帰ってきた4人は西洋と東洋を行き交い、あっちとこっちの境界で多彩な才能と手を組んで刺激的で折衷的な音を奏でる――インドに潜伏中のゴリラズにインタヴューを敢行!
死は新たな始まり
ゴリラズは神出鬼没だ。英国のエセックスにあるコング・スタジオをアジトにしながら、アルバムごとに思いがけない場所に現れ、そこでの体験にインスピレーションを受けたりしながら音楽を作ってきた。例えば初作『Gorillaz』(2001年)をジャマイカで録音した彼らは、『Plastic Beach』(2010年)では南太平洋に浮かぶ島に出没し、『The Fall』(2010年)はアメリカをツアーしながら綴って、前作『Cracker Island』(2023年)はLAのシルヴァーレイクに一時拠点を移して制作。この間あちこちで警察沙汰の騒動を起こしてきたマードック(ベース)は、あろうことかみずから教祖となって新興宗教を設立し、超自然的な現象に巻き込まれてまたもや警察に追われる身となった。
その後ラッセル(ドラムス)いわく、「LAでいろんなことが起きたせいで、急いであそこを脱出して移動し続けなきゃならなかった」という彼らは、偽造パスポートを入手して各地を転々とした末にムンバイに辿り着く。「インドに行くのは初めてだから、まだマードックに逮捕状が出てないし」とヌードル(ギター)は事情を説明するが、たまたま選んだインドのカルチャーに魅了された4人は、現地のミュージシャンを多数含むコラボレーターたちと9枚目のアルバムを完成させた。それが『The Mountain』だ。
「新しいカルチャーに触れることで俺は謙虚な気持ちにさせられるわけだけど、同時にインドと言えば神々の国だし、俺にとってこんなに居心地のいい場所はないよ。それに、かつてビートルズもインドにやって来た。まあ俺の場合、ヤツらみたいな自分探しのためにここに来たわけじゃない。とっくの昔に自分は見つけてあるから」と話すマードックはすっかり感化されて、本作のヴィジュアルでは青い肌のヒンドゥー教の神へと姿を変えている。
「インドで俺は転生を遂げたんだよ。いまはより穏やかで賢明で、イカした髭も伸ばした。俺の心と魂は歓喜に溢れる見知らぬ次元に踏み入れたのさ」。
……という経緯は今回インタヴューに応じてくれたメンバーの言い分なのだが、ゴリラズ × インドのコンビネーションが実現した本当の理由はもちろん、首謀者のデーモン・アルバーンとジェイミー・ヒューレットの身辺にある。事の発端は3年前に遡り、当時休暇で家族とインドに滞在していたジェイミーの義理の母が客死。翌年には、みずからもアーティストだったデーモンの父キースが亡くなり、その10日後に今度はジェイミーが父を失った。次々に起きる悲劇に大きな喪失感を抱いていた二人は、ジェイミーの提案で、死を〈新たな始まり〉と捉えて祝すインドを訪問。西洋とは異なる思想に触れて悲しみを癒し、クリエイティヴな刺激を得たことをきっかけに、死生観を主要なテーマに掲げた『The Mountain』が生まれることになる。
言葉で表現できないこと
そんなわけで、アヌーシュカ・シャンカールが弾くシタールをはじめ、インド音楽界の名手たちが奏でる横笛のバーンスリー、弦楽器のサロードやタンプーラ、打楽器のタブラやグングルーの響きがゴリラズ節のシンセ・サウンドと混ざり合い、シリアのオマール・スレイマンがダブケのリズムを、アルゼンチン人であるMCのトレノとプロデューサーのビザラップがラテン・フレイヴァーを持ち込み、いつものようにダブやヒップホップやディスコの要素も加わって、そこにいつも以上に憂いを深めた美しいメロディー(“The Sweet Prince”はブラーの“Tender”と並ぶメロディーメイカーとしてのデーモンの最高傑作かもしれない)を乗せた全15曲が誕生。用いた楽器の種類はアコースティック/エレクトロニックを合わせて40以上に及び、インストゥルメンテーションにもっともこだわった作品であることは間違いなく、マルチカルチュラル&ジャンルレスをデフォルトとするゴリラズの基準に照らしても、途方もないスケールのアルバムとなった。音楽的出自がまったく異なるインドのミュージシャンたちとの共演を振り返ってヌードルは、「音楽って、言語より先に誕生した言語なんだと理解できた」と語る。「現世の向こう側から伝わって来る周波数であって、言葉では表現できないことを明確化してくれるってことなんだろうね」。
そしてテーマの重みに相応しく、ヴォーカルやラップを提供したゲストの面々は、インドの伝説的シンガーであるアシャ・ボスレ、ザ・ルーツのブラック・ソート、スパークスのマエル兄弟などなど、声に威厳と英知を備えたヴェテランが多い。
「どういう声が必要なのかは曲が教えてくれるわけだけど、いまの世界には、やたらデカい声でがなり立てたがるヤツが多いよね。そいつらがみんな賢い人間だとはとても言えない。その点このアルバムは賢人の評議会みたいなもので、山の頂で指導者たちが神秘的な集いを開いて、どうにか俺たちに道理をわからせようとしているんだよ」(ラッセル)。
また今回は、すでに鬼籍に入った過去のコラボレーター――トニー・アレン、ボビー・ウーマック、デ・ラ・ソウルのトゥルーゴイ、D12のプルーフほか――の声も随所に織り込まれ、現世と次の世界の橋渡し役を担っているようでもある。
「彼らの声を聞くと安らぎを得られるところがあるよね。古い友人から〈どう? 我々は元気にやってるよ。天気もいいしね。こっちに来たら会おうね〉って絵葉書をもらったみたいで」(ラッセル)。

山の上に山がある
このように生者と死者の声を重ね、国籍も世代も異なるアーティストの視点を交錯させて、本作は生と死について論じている。例えば、西欧とインドの弦楽器が出会うディスコ・チューンに乗せて死者を悼み、悲しみを吐露する“The Moon Cave”。〈準備は整った(さあ行こう)〉とヨルバ語で告げるトニーの厳かな声に、〈愛する人に別れを告げることほど辛いものはない〉とデーモンが応じる“The Hardest Thing”。トレノとプルーフがスペイン語と英語のラップで死を真正面から見据える“The Manifesto”。現在92歳のアシャがマジカルな声で〈私を向こう岸に連れてっておくれ~そこで宇宙と私はひとつになる〉と乞い、ゴリラズ作品では常連のグリフ・リースが〈僕は古い殻を脱ぐ/終わりは始まり〉と唱える“The Shadowy Light”。父の死から間もなくデーモンが綴ったという、優しく彼岸に死者を送り出しているかのような“The Sweet Prince”……。服喪と弔いのアルバムであると共に、我々はどう生きるべきなのかと問う『The Mountain』を、マードックは次のように総括する。
「俺は究極的に不死身だから、地球が太陽に呑み込まれたとしても生き延びるわけだけど、他の人間にとっての死は、そこにいると気付いてるくせに見て見ぬふりをしてる存在、みたいなものだろ? だからこのアルバムは、〈そいつに手でも振ってやれよ、怖がる必要はないんだ〉って言ってるんだよ」(マードック)。
ならばタイトルに掲げた〈山〉は何を意味するのか? 2D(ヴォーカル)は「山って、頂上に到達したと思って雲の上を見上げたら、さらに高い峰が聳えていたりする。山の上に山があって、ひたすら上をめざすしかないんだよ」と語る。つまり山は永遠に続く生命のサイクルそのものであり、グリフが歌う〈終わりは始まり〉であることの象徴なのだろう。と同時に、彼らにしかできないアプローチで人間の根源に迫るアルバムを作り上げて、デビューから四半世紀を経て新たな高みに立つ現在のゴリラズ自体のシンボルだと言わずにいられない。ラッセルはいみじくも「俺たちが立ち止まることはないし、常に変遷していて、自分でもどこに向かっているのかわからないけど、そこが重要で、恐れずに未知を受け入れるんだ」と話し、ヌードルは「私たちは毎日何かを学んでて、新作に着手するたびに自分が理解していると思ってたことを忘れて、ゼロからスタートするわけ。新しいアイデアを取り入れるには、古いアイデアを手放さないとね」と説明する。
それに加えて、『Humanz』(2017年)や『Plastic Beach』がそうであったように本作は、いまの世界のゆがみに警鐘を鳴らしてもいることを指摘しておきたい。人々がマインド・コントロール下に置かれて根拠のないハピネスに覆われた独裁的国家を描く“The Happy Dictator”然り、フィナーレに待ち受ける“The Sad God”然り。後者は、自分が与えた祝福をことごとくぶち壊してきた人間に呆れ果てて神が我々を見捨てるという、あまりにも絶望的な一曲だ。
しかし考えてみれば、ゴリラズこそそんな絶望に抗う道を指し示している稀有なバンドである。分断ではなく対話を重ね、壊すのではなく創造し続け、差異を超えて連帯し一緒に音楽を鳴らす仲間を増やし続けてきた。だから波乱含みの2026年に彼らが望むことは何かと訊ねれば、ラッセルとヌードルと2Dは「人々をひとつに繋ぐものをもっとたくさん。そうじゃないものはいらない」との意見で一致する。マードックはどうか?
「そりゃもう、俺がずっと前から望んでたことだな。世界の平和とリスペクトとラヴだよ」。 *新谷洋子
ゴリラズの作品。
左から、2001年作『Gorillaz』、2005年作『Demon Days』、2010年作『Plastic Beach』『The Fall』(すべてParlophone)、2017年作『Humanz』、2018年作『The Now Now』、2020年作『Song Machine Season One』、2023年作『Cracker Island』(すべてParlophone)
デーモン・アルバーンの関連作を紹介。
左から、ブラーの2023年作『The Ballad Of Darren』(Parlophone)、3月6日にリリースされるチャリティ・コンピ『HELP(2)』(War Child)
『The Mountain』の世界に登場する主要キャスト陣を紹介!
DENNIS HOPPER
映画「イージー・ライダー」(69年)で名高い俳優・映画監督・芸術家。71年に監督した「ラストムービー」のサントラが『The Last Movie』(Earth)として昨年CD化されたのも記憶に新しい。生前に『Demon Days』にてゴリラズと邂逅し、新作の表題曲にも召喚された。
ANOUSHKA SHANKAR
『The Mountain』中の7曲で演奏に参加しているシタール奏者。ラヴィ・シャンカールの娘(ノラ・ジョーンズの異母妹)としても知られ、昨年の『Chapter III: We Return To Light』(Leiter)に至るまでソロ作も数多い。
AJAY PRASANNA
そのアヌーシュカとの共演も多いアラハバード出身のバーンスリー(竹製の横笛)奏者。『The Mountain』では計9曲で演奏し、表題曲など4曲では大きくフィーチャーされている。
AMAAN ALI BANGASH & AYAAN ALI BANGASH
アムジャッド・アリ・カーンを父に持ち、インド国内で幅広く活動しているサロード(インド古典音楽で使われる弦楽器)奏者の兄弟。『The Mountain』では3曲に揃って参加している。
ASHA PUTHLI
“The Moon Cave”で歌うムンバイ出身の歌手・女優。NYを拠点にした70年代にはディスコ系統の作品を多く残しており、なかでも76年作『The Devil Is Loose』(Columbia/Mr Bongo)に収録された“Space Talk”は人気ネタとして名高い。
BOBBY WOMACK
サム・クックの正統な流れを汲むソウルマン。2012年の最終作『The Bravest Man In The Universe』(XL)はデーモンが制作した。ゴリラズとは『Plastic Beach』『The Fall』で絡み、新作の“The Moon Cave”にも登場する。
DAVE JOLICOEUR
同じく“The Moon Cave”に登場するラッパーで通称トゥルーゴイ。デ・ラ・ソウルの一員として“Feel Good Inc.”(2005年)から何度もゴリラズと共演したが、2023年に逝去。グループの最新作『Cabin In The Sky』(Mass Appeal)にも注目だ。
JALEN NGONDA
“The Moon Cave”で歌う米メリーランド出身のヴィンテージ系ソウル・シンガーで、実はリヴァプール舞台芸術研究所で学んだ経歴の持ち主。絶賛された2023年の初作『Come Around And Love Me』(Daptone)も必聴。
BLACK THOUGHT
“The Moon Cave”のほか“The Empty Dream Machine”“The Sad God”でもマイクを握ったザ・ルーツのラッパー。エル・マイケルズ・アフェアと組んだ2023年作『Glorious Game』(Big Crown)に続く展開も待たれる。
SPARKS
“The Happy Dictator”に出演するLAのデュオ。ニューウェイヴ時代から名を馳せる大御所ながら昨年の『Mad!』がキャリア最高の全英2位を記録し、勢いに乗って初EP『MADDER!』(Transgressive)も放った。
TONY ALLEN
“The Hardest Thing”に降臨する、アフロビートの創始者の一人。ロケット・ジュース・アンド・ザ・ムーンなどを共に結成したデーモンは2021年の遺作『There Is No End』(Blue Note)で制作に参加している。
BIZARRAP
“Orange County”を共同制作したアルゼンチンの異才。シャキーラの2024年作『Las Mujeres Ya No Lloran』(Sony Latin)収録のプロデュース曲“Bzrp Music Sessions, Vol. 53”はギネス世界記録の大バズとなった。
KARA JACKSON
その“Orange County”で歌っているのは、2023年のフォーキーな初作『Why Does The Earth Give Us People To Love?』(September)で注目された米イリノイ州のシンガー・ソングライター。リトル・シムズがデーモンに紹介したそうだ。
IDLES
“The God Of Lying”に登場するブリストルの人気ポスト・パンク・バンド。バンドではアロノフスキー監督作のサントラ『Caught Strealing』(Partisan)も出したばかり。
JOHNNY MARR
“The Empty Dream Machine”など4曲でギターを弾いて共作にもクレジットされ、ライヴにも出演した元スミスのギタリスト。昨年はスミス曲なども含むライヴ盤『Look Out Live!』(BMG)を出している。
TRUENO
“The Manifesto”に客演したのは、2024年作『EL ÚLTIMO BAILE』(Sony Latin)をヒットさせたアルゼンチンの人気ラッパー。もともと2022年にブエノスアイレスのフェスでゴリラズとステージ共演した縁があったそうだ。
PROOF
その“The Manifesto”に登場するデトロイト・ラップの伝説。彼がエミネムらと組んだD12はゴリラズと“911”(2001年)を録音。2005年にソロ作『Searching For Jerry Garcia』(Iron Fist)を発表するも、翌年に逝去した。
MARK E. SMITH
2018年の逝去後も、『The Unutterable』(Eagle/Cherry Red)などの拡張リイシューが続くザ・フォールのフロントマン。ゴリラズとは『Plastic Beach』で共演し、今回は“Delirium”に出演している。
OMAR SOULEYMAN
フォー・テットら西洋勢との絡みも多く、2024年作『Erbil』(Mad Decent)などを出しているシリアのダブケ歌手。もともと『Plastic Beach』用に制作していた未発表曲が今回の“Damascus”に発展したという。
YASIIN BEY
その“Damascus”でマイクを握るのは、『Plastic Beach』でも2曲に参加していたNYのラッパー。近年はタリブ・クウェリと組んだブラック・スターの2024年作『No Fear Of Time』(Rhymesayers)を発表。
ASHA BHOSLE
現在92歳のインドの伝説的な歌手で、夫のRD・バーマンらと組んだ映画音楽など12,000曲以上(!)もの録音の一部は『The Rough Guide To Bollywood Legends: Asha Bhosle』(Music Rough Guides)などのコンピで聴ける。彼女が歌った“The Shadowy Light”ではデーモンがRDのハーモニウムを借りて演奏したそう。
GRUFF RHYS
“The Shadowy Light”では、『Plastic Beach』参加歴もあるウェールズの人気者も歌唱。昨年のソロ作『Dim Probs』(Rock Action)に続き、今年はスーパー・ファーリー・アニマルズの再々始動ツアーも控えている。
PAUL SIMONON
ギャレン&ポールでの2023年作『Can We Do Tomorrow Another Day?』(Sony)に駆けつけたデーモンとは、グッド、ザ・バッド・アンド・ザ・クイーンでも活動していた元クラッシュのベーシスト。ゴリラズにも『Plastic Beach』『The Fall』で絡み、今回は“Casablanca”のヴォーカルに参加。
JAMES FORD
シミアン・モバイル・ディスコの一員で、アークティック・モンキーズらを手掛けてきたUKの大物プロデューサー。ゴリラズの制作は『The Now Now』〜『Song Machine Season One』ぶり。2023年に初のソロ作『The Hum』(Warp)も発表。
REMI KABAKA Jr.
DRCミュージックなどを通じてデーモンと縁を深め、『Humanz』以降はゴリラズの共同プロデューサーに名を連ねるナイジェリア系の打楽器奏者。デーモンと推進するアフリカ・エクスプレスでは昨年『Bahidorá』(World Circuit)を発表している。
DAMON ALBARN
ゴリラズの首謀者。再結成したブラーの動きは2024年の〈コーチェラ〉出演とドキュメンタリー映画の公開をもって休止中だが、デーモンは頻繁な客演も通じて精力的に活動している。チャリティ・コンピ『HELP(2)』にも参加したばかり。
