【20】

BEASTIE BOYS Ill Communication Grand Royal/Capitol(1994)

90年代のストリート・カルチャーは彼らが提案するフレッシュなアイデアと視点に夢中だった。三十路を迎えた転機と決意も垣間見える本作で全米1位に輝き、その後もフレッシュなまま成熟していくトリオに皆注目していたし、エミネムほか後進の起爆剤となった功績も計り知れず。それだけに、MCAの早すぎる死が悔やまれる。 *池谷

【19】

JEFF BUCKLEY Grace Columbia(1994)

ティム・バックリーの息子で、〈奇跡の声〉と評されるセンシティヴで切ない歌唱が響くデビュー作。生前に残された唯一のアルバムであり、オルタナティヴ・ロックの文脈でも多くの人に聴かれた。伝記映画が昨年USで公開されたほか、未発表音源がいまだに発掘されているのは、彼に代わる存在がいないことを暗に物語っているのではないだろうか。 *青木

【18】

アメリカンでブラック・クロウズやスレイヤーを送り出していたリック・ルービンが新たに契約したカントリーの巨匠。古いヒルビリーや聖歌を取り上げてアメリカの光と闇を描き出す試みは、オルタナ・ブームの狂騒が過ぎた後のささくれた空気感を反映したものだったか。キャッシュ御大にとっても亡くなるまでのライフ・ワークとなった。 *轟

 

【17】

アシッド・ジャズ・シーンが生んだ最大のポップスターによる2作目。彼の作品中もっともスムース&メロウな内容で、当時のクラブ・シーンを反映したブラジル音楽やコズミックなジャズへの傾倒も聴いて取れる。レアグルーヴ・ムーヴメント以降の評価軸を現在進行形の音楽に落とし込んだ最高の例として、いまも輝きを失わない。 *池谷

 

【16】

インディーでのリリースながら1千万枚以上のセールスを記録した怪物アルバムにして、メロコア・ブームを代表する一枚と言えばこれ。当時のパンク・ファンにとっては全曲アンセム化、“Come Out And Play”に至ってはジャンルを超越して知られる存在だろう。いまでこそパンクをベースに普遍的なロックを鳴らすバンドも増えたが、その雛型はここに。 *青木

 

【15】

ドクター・ドレー率いるデス・ロウ軍団の活躍によって前年に吹き荒れたGファンク・ブームがメインストリームを引き続き席巻していたこの年、そのキャンプを飛び出したウォーレンGが提示したのは、みずから〈イージー・リスニング〉と認めるほど涼やかでライト&メロウな、AORとしてのGファンクだった。その後のウェッサイ勢が模倣しようともしないほどソフト&マイルドな世界が広がる。なお、本作のリリースからデフ・ジャムはメジャー資本下に入り、この後の帝政へと向かうことになる。 *出嶌

 

【14】

ヒップホップからの影響が濃厚なビートと、陰鬱でシネマティックな要素を融合させたサウンドで、トリップホップというサブジャンルを世界に認知させた第一人者によるデビュー・アルバム。日本ではCMソングをきっかけにお茶の間へも進出して大反響を呼んでいる。ジェイムズ・ブレイクの登場以降、音楽シーンを覆ったメランコリックなムードは、そんな彼らが発していた空気感そのものではないだろうか。今年に入り、アルバム制作に向けて本格始動というニュースも飛び込んできたが、果たしてリリースはいつ!? *青木

 

【13】

BECK Mellow Gold Geffen(1994)

年頭にリリースした新作『Morning Phase』も記憶に新しいベックのメジャー・デビュー作がこれだ。当時はキャラクター込みで変人のような扱いを受けていたものだが、それ以上に多くの耳を惹き付けたのは、アート方面から我流でヒップホップに取り組んだクリエイションの特異なカッコ良さ。グランジに続く流行として〈ローファイ〉が盛り上がった頃だけに、モゴモゴした不穏さの漲る“Loser”などの何とも言えなさは、ポップセンスの部分を前面に出しはじめた後の作品にはないストレンジな楽しさに溢れている。 *出嶌

 

【12】

バッド・ボーイが本格始動したのもこの年の大きなトピックで、なかでも別格なのは本作だろう。チンピラな語り口と硬軟自在なトラックが過渡期にあったヒップホップの多面性をうまく切り取り、オルタナ時代ならではの暗い空気にもシンクロした陰惨な幕切れを迎える衝撃的な一枚。ナズが正面突破しようとしたNYヒップホップの正統性を、西海岸ギャングスタのポップな手捌きを触媒にしながら引き出したショーン“パフィ”コムズの肚の太さも凄い。何度となく甦る男のファースト・アルバム。 *出嶌

 

【11】

〈年齢はただの数字〉と冠して14歳でデビューしたアリーヤ。前後してブランディやモニカといったローティーン・シンガーも登場してきたが、彼女の妖艶で可憐なウィスパー・ヴォイスは圧倒的なクールネスを放っていた。恋仲にあったR・ケリー色に染まりきった楽曲にその歌声は良く似合っていたが、次作でティンバランドと組んでからこそが本領発揮なのはよく知られるところ。また、その特徴的な声と存在感が、ウィークエンドら近年の耽美でアンビエントなR&B勢のモチーフとなったこともトピックだ。 *池谷