Page 2 / 3 1ページ目から読む

終わりのなかでの大きな希望

 そうジャックが話すように、このたびリリースされた5作目にあたる『everyone for ten minutes』では、『Bleachers』で見られた豪華シンガーなどのゲスト参加は皆無で、基本的にはメンバー6人による歌と演奏のみ。これまで以上にバンド感を出した一枚だ。

 「前作のツアーが終わってスタジオに入ったとき、それまで聴いたこともないような音が出ていたんだ。僕にとってスタジオはソーシャルな場になったりならなかったりする場所でさ。いろんな人に来てもらって、好き勝手にやってほしいときもあれば、逆のときもある。今回は、ごく親しい人たちだけ傍にいてほしかったんだよね」。

BLEACHERS 『everyone for ten minutes』 Dirty Hit(2026)

 アルバムからのリード・ソングを聴く時点で、ジャックのそうした意向は感じることができた。まず2月に発表された“you and forever”はバッキングのギターが熱を高めていくロック・ナンバー。最後のコーラスでの、嵐の如きサックスを含む激しい演奏が強烈なカタルシスを生んでいる。音楽ビジネスへの違和感を明かしつつ、〈バンド〉へのオプティミスティックな信頼を歌った3月の軽妙なカントリー“dirty wedding dress”を挟み、とりわけリスナーを驚かせたのが4月に発表された“the van”だ。70年代の活動で知られるヴォーカル・グループ、ブルー・マジックの“Just Don’t Want To Be Lonely”をサンプリングしたメロウなソウルで、グランド・ロイヤル的なストリート感覚にもグッとくる。

 「“the van”は、バンドのツアーを扱ったカジュアルな曲だけど、それと同時に僕の人生全体、どういう経緯でいまの生業に辿り着いたのかも歌っている。ちなみに、ジャック・アントノフらブリーチャーズの面々が貢献した近年の作品はこんな感じ!!サンプリングを思い付いたのはマイキーなんだ」。

 “the van”を含め、ジャック以外のメンバーが曲作りに貢献しているのも本作の特徴。4曲目のリード・ソングとなったロマンティックなバラード“i’m not joking”とレイジーなギターが特徴のエレクトロ・ポップ“we should talk”は、6人全員が作曲に名を連ねた。この2曲は「完全に生演奏のジャムから生まれた」という。また、ジャックとマイキーが共作した「ゴスペルみたいなオルガン・イントロ」の“take you out tonight”は無我夢中でダンスするためのパーティー・チューンだ。

 同時に、前作で強く出ていたリリカルなメランコリアは今回も差し色となっていて、ウォーターボーイズ的なトラッド感の“i can’t believe you’re gone”、弾き語りを中心に編まれた“dancing”などがホーリーなムードを醸造。ジャックがこれまでたびたびモチーフにしてきた、若くして亡くなった妹へ向けた哀悼の想い、さらに遺されたものがどう生きるかというテーマも垣間見える。

 そしてラストは、小気味良く爪弾かれるバンジョーとスペーシーなシンセがアップリフティングな“upstairs at els”。この〈els〉とは本作も含めてジャックが好んで録音に使っており、以前バンドがルーフトップ・パフォーマンスも行ったエレクトリック・レディ・スタジオのこと。〈屋上で酒を酌み交わしている僕と仲間たち〉を描き、ローラ・シスクやオリ・ジェイコブズらエンジニア陣の名も呼びつつ、〈君は一人じゃない〉と宣言するこの曲は、ブリーチャーズ自体はもちろん、リスナーそれぞれにとっての気の置けない共同体を讃えるものだろう。余韻を残しすぎず、パッと終わるところも、依存することなく最高の瞬間を共有するだけの快い関係性を表しているようだ

 「これは〈無敵感〉があるよね。ショウのなかで絶好調な瞬間を最初から捉えている曲だと思う。いまの僕らには、次のフェーズに行くためのドアを蹴破っている感覚があってさ。実際、世界を見ても、いま何かの終わりであることは間違いなくて、次に何が起こるのかわからない時代だ。意見が一致しないこともたくさんあるだろう。でも、自分の時間や夢を億万長者にマネタイズされることには、たぶんすべての人が反対していると思う。それが僕にとっては大きな希望さ。〈よし、ドアを蹴破ってやろうじゃないか〉という気分にさせてくれるんだ」。  

ブリーチャーズの作品。
左から、2024年作『Bleachers』(Dirty Hit)、2021年作『Take The Sadness Out Of Saturday Night』、2017年作『Gone Now』、2014年作『Strange Desire』(すべてRCA)

ブリーチャーズのライヴ盤。
左から、『Live At Bowery Ballroom, NYC: Songline』(Dirty Hit)、『Live At Electric Lady』(RCA)