5月22日劇場公開の最新作「マンダロリアン・アンド・グローグー」へ続く〈伝説〉をレコードで!

 「スター・ウォーズ」旧三部作のオリジナル・サウンドトラックがLPで発売されると聞いて、自分が惑星タトゥイーンに隠遁しているオビ=ワン・ケノービになったような錯覚にとらわれた。「LP……ずいぶんと久しぶりだ、なつかしい」。

 48年前の1978年7月。「スター・ウォーズ」(EP4)に衝撃を受けた小学生の僕は、当然のことながらサントラ盤が欲しくなった。A面に“スター・ウォーズのテーマ”、B面に“酒場のバンド”が入った600円のシングル盤は、すでに友達が持っていた。だが、全曲盤はなんと2枚組LP、しかも3600円もするという。両親に泣きつき、なんとか買ってもらった2枚組全曲盤を、僕は文字通り針が擦り切れるまで毎日聴いた。

 まだ小学生だったから、“ルークのテーマ”のファンファーレが高らかに鳴る“スター・ウォーズのテーマ”がコルンゴルト風だとか、タトゥイーンのシーンに流れてくる“小人のジャワズ”がストラヴィンスキー“春の祭典”にインスパイアされていたとか、そういうムズカシイことはわからない。だが、ジョン・ウィリアムズ作曲の大編成のオーケストラを聴きながらEP4の各場面を脳内再生し、作曲者自身による全曲解説を含むライナーノーツを読みながら、収録曲の中に“ルークのテーマ”や“フォース(ベン・ケノービ)のテーマ”や“レイアのテーマ”を発見していくと、音楽を分析的に聴く力が自然に備わっていった。それが、大人になってからクラシック音楽をより深く理解していくうえでの〈フォースの基礎訓練〉になったことは、改めて言うまでもない。

JOHN WILLIAMS 『スター・ウォーズ/新たなる希望(オリジナル・サウンドトラック)』 Walt Disney(2026)

 当時のサントラは音楽的な聴き応えを優先するため、本編使用順にこだわらずスコアを収録するのが常だった。EP4の2枚組LPは、その時代のサントラ・アルバムの最高例のひとつだ。LPのどの面にも“ルークのテーマ”と“レイアのテーマ”と“フォースのテーマ”を中心とするメロディアスな音楽が含まれ、光線銃が飛び交うアクションシーンの激しい音楽が含まれ、しかもLP1の終わりにはベニー・グッドマン風の“酒場のバンド”まで含まれている。どの面から聴いても面白いEP4の2枚組サントラは、グラミー賞3部門を受賞しただけでなく、なんと年間最優秀アルバム(!)にもノミネートされた。当然である。

JOHN WILLIAMS 『スター・ウォーズ/帝国の逆襲(オリジナル・サウンドトラック)』 Walt Disney(2026)

 ところがその2年後、日本公開直前に購入した「帝国の逆襲」(EP5)の2枚組LPを聴いた僕は、怪獣ワンパに頭をブン殴られたような衝撃を受けた。コルンゴルトからベニー・グッドマンまで、よい意味でごたまぜ状態だったウィリアムズの音楽が、EP5になると白銀のようにゴージャスに輝く〈ロシア音楽集〉に変貌を遂げていたからである。愛のテーマである“ハン・ソロと王女”はチャイコフスキー“ヴァイオリン協奏曲”の伝統を受け継いだ凛々しい気品を漂わせ、バレエ音楽のような“ランドの城”は御伽の国のフレグランスを雲の都市ベスピンに香らせ、背筋も凍る冷徹なアクション音楽“雪の中の戦い”は、あたかもプロコフィエフ“戦争ソナタ”が管弦楽版に編曲されたかのような戦慄をもたらした。それだけではない。ウィリアムズがEP5の直前に作曲した“ドラキュラ”(演奏も同じロンドン響)のダークなロマンティシズムが、EP5にそのまま受け継がれているという衝撃の事実に、文字通り血の気が引く思いがした。“ドラキュラ”のメインテーマとEP5の“雲の中の都市”を聴き比べてみると、まるで前者が後者に対して「私がお前の父親だ」と告げているようだった。

 だが何よりもEP5の2枚組LPが衝撃的だったのは、本作から登場した“ダース・ベイダーのテーマ”の異様なまでの存在感である。このテーマ、演奏会用ヴァージョンの“ダース・ベイダーのマーチ”(現在は“帝国のマーチ”として知られる)がLP1 Side-B冒頭に収録されているが、そもそもLP1 Side-A冒頭の「スター・ウォーズのテーマ”のオープニングクロールが終わり、スター・デストロイヤーが画面に登場すると、最初に聴こえてくるのは“ベイダーのテーマ”に他ならない。LP1を聴き終え、LP2に入っても、Side-1冒頭の“小惑星の原野”と Side-2冒頭の“決闘”は同様に“ベイダーのテーマ”で始まる。つまり、LPのどの面をひっくり返しても最初の“スター・ウォーズのテーマ”を除き、必ず“ベイダーのテーマ”で始まるという恐るべきアルバム構成なのだ。しかも2枚組LPに収録された全17曲のうち、“ベイダーのテーマ”と全く関係ないのは“ヨーダのテーマ”ただ1曲だけ。あとの16曲は必ずどこかに“ベイダーのテーマ”の旋律が流れるか、それに由来する素材が含まれている。要するにこの2枚組LPは、史上初の、そしておそらく今後も唯一となるであろう“ベイダーのソロ・アルバム”だったのだ!

JOHN WILLIAMS 『スター・ウォーズ/ジェダイの帰還(オリジナル・サウンドトラック)』 Walt Disney(2026)

 それから3年後、「ジェダイの復讐」(当時の邦題)として公開された「ジェダイの帰還」(EP6)のサントラが2枚組ではなく、1枚のLPとして発売された時は、別の意味で衝撃を受けた。EP5であれほど登場した“ベイダーのテーマ”は、今回たった2曲にしか含まれない。だがその代わり、プリミティヴな打楽器がユーモラスな“イウォーク族のパレード”が含まれ、双子のジェダイの高雅な血筋を表現した“ルークとレイア”が含まれ、“ハン・ソロの生還”後半部でのテューバのカデンツァという人を食ったようなジャバのテーマが含まれ、不気味な男声合唱がトラウマになりそうな“帝国軍皇帝”のテーマが含まれている。イウォークたちが歌う“イウォーク・セレブレーション”という曲名が端的に示しているように、EP6のサントラは実質的にさまざまなキャラを楽しく祝賀(セレブレーション)する記念アルバムなのであった。

 再びオビ=ワンのセリフをもじれば、「スター・ウォーズ」旧三部作のLPとは〈デジタル配信と違い、もっと文化的だったころの繊細なアルバム〉であり、〈何年もの間、旧三部作の音楽の平和と秩序を守ってきたアルバム〉なのである。