〈歌〉にフォーカスしたヴィンテージな味わいのソロ2作目

 ロンドン生まれのシンガー・ソングライター、トム・ミッシュ。9歳でギターを弾き始めたトムは、15歳でJ・ディラの音楽に出会って衝撃を受けて自分でビートを作るようになった。そして、2018年にファースト・アルバム『ジオグラフィ』を発表。ソウルやヒップホップを昇華したビートとジャジーなギターを融合させたモダンな音作りが評価されて〈ネオソウルの旗手〉という風に紹介されることもあった。

TOM MISCH 『Full Circle』 Beyond the Groove(2026)

 それから7年ぶりのソロ・アルバムとなるのが本作だ。前作から間は空いたが、その間にトムはカヴァー・アルバムやコラボレート・アルバムを発表。さらにクラブ・ミュージックのユニット、スーパーシャイをスタートさせるなど、作品を発表するごとに話題を呼んできた。しかし、トムは予想外の成功からくるプレッシャーから解放されるため、しばらく活動を休止して自分と音楽の関係を見つめ直した。そうした休養期間を経て作り上げた本作は、これまで以上に〈歌〉にフォーカスしたアルバムになっている。

 今回、トムはシンガー・ソングライターのマット・マルチーズと多くの曲を一緒に作り、ロンドン、ポルトガル、ナッシュビルなど様々な場所でレコーディング。ギターやピアノを中心にしたシンプルなサウンドになり、クラブ・ミュージック的なプロダクションは影を潜めた。歌への回帰はスーパーシャイをスタートさせた反動もあるのかもしれないが、曲はシンプルでありながらアレンジはしっかりと練られていて、ヴィンテージな温もりを感じさせるサウンドには60~70年代のフォーク、ソウル、ジャズからの影響を色濃く感じさせる。そして、トムの深みを増したエモーショナルな歌声も味わい深い。ヴィンテージな艶やかさを感じさせるが枯れたわけではなく、クラブ・ミュージックを通過したモダンな瑞々しさは失っていない。ミュージシャンとしての成熟が伝わってくる本作は、トムがこれから息の長いミュージシャンとして活動していくポテンシャルを持っていることを証明する作品であり、タイムレスで普遍的な魅力を放っている。