Soba Violence!
サウンドも含めたメッセージ
見慣れていた建物が風景から消えてなくなり、故郷や世界の変化を受け止めるムードは3人の中に徐々に落とし込まれていったのだろう。彼らがアルバム制作のレコーディングを始めたのは2003年の2月だが(翌月には米軍によるイラクへの武力行使が始まった)、もともと次作を全編をラップ曲にしたいと考えていたアルバムの方向性がそうした諸々のシチュエーションに合致して誕生した作品こそ、故郷に捧げる『To The 5 Boroughs』だったわけだ。静けさすら伝えるような線画のアートワークを馬鹿馬鹿しい『Hello Nasty』のジャケと比べてみれば、方向性の違いは明白だろう。それは無駄を削ぎ落としたストレートなヒップホップ・サウンドという内容にも直結している。DJのミックス・マスター・マイクだけを従えたシンプルな昔ながらのサウンドは、必然的に彼らのラップそのものへのフォーカスを促すものになった。
故郷への愛を表現する“An Open Letter To NYC”に明らかなように、ここでの3人はいままで以上に率直だ。パートリッジ・ファミリーからうら寂しいコーラスを引用してシリアスに聴かせる“Right Right Now Now”は銃規制を訴え、テクノっぽいビートの“It Takes Time To Build”では〈アメリカはまだ自分たちに力があることを誇示したいだけ/そんな真似を続ければ、やがて致命傷を負うだろう〉と当時のブッシュ政権の外交政策に異を唱えている。
もちろん、〈9.11〉以降を感じさせる表現ばかりではないし、そもそもリリックだけでなくサウンドも含めたアルバム全体がメッセージであり、トリビュートである。先行シングルでもあったオープニングの“Ch-Check It Out”は威勢良くパーティーを盛り上げる曲で、簡素でソリッドで重たいビートの感触は90年代の彼らにはなかったものだ。LLクールJの声ネタでグイグイ牽引する“3 The Hard Way”は初期デフ・ジャムやマントロニクスの轟音を想起させるし、シュガーヒル・ギャングをリメイクしたような“Triple Trouble”はビースティが登場する以前のブロック・パーティーにまで遡ったようなオールド・スクール流儀が楽しい。ファスト・ラップの“All Lifestyles”や“Crawlspace”などトラディショナルでありつつ独創的なプロダクションも大きな聴きどころとなる。
今回の〈デラックス・エディション〉のDisc-2には、シングルB面やEPなどで聴けたリミックスやレア曲が満載されている。ジャスト・ブレイズが往時のリック・ルービンに敬意を表した“Ch-Check It Out”のリミックスをはじめ、馴染みのエンジニアであるジョン・ウェイナーやベルギーのブレインパワー、元アヴァランチーズのデクスター&ゴードン、当時は〈元ブラー〉だったグレアム・コクソンといった面々の仕事も興味深い。交流の深い高木完を招いた“RRNN: Straight Outta Shibuya”も聴きものだ。それら追加の要素も含め、ここには本作が顧みた古き良き日の雰囲気もあるし、本作が世に出た2004年の空気感もある。そこに込められたフレッシュなサウンドとメッセージは時代を超えるものだろう。
関連盤を紹介。
左から、アヴァランチーズの2000年作『Since I Left You』(Modular)、ブレインパワーの2002年作『Verschil Moet Er Zijn』(PIAS)、高木完の93年作『HEAVY DUTY vol.1』(キューン)
マイクDとアドロックが参加した近作。
左から、カシアスの2019年作『Dreems』(Caroline)、パブリック・エナミーの2020年作『What You Gonna Do When The Grid Goes Down?』(Def Jam)、ハイヴスの2025年作『The Hives Forever Forever The Hives』(PIAS)