©Caio Kenji

来日公演もソールド・アウト! ミナス新世代を代表する音楽家、アントニオ・ロウレイロ、7年ぶりの新作を語る!

 ブラジルはミナスの新世代を代表するシンガー・ソングライターでマルチ器楽奏者、アントニオ・ロウレイロが7年ぶりの新作『Aldeia Coração』を発表した。この約7年の間にはパンデミックがあり、また、彼はウルグアイのナイール・ミラブラットやポルトガルのマヌエル・リニャレスのプロデュースを手掛け、2022年にはハファエル・マルチニと一緒に来日公演を行った。新作の特長のひとつは、その盟友ハファエルをはじめ、ゲスト・ミュージシャンとのコラボレーションが軸になっていること。たとえば表題曲の作詞家は、アフリカ系ブラジル人のシンガー・ソングライター、チガナ・サンタナだ。

 「私たちは作詞家のカルロス・ヘノーの作品を称えるプロジェクトで仕事をする機会を得て、それがきっかけで、一緒に曲を作ることになった。2018年、ボルソナーロがブラジル大統領に当選した選挙の時期、私たちはチガナや他のバイーア州の人たちと一緒にスタジオにいて、選挙のことで緊張した雰囲気になっていた。というのも、まさにそのときにモア・ド・カテンデーの殺害事件が起きたから。彼はブラジルでも屈指のカポエイラ師範の一人だったけど、政治的な口論の末にボルソナーロ支持者の男にナイフで刺殺された。その頃からこんなタイプの暴力がだんだん社会の中にはびこるようになった。チガナはこの曲で人種差別や、ブラジル人が〈小さな村(aldeia)〉のような共同体のメンバーであることの難しさというテーマを扱っている。彼の歌詞は、アフリカ系のルーツを持つ、バイーア出身の黒人男性という個人の視点からそうした問題を語り、混乱した時代の空気を反映している。そんな歌詞が、チガナとはまったく異なる世界から来た私の音楽と結び付いている。自分にはこんな歌詞を書くことはできなかったという意味でも、私にとってこの曲はとても大切なんだ」

ANTONIO LOUREIRO 『Aldeia Coração』 Antonio Loureiro/THINK!(2026)

 アントニオは変拍子を駆使するなど、〈リズム〉に対して強いこだわり持つ。たとえば“Será”には、ブラジル北東部のマラニョン州のリズムが取り入れられている。

 「私は、マラニョン文化に魅了されてきた。なぜならそこでは、アフリカや先住民の文化に由来する、さまざまなものが集まり、混ざり合っているから。ブラジルの伝統的なフォルクローレの祭り、ブンバ・メウ・ボイはそうしたもののひとつ。ブラジルでもっとも古いカンドンブレのテヘイロ(儀式を行う場所)も、マラニョンにある。マラニョン、バイーア、ペルナンブーコにまたがる北東部は、ブラジルの文化的な“核”のある地域で、それぞれの文化は互いに交流しながらも、異なる表現言語を持っているんだ」

 アントニオは、リズムと同等にハーモニーを重視しているという。

 「もし音楽をひとつの映像のようなもの、空間だと考えるなら、ハーモニーは色であり、色彩や遠近感を空間に与え、混ざり合うことで、面白い効果が生まれる。そしてリズムは、その輪郭を鉛筆で描く線、その空間に形を与える線のようなものと捉えている」

 インタヴューした日の前後には、昨秋に新作『That Wasn’t A Dream』を発表したピノ・パラディーノとブレイク・ミルズたちの来日公演がちょうど行われていた。

 「私は、ブラジルのエルメート・パスコアールの“Suíte Norte, Sul, Leste, Oeste”を聞くと、なんて美しいメロディなんだろう!と感じるんだけど、そもそも〈綺麗な音楽(música bonita)〉が大好き。その点、ピノ・パラディーノ/ブレイク・ミルズの新作は好きだし、ティグラン・ハマシアンの『Luys I Luso』も綺麗だと思う。それと私は、今でも2021年に発表されたカエターノ・ヴェローゾの『Meu Coco』をかなり聞いている。私にとってこのアルバムは、たぶんカエターノの作品の中で最高のものです」

 


アントニオ・ロウレイロ(Antonio Loureiro)
1986年、ブラジル・サンパウロ生まれ。作曲家、マルチ・インストゥルメンタリスト。シンガー・ソングライターとして活動する傍ら、プロデューサーや作曲家としてもその多彩な才能を発揮する。ブラジル国内での活動はもちろん、カート・ローゼンウィンケルや挾間美帆といったジャズ界で気鋭のアーティスト、日本でもくるりや長谷川白紙といったミュージシャンと共演するなど、国境やジャンルの垣根をこえて大活躍している。