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山の上に山がある

 このように生者と死者の声を重ね、国籍も世代も異なるアーティストの視点を交錯させて、本作は生と死について論じている。例えば、西欧とインドの弦楽器が出会うディスコ・チューンに乗せて死者を悼み、悲しみを吐露する“The Moon Cave”。〈準備は整った(さあ行こう)〉とヨルバ語で告げるトニーの厳かな声に、〈愛する人に別れを告げることほど辛いものはない〉とデーモンが応じる“The Hardest Thing”。トレノとプルーフがスペイン語と英語のラップで死を真正面から見据える“The Manifesto”。現在92歳のアシャがマジカルな声で〈私を向こう岸に連れてっておくれ~そこで宇宙と私はひとつになる〉と乞い、ゴリラズ作品では常連のグリフ・リースが〈僕は古い殻を脱ぐ/終わりは始まり〉と唱える“The Shadowy Light”。父の死から間もなくデーモンが綴ったという、優しく彼岸に死者を送り出しているかのような“The Sweet Prince”……。服喪と弔いのアルバムであると共に、我々はどう生きるべきなのかと問う『The Mountain』を、マードックは次のように総括する。

 「俺は究極的に不死身だから、地球が太陽に呑み込まれたとしても生き延びるわけだけど、他の人間にとっての死は、そこにいると気付いてるくせに見て見ぬふりをしてる存在、みたいなものだろ? だからこのアルバムは、〈そいつに手でも振ってやれよ、怖がる必要はないんだ〉って言ってるんだよ」(マードック)。

 ならばタイトルに掲げた〈山〉は何を意味するのか? 2D(ヴォーカル)は「山って、頂上に到達したと思って雲の上を見上げたら、さらに高い峰が聳えていたりする。山の上に山があって、ひたすら上をめざすしかないんだよ」と語る。つまり山は永遠に続く生命のサイクルそのものであり、グリフが歌う〈終わりは始まり〉であることの象徴なのだろう。と同時に、彼らにしかできないアプローチで人間の根源に迫るアルバムを作り上げて、デビューから四半世紀を経て新たな高みに立つ現在のゴリラズ自体のシンボルだと言わずにいられない。ラッセルはいみじくも「俺たちが立ち止まることはないし、常に変遷していて、自分でもどこに向かっているのかわからないけど、そこが重要で、恐れずに未知を受け入れるんだ」と話し、ヌードルは「私たちは毎日何かを学んでて、新作に着手するたびに自分が理解していると思ってたことを忘れて、ゼロからスタートするわけ。新しいアイデアを取り入れるには、古いアイデアを手放さないとね」と説明する。

 それに加えて、『Humanz』(2017年)や『Plastic Beach』がそうであったように本作は、いまの世界のゆがみに警鐘を鳴らしてもいることを指摘しておきたい。人々がマインド・コントロール下に置かれて根拠のないハピネスに覆われた独裁的国家を描く“The Happy Dictator”然り、フィナーレに待ち受ける“The Sad God”然り。後者は、自分が与えた祝福をことごとくぶち壊してきた人間に呆れ果てて神が我々を見捨てるという、あまりにも絶望的な一曲だ。

 しかし考えてみれば、ゴリラズこそそんな絶望に抗う道を指し示している稀有なバンドである。分断ではなく対話を重ね、壊すのではなく創造し続け、差異を超えて連帯し一緒に音楽を鳴らす仲間を増やし続けてきた。だから波乱含みの2026年に彼らが望むことは何かと訊ねれば、ラッセルとヌードルと2Dは「人々をひとつに繋ぐものをもっとたくさん。そうじゃないものはいらない」との意見で一致する。マードックはどうか?

 「そりゃもう、俺がずっと前から望んでたことだな。世界の平和とリスペクトとラヴだよ」。 *新谷洋子

ゴリラズの作品。
左から、2001年作『Gorillaz』、2005年作『Demon Days』、2010年作『Plastic Beach』『The Fall』(すべてParlophone)、2017年作『Humanz』、2018年作『The Now Now』、2020年作『Song Machine Season One』、2023年作『Cracker Island』(すべてParlophone)

デーモン・アルバーンの関連作を紹介。
左から、ブラーの2023年作『The Ballad Of Darren』(Parlophone)、3月6日にリリースされるチャリティ・コンピ『HELP(2)』(War Child)