いまの僕たちは無敵なんだ――ジャック・アントノフが語る、愛と友情と成長で彩られた〈バンド〉のストーリー。
躍動する6人を刻印した新作『everyone for ten minutes』には、ドアを蹴破る瞬間の昂揚が鳴っている!!

個性とハートを出してほしい

 オーガニックなエモ・バンドのスティール・トレイン、“We Are Young”で知られるファンという2バンドを経て、ジャック・アントノフが2014年に始動させたブリーチャーズ。当初はソロ・ユニットであり、80年代アメリカの青春映画を思わせる甘酸っぱい世界観のエレクトロ・ポップが人気を集めた。ほどなくして、マイキー・フリーダム・ハート(ギター)、エヴァン・スミス(キーボード/サックス)、マイク・リドルバーガー、ショーン・ハッチンソン(共にドラムス)がライヴ・メンバーとして合流。さらに2021年にサックス奏者のゼム・アンドゥが加わった。

 「ブリーチャーズを始めてすぐ、スティール・トレインのマティアス・グルーバーに地元ニュージャージーのミュージシャンである彼らを紹介してもらったんだ。人と仲良くなることについての素晴らしい話があってさ。僕らが一緒にプレイしはじめた頃、エヴァンはシンセとバック・ヴォーカルの担当のみだった。ところがある日のリハーサルで、彼が〈実はサックスも吹ける〉と教えてくれて、ちょっと吹いてもらったら、いままで僕が聴いたことのないような素晴らしい音で。以降、少しずつバンドのなかでサックスの比重が増え、2021年のサード・アルバムの『Take The Sadness Out Of Saturday Night』の頃には、エヴァンがバンドの巨大なキャラになっていた。人間性とスキルが物事を変える良い例だね」(ジャック・アントノフ:以下同)

 2010年代中頃からジャックはテイラー・スウィフトやラナ・デル・レイらとの仕事で名曲を連発し、この時代を代表するプロデューサーになっていく。その一方で、ブリーチャーズとしても精力的に活動を継続。とりわけ、この取材でも「憧れの人さ!」と語ったブルース・スプリングスティーンを思わせる、エナジーとヒューマニティーに溢れたライヴが各地で熱狂を巻き起こしている。そうした流れのなかで、ライヴ・メンバーのレコーディングへの関わりも増え、2024年の4作目『Bleachers』では、ジャック以外の面々もついに正式メンバーとなった。

 「一緒に時間を過ごせば過ごすほど、もっとお互いを知りたくなるし、彼らの音がもっと欲しくなる。みんなにはうるさくやってほしいんだ。パーフェクトでなくていいし、僕の意向通りにやらなくていいから、とにかく個性とハートを出してほしい。バンドの歴史は〈愛と人間関係と成長〉の物語さ。彼らと続けていくうちに、愛情が深まって、信頼を強く置くようになり、僕の人生のもっとも親密な場所――スタジオにも入り込んでほしいと思うようになったんだ」。

 

終わりのなかでの大きな希望

 そうジャックが話すように、このたびリリースされた5作目にあたる『everyone for ten minutes』では、『Bleachers』で見られた豪華シンガーなどのゲスト参加は皆無で、基本的にはメンバー6人による歌と演奏のみ。これまで以上にバンド感を出した一枚だ。

 「前作のツアーが終わってスタジオに入ったとき、それまで聴いたこともないような音が出ていたんだ。僕にとってスタジオはソーシャルな場になったりならなかったりする場所でさ。いろんな人に来てもらって、好き勝手にやってほしいときもあれば、逆のときもある。今回は、ごく親しい人たちだけ傍にいてほしかったんだよね」。

BLEACHERS 『everyone for ten minutes』 Dirty Hit(2026)

 アルバムからのリード・ソングを聴く時点で、ジャックのそうした意向は感じることができた。まず2月に発表された“you and forever”はバッキングのギターが熱を高めていくロック・ナンバー。最後のコーラスでの、嵐の如きサックスを含む激しい演奏が強烈なカタルシスを生んでいる。音楽ビジネスへの違和感を明かしつつ、〈バンド〉へのオプティミスティックな信頼を歌った3月の軽妙なカントリー“dirty wedding dress”を挟み、とりわけリスナーを驚かせたのが4月に発表された“the van”だ。70年代の活動で知られるヴォーカル・グループ、ブルー・マジックの“Just Don’t Want To Be Lonely”をサンプリングしたメロウなソウルで、グランド・ロイヤル的なストリート感覚にもグッとくる。

 「“the van”は、バンドのツアーを扱ったカジュアルな曲だけど、それと同時に僕の人生全体、どういう経緯でいまの生業に辿り着いたのかも歌っている。ちなみに、ジャック・アントノフらブリーチャーズの面々が貢献した近年の作品はこんな感じ!!サンプリングを思い付いたのはマイキーなんだ」。

 “the van”を含め、ジャック以外のメンバーが曲作りに貢献しているのも本作の特徴。4曲目のリード・ソングとなったロマンティックなバラード“i’m not joking”とレイジーなギターが特徴のエレクトロ・ポップ“we should talk”は、6人全員が作曲に名を連ねた。この2曲は「完全に生演奏のジャムから生まれた」という。また、ジャックとマイキーが共作した「ゴスペルみたいなオルガン・イントロ」の“take you out tonight”は無我夢中でダンスするためのパーティー・チューンだ。

 同時に、前作で強く出ていたリリカルなメランコリアは今回も差し色となっていて、ウォーターボーイズ的なトラッド感の“i can’t believe you’re gone”、弾き語りを中心に編まれた“dancing”などがホーリーなムードを醸造。ジャックがこれまでたびたびモチーフにしてきた、若くして亡くなった妹へ向けた哀悼の想い、さらに遺されたものがどう生きるかというテーマも垣間見える。

 そしてラストは、小気味良く爪弾かれるバンジョーとスペーシーなシンセがアップリフティングな“upstairs at els”。この〈els〉とは本作も含めてジャックが好んで録音に使っており、以前バンドがルーフトップ・パフォーマンスも行ったエレクトリック・レディ・スタジオのこと。〈屋上で酒を酌み交わしている僕と仲間たち〉を描き、ローラ・シスクやオリ・ジェイコブズらエンジニア陣の名も呼びつつ、〈君は一人じゃない〉と宣言するこの曲は、ブリーチャーズ自体はもちろん、リスナーそれぞれにとっての気の置けない共同体を讃えるものだろう。余韻を残しすぎず、パッと終わるところも、依存することなく最高の瞬間を共有するだけの快い関係性を表しているようだ

 「これは〈無敵感〉があるよね。ショウのなかで絶好調な瞬間を最初から捉えている曲だと思う。いまの僕らには、次のフェーズに行くためのドアを蹴破っている感覚があってさ。実際、世界を見ても、いま何かの終わりであることは間違いなくて、次に何が起こるのかわからない時代だ。意見が一致しないこともたくさんあるだろう。でも、自分の時間や夢を億万長者にマネタイズされることには、たぶんすべての人が反対していると思う。それが僕にとっては大きな希望さ。〈よし、ドアを蹴破ってやろうじゃないか〉という気分にさせてくれるんだ」。  

ブリーチャーズの作品。
左から、2024年作『Bleachers』(Dirty Hit)、2021年作『Take The Sadness Out Of Saturday Night』、2017年作『Gone Now』、2014年作『Strange Desire』(すべてRCA)

ブリーチャーズのライヴ盤。
左から、『Live At Bowery Ballroom, NYC: Songline』(Dirty Hit)、『Live At Electric Lady』(RCA)

 

ジャック・アントノフらブリーチャーズの面々が貢献した近年の作品はこんな感じ!!

 ここでは、2024年の『Bleachers』以降に、ブリーチャーズのメンバーが制作に参加した作品の一部を並べた。ケンドリック・ラマーやサブリナ・カーペンターなどジャック・アントノフの仕事については言及されることも多いので説明を省くが、彼が関与する大半の作品でブリーチャーズの他の面々も演奏していることは、このバンドの創造的な関係性の証左だろう。なお今後のジャック仕事としては、ケルシー・ルーの新作『So Help Me God』を共同プロデュースしており、クラシックの素養を持つ才媛と彼がどんな化学反応を起こしているのかが楽しみだ。

 マイキー・フリーダム・ハートも最近めざましい活躍を見せており、しかもビッグ・クラウン印のソウルからメロディアスなエレクトロ、ガレージ・ロックまで作品の幅は(もしかしたらジャック以上に)広い。そのなかで彼の記名性といえばサイケなポップセンスになるだろうか。また、エヴァン・スミスはルシウスの最新作にフルート奏者として参加していた。今後さらに多くの作品で〈ブリーチャー〉たちを見ることになるような気もするが、はたして。

左から、ケンドリック・ラマーの2024年作『GNX』(Interscope)、バーティーズ・ストレンジの2025年作『Horror』(4AD)、マレン・モリスの2025年作『D R E A M S I C L E』(Columbia)、サブリナ・カーペンターの2025年作『Man’s Best Friend』(Island)、ドージャ・キャットの2025年作『Vie』(Kemosabe/RCA)、6月12日にリリースされるケルシー・ルーのニュー・アルバム『So Help Me God』(Dirty Hit)、ホーマーの2024年作『Ensatina』(Big Crown)、ポーター・ロビンソンの2024年作『SMILE! :D』(Mom+Bop)、ハリマの2025年作『SWEET TOOTH』(Drink Sum Wtr)、トゥゲザー・パンゲアの2026年作『Eat Myself』(Nettwerk)、ルシウスの2025年作『Lucius』(Wildewoman Music/Fantasy)