若い世代もエルヴィスに接しやすい、入り口になる映画
立田「監督のバズ・ラーマンですけれども、大変個性的な監督ですよね。この作品は北米では批評家や観客からも高く評価されており、バズ・ラーマンらしい外連味のある編集だと思いますが、いかがでしょうか?」
萩原「ちょっとやりすぎだなっていうところもなくはないですけどね(笑)。ただ今の時代にエルヴィスの歌声を蘇らせるにあたってはこのぐらい極端なことをしてもいいのかなという気はしますよね。
もちろんピュアリストはいますから、どうしても〈“Suspicious Minds”のコード進行が違うじゃないか〉とか思う人もいますよね。ぼくもそうです(笑)。今回のサウンドトラックではバックの演奏を入れ直しちゃっているものも多いので。
でも、これはこれでありですよ! やっぱりこれまで体験したことなかったエルヴィスのバージョンなわけだし。あと、どんなにバックの演奏を入れ替えたとしても、エルヴィスの歌心とか、エルヴィスのグルーヴとかっていうのはそれに負けませんから。
なので、とりあえずこの映画を入り口に今の若い世代もエルヴィスに接しやすくなるのならば、それはありだと思います。ただ、そうは言っても、やっぱりオリジナル音源にかなうものはないですから、ぜひオリジナルも接してほしい。その道筋みたいなものを、この映画がつけてくれるといいんじゃないかなっていう感じがしますね!」
立田「ちょうど先日バズ・ラーマン監督が来日されてインタビューしたのですが、この作品は北米では若い層にも大変好評で、それがすごく嬉しかったとおっしゃっていました。
本作は、今で言うならば没入感に満ちたライブ体験に近い作品になっていると思いますが、従来の音楽ドキュメンタリーと比べてこの作品がもたらす体験の特徴とはどういうところだと思いますか?」
萩原「もはやドキュメンタリーじゃないですよね。ある意味バズ・ラーマンが作り上げたフィクショナルな、バーチャルなエルヴィスのコンサートを我々に体験させてくれた。だからそういう意味では、家でちまちま見るんじゃなくて、やっぱり劇場で、でっかい音で、でっかい画面で、これを受け止めるのが面白いと思うんですよ。曲によってはエルヴィスがいろんなところに残したいろんな曲の音源を再構築したりとか、非常に緻密に組み上げられている感じがしました。
ただ、たぶん権利関係とかいろいろあったんだと思いますが、今作では歌詞の字幕が出ないじゃないですか。でも、じつは歌詞がこの映画の内容や流れとリンクしながらものすごく重要な役割を果たしていたりするんですよ。もちろんエルヴィスの曲をよく知っている方は、どういうことを歌っているのかは分かっていると思います。けれども、この歌はどういう歌詞だったのかみたいなことにも、もう一度注目してこの映画を見直してもらうと、全体のストーリーみたいなものも見えやすくなるんじゃないかなって気がします」
立田「今のお話とも少し関連するのですが、この作品はエルヴィスという存在の理解を深めるためのものになっていると感じられましたか? それともやっぱり、ステージ上の姿を強く印象付けるための作品と感じられましたか?」
萩原「エルヴィスって本当にデカい存在なんです。どんなことをやったところで、やっぱり2時間ちょっとで全体像を掴むことってできないんです。
けれども、そういう意味も含めて、この時期、自分の原点に向かっていった70年代前半のライブっていう場での表現に特化した良さがある。77年にやってくる自分の死を予見していたわけじゃないとは思いますけど、もう一度自分のルーツを見直していくぞっていうような思いに駆られているエルヴィスの姿、その瞬間を切り取ったというのは、ありなんじゃないかと思いますね。
これを取っ掛かりにして、デッカい全体像を一生かけて味わっていくというのがいいんじゃないかと思います」
MOVIE INFORMATION
映画「EPiC/エピック エルヴィス・プレスリー・イン・コンサート」

製作・監督:バズ・ラーマン(「エルヴィス」「華麗なるギャツビー」)
音楽製作総指揮:バズ・ラーマン
出演:エルヴィス・プレスリー
原題:EPiC: Elvis Presley in Concert
配給:パルコ/ユニバーサル映画
(2025年/オーストラリア/97分)
字幕翻訳:石田泰子/字幕監修:湯川れい子/協力:田口富一(エルヴィス・ソサエティ)
©2025 SONY MUSIC ENTERTAINMENT.ALL RIGHTS RESERVED.
公式サイト:https://www.universalpictures.jp/micro/epic
X:@epicjp2026
Instagram:@epicjp_movie0515
全国公開中
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PROFILE: 萩原健太
1956年生まれ、埼玉県出身。音楽評論家・ディスクジョッキー・音楽プロデューサー・作曲家・音楽家。アメリカのポップミュージック全般に精通しており、なかでもエルヴィス・プレスリー、ザ・ビーチ・ボーイズ、ザ・ベンチャーズのマニアとして知られる。著書に「ポップス・イン・ジャパン」(新潮文庫)、「幸せな結末 大滝詠一ができるまで」(文藝春秋)など。
PROFILE: 立田敦子
映画ジャーナリスト。批評の執筆やインタビュー、テレビ、ラジオ出演の一方、カンヌ、ベネチアなど国際映画祭の取材活動もフィールドワークとしている。セレブリティへのインタビュー取材も多く、セレブの美容・ファッション事情に精通していることでも知られる。著書に「どっちのスター・ウォーズ」、「おしゃれも人生も映画から」(共に中央公論新社)など。