、“ラスト・ワルツ”は25年ぶり。否応なしの変化がそこにはある、あるはずだ。それがどういうものなのか、語るのはむずかしい。スムーズにでてくることばはある。そのありきたりさ、どこでも誰でもが口にするような、うんざりするようなことばを、記したくはない。だから、導入にしては長すぎる文章をはじめにおかせてもらった。鈴木大介の弾く、スタンダード・ナンバー、みずからの手による編曲のナンバーに、演奏家としての鈴木大介のみならず、そのあいだに格段に腕を、いや、意味〈センス〉方向性とを豊かにしてきた作編曲家としての書く・ひびかせる手腕を、聴く。それがまた、武満徹が編曲したナンバーにむけて、作編曲家としての目をとおして、あらためてとらえられていることをもみておかなくては。だからこそ、やすやすと、この演奏がどうの、などと記したくはなく。

 


LIVE INFORMATION

『ギターは謳う』アルバム発売Live
2021年10月31日(日)東京・雑司ヶ谷 エル・チョクロ
開場/開演:13:30/14:00
http://el-choclo.com/contents/?p=9694

静岡・室内楽フェスティバル2021
福田進一&鈴木大介 ギター・デュオ・リサイタル

2021年11月25日(木)静岡音楽館AOI
開場/開演:18:15/19:00
https://www3.aoi.shizuoka-city.or.jp/concert/detail.php?y_yoyaku_day_uid=18772