幾度もの別れを乗り越えてきた男たちはいま何に喜びを見い出す? 新しい仲間と作り上げたニュー・アルバムに焼き付くのは、破顔一笑でロックする6人の姿!!!!!!
試行錯誤を繰り返してきた
それはまるで時計の針でもあるかのように、12作目にして原点に戻った――フー・ファイターズの新作『Your Favorite Toy』を一口で称するなら、そのような言葉が良いだろうか。
ニルヴァーナとは対象的な、ファンに対して前向きで快活なエナジーを放射する〈サニーサイド・オブ・グランジ〉とでも呼ぶべきサウンドは、フー・ファイターズが30年抱えてきたシグネチャー・サウンドのように捉えられるものかもしれない。だが、彼らのそうした典型的なイメージは強いて言えば4作目の『One By One』(2002年)まで。バンドの歩み自体はそこまで容易なものではなく、その後は試行錯誤の繰り返しだった。
とりわけ実験性が強まったのは2014年の8作目『Sonic Highways』以降。そこからデイヴ・グロールは〈ビートルズの『Sgt. Pepper’s Lonely Hearts Club Band』をスレイヤーがプレイした感じ〉をめざしたり、ダンス・サウンドに食指を伸ばしたりもしたが、バンドの傍らにはグレッグ・カースティンが付いていた。彼は、アデルらヒットチャートの上位常連アーティストのプロデュースを数多く手掛けてきた業界屈指の売れっ子プロデューサーであり、リアム・ギャラガーのキャリアをソロにおいて立て直したことでも知られている。カースティンが関わってからの3作は、音作りやアレンジの面で現代性を増しており、バンドと彼が二人三脚で作った痕跡が見える。2010年代半ば以降に業界内で強くなっていた〈コライト・システム〉を、意識してかせずか結果的にフー・ファイターズも取り入れるようになっていた。
だが、そうした意欲的な実験の終焉は皮肉な形で訪れる。それがテイラー・ホーキンスとデイヴの母であるヴァージニアの相次ぐ死。この2人を失ったことで前作『But Here We Are』(2023年)は、内省要素の濃い一作となった。サウンドに強く漂ったメロウなテイストにはカースティンの色が出た面もあったであろうが、それ以前にデイヴの気分が強く伝わってくるものだった。
さらに動乱はそれでは収まらなかった。2024年秋、デイヴが婚外子をもうけていたことが発覚。それまで愛妻家として、さらに3人の娘への子煩悩っぷりでも知られていた彼にとっては大きなダメージとなった。また、テイラーの後任として加入したジョシュ・フリースは2025年5月に早くも解雇。そのことは、テイラーの穴を埋めるのが容易でないことを示していた。その後、彼らはアルバム未収録の配信曲“Today’s Song”をリリースするも、まだどこか前作の重々しさを引きずっている印象だった。
王道のフー・ファイターズ
そうしたこともあり、正直なところ、僕自身もフー・ファイターズの次のアルバムに関しては、期待よりも不安のほうが幾分か強かったことは否めない。だが、ここに届けられた新作『Your Favorite Toy』を構成する10曲には、嬉しい意味で予想を裏切られた。前作での苦悩どころか、10数年来続いていた音楽制作のうえでの迷いがスパッと消え、晴れ間が差し込んできたような爽快感さえ感じたのだ。デイヴいわく〈寒さのなか、地平線から希望の陽射しを待つイメージ〉というラスト・ナンバー“Asking For A Friend”を除くと、初期に馴染んだタイプの王道フー・ファイターズ・アンセムが並んでいる。
のっけからデイヴの咆哮が聴ける1曲目の“Caught In The Echo”は、賑やかりし頃の初期チープ・トリックを彷彿とさせる。こういうタイプの曲はこのバンドにはいつでもあるといえばあるが、それでも近作よりもスカッとした抜けの良さがある。今作はバンドと若手エンジニア、オリヴァー・ローマン(キム・ゴードン、クリブス)との共同プロデュースで、カースティンは参加していない。彼の不在が結果的にこうした音を産んだのではないか。
2曲目の“Of All People”も畳み掛けるタイプのロックンロールだが〈すべての人のなか、君だけが生き残った〉〈俺は幽霊を見たよ〉と、悲しい別れの相次ぐ現実をしっかり受け止めたまま、力強くロックを続けることへのデイヴなりの決意表明を感じさせる。
そして、ややテンポを落としてのメロディックな“Window”の後に続く表題曲は、今作のハイライトのひとつ。デイヴはこの2月、Apple Musicのゼイン・ロウの番組で「これまで俺たちは進化も成長も果たしてきた。だからこそ、この先どこに行けばいいんだ?と思っていたが、その答えは自分自身のなかにあることに気付いた。何が俺たちを笑顔にさせ、小躍りさせるのか。それが、この曲を作ったことではっきりとわかった」と語っていた。今後のツアーでも見せ場の一曲となるのは確実だろう。
続く“If Only You Knew”でデイヴは〈俺には手を取ってくれる人が必要だ。休めるところに連れて行ってくれないか〉と語りかけるが、これは最愛の妻ジョーダンに向けた言葉だろうか。すでに2人は繰り返し公の場で関係が修復したことを示しているが。
ファストなパンク・チューン“Spit Shine”を経て、ダウンテンポの哀愁漂うリフからサビで一気に盛り上げる“Unconditional”にはシングル・カットのポテンシャルも。そして〈俺は子役俳優だった〉と歌われるややメランコリックな“Child Actor”。実際に子役経験はないデイヴだが、何をやっても受け入れられない悲しい立場を引き受けたかのような歌だ。
ややテンポを落とした2曲の後は、初期の人気曲を思わせるヴァイヴを持つ“Amen, Caveman”を鳴らし、“Asking For A Friend”でフィナーレを迎える。36分26秒という収録時間は彼らのアルバムにおいて過去最短の尺。初期衝動的なインスピレーション重視の姿勢はこうしたところにも表れている。
なお、この10曲は新加入のドラマー、イラン・ルービンがすべて叩いていることも押さえておきたい。“If Only You Knew”をはじめ、手数の多い自由な見せ場を与えられている彼は、昨年7月までナイン・インチ・ネイルズに参加していた。なんでもデイヴは早くから彼に目を付けていたようで、NINのツアーが終了する前に駆け付け、ジョシュの後任ドラマーとしてアタックしたようだ。デイヴといえば、テイラーの前任ドラマー、ウイリアム・ゴールドスミスに対し96テイク録らせた末に脱退させたという鬼伝説ぶりでも知られているが、その審美眼を満足させるだけのケミストリーが早くから発揮されているのも良いサインだ。
紆余曲折と苦難を乗り越え原点に立ち返り、瑞々しく若返ったフー・ファイターズ。この5月には、前作で親子デュエットも聴かせたデイヴの長女ヴァイオレット・グロールがアルバム・デビューを果たすことも決まっている。娘たち世代からの刺激もエネルギーに変えつつ、これからも彼らは世界最大規模のロック・バンドとして音楽シーンに君臨し続けることだろう。 *沢田太陽
デイヴ・グロールの近年の参加作を一部紹介。
左から、キム・ゴードンの2026年作『Play Me』(Matador)、2025年のサントラ『A Minecraft Movie』(Watertower)、『F1 The Album』(Atlantic)、セイント・ヴィンセントの2024年作 『All Born Screaming』(Total Pleasure)
メンバーの作品や参加作を一部紹介。
左から、クリス・シフレットの2023年作『Lost At Sea』(Blue Élan)、ラミ・ジャフィーが参加したコルドヴァスの2026年作『Back To Life』(Yep Roc)、イラン・ルービンが在籍するエンジェルズ&エアウェーヴズの2021年作『Lifeforms』(Rise/BMG)
11作で辿る、ロックのど真ん中で挑戦を続けてきたフー・ファイターズの軌跡
ほぼすべての楽器をデイヴが演奏したソロ・プロジェクト的な趣の初作。“This Is A Call”から“Big Me”まで硬軟自在の楽曲に通じるメロディーの良さがリスナーを驚かせた。誰もニルヴァーナのドラマーがこんな曲を書けるとは思っていなかったのだ。
パット・スメア(ギター)、ネイト・メンデル(ベース)らが加入。バンドとしての第一歩を刻んだ2作目には“Monkey Wrench”“Everlong”という不朽のアンセムを収録。ギル・ノートンによるメリハリの利いた音作りも豪胆なキャラを決定づけた。
ドラマーのテイラー・ホーキンスが加わるもパットが脱退し、3ピースで完成させた3作目。少人数かつデイヴ自宅の地下室での録音が功を奏し、リラックスして制作できたそうで、伸びやかな“Learn To Fly”など丁寧に練られた良曲揃いの一枚だ。
クリス・シフレット(ギター)が加入し、やっと編成が安定。完成していた作品をボツにして2週間で作ったという4作目。ヘッドバンギンな“One By One”、ギターの絡みとコーラスが小気味良い“Have It All”などパワフルな演奏が痛快だ。
ハードなロックとアコースティックなバラードの2方向でディスクを分けた2枚組20曲の大作。ジョシュ・オムやノラ・ジョーンズなど多彩なゲストに加えて、のちに正式メンバーとなるラミ・ジャフィーが数曲で鍵盤を演奏している。
前作で試みた2つのアプローチを融合させようと10年ぶりにギル・ノートンを召喚した6作目。ベン・フォールズを思わせる“Statues”やブライトフルな“Cheer Up, Boys (Your Make Up Is Running)”などアーシーで芳醇な演奏が聴きもの。
パットの再加入でトリプル・ギターになった影響もあってか重層的かつパンチの効いたロックを全編で鳴らした7作目。レコーディングにはアナログ機材しか使っておらず、鋭さとまろやかさを併せ持つサウンド、妥協を感じさせない演奏が素晴らしい。
前作に続きブッチ・ヴィグを迎えた8作目は、全米8都市に赴き、リック・ニールセンらその街の音楽家と作った一枚。なかでもデス・キャブ・フォー・キューティのベン・ギバードが歌う“Subterranean”は両者の〈らしさ〉が出た名曲だ。
ラミ・ジャフィーがついに正式メンバーに。グレッグ・カースティンがプロデュースした9作目は、ハード・ロックの獰猛さと多彩な実験性を両立させている。ポール・マッカートニーからジャスティン・ティンバーレイクまで客演の華やかさも楽しい。
この10作目では、“Cloudspotter”や“Love Dies Young”などディスコ~ファンクに接近した楽曲で新機軸をアピール。ドラムのくっきりとした立体感、シンセやストリングスのメロウネスを際立たせたプロダクションはカースティンの手腕か。
前年に起きたテイラー・ホーキンスとデイヴの母親であるヴァージニアの死が色濃く影を落としている11作目。引き続きカースティンが制作しているものの先進性は控えめで、ありのままの悲しみや喪失をストレートなロックに託している。 *田中亮太











