(左から)佐藤優介、佐藤奈々子、白井良明

岡田徹(はちみつぱい/ムーンライダーズ)のトリビュートアルバム『Adventures in Modern Recording by TOHRU OKADA』がリリースされた。2023年に亡くなった岡田の曲を女性ボーカリストがカバーした本作には、野宮真貴、佐藤奈々子、野田幹子、CHAKA(ex-PSY・S)、Nav Katzeといった岡田やムーンライダーズと関わりが深いアーティストたちが名を連ねている。さらに、三浦透子、3776、姫乃たまなど、多彩な歌い手も参加。鈴木慶一、武川雅寛、白井良明、鈴木博文、夏秋文尚や澤部渡(スカート)、佐藤優介(想像力の血)というムーンライダーズのメンバーや現在のサポートメンバー、さらに岡田のソロユニットであるLife Goes On、ya-to-i(山本精一)、CTO LAB.のメンバーも演奏やアレンジを担当している。

そんな豪華なアルバムのリリースを記念し、Mikikiは白井良明、佐藤奈々子、佐藤優介の鼎談を実施。ライター松永良平(リズム&ペンシル)を聞き手に、岡田との思い出やトリビュートの録音について語り合ってもらった。 *Mikiki編集部

VARIOUS ARTISTS 『Adventures in Modern Recording by TOHRU OKADA』 Headland(2026)

 

幻の名曲“ジャック・フロスト”の衝撃

──岡田徹さんとのご縁というと、やはり白井さんが圧倒的に長いですよね。

白井良明「そうですね。出会ったのはムーンライダーズ以前で、僕が18歳の時ですから。入学した立教大学の音楽サークル〈OPUS〉での出会いです。プロの登竜門的なクラブだって噂だったんです。でも、入部してみたら、はっぴいえんどやアメリカンロック みたいな音楽を僕はやりたかったのに、周りはレッド・ツェッペリンや普通のフォークソングをやってる連中が多かった。そのなかで岡田くんに出会ったんです。

集会室Bという部屋で、彼が〈OPUS〉内で幻の名曲と呼ばれていた“ジャック・フロスト”を弾いてたんですよ。知らないですよね? 岡田くんが当時歌っていたオリジナル曲なんですよ。その曲に感動して話しかけたことがきっかけで岡田くんと仲良くなって、一緒にライブもやるようになりました。渡辺勝を誘って渋谷にあったジァンジァンに出たり、(斉藤)哲夫のバックを2人でやったりしてました」

──1972、1973年くらいの話ですね。

白井「そうですね。でも、それから岡田くんとは哲夫のバックをしばらく一緒にやってたんだけど、時々彼が来なくなって、結局辞めちゃったんだよ。はちみつぱいに誘われたんだよね。もともと岡田くんはそっちに行きたかったんだ。

残った僕は哲夫と2人でやるようになった。そこからは僕がムーンライダーズに加入するまで、岡田くんとは何年間か会ってない。でも、そこで再会してからは長い付き合いが始まるわけです」

──岡田さんは白井さんより先輩だし、年齢も上ですよね。

白井「彼は5歳上。でも、そういうギャップは全然無かったですね。知り合った頃は僕が18歳で世間知らずだったから、誰に対してもぐいぐいいけたのかもしれないけどね。岡田くんは、その後の音楽やいろんな人のプロデュースとかしていてもそうだけど、吸収がいいじゃないですか」

──包容力みたいなことですかね。

佐藤奈々子「徹さんは誰に対しても年齢とか関係なかったよね」

 

岡田徹が発していた〈ラブ〉

──佐藤奈々子さんの岡田さんとの出会いは?

奈々子「私は、徹さんと1対1ではなくて、ムーンライダーズのみんなと一緒に出会ったんです」

白井「S・P・Y(80年代に佐藤奈々子が参加したテクノポップユニット)で一緒にやってなかったっけ?」

奈々子「あの時は徹さん、レコーディングでキーボードを手伝ってくれたの」

──奈々子さんがライダーズで初めて歌詞を書いたのは、『MODERN MUSIC』(1979年)の“鬼火”です。

奈々子「でも、その前くらいからもう仲良くなっていました。初めての共演で覚えてるのは、旭化成の〈ベンベルグ〉っていう下着のCM曲。童謡の“ちょうちょ”をライダーズとロックでやりましょうという企画でした。覚えてない?」

白井「全然覚えてない(笑)」

奈々子「大好きなバンドだったので、CMの仕事が来た時は〈えー? あのムーンライダーズと?〉って感じでした(笑)。それから(鈴木)慶一くんと仲良しになって、〈歌詞書いて〉〈コーラスして〉みたいに頼まれるようになって、いろんなこと一緒にやるようになったんです」

──そんななかでの岡田さんとの思い出といえば?

奈々子「私が仲良くしてた頃のライダーズって、みんなが青春で、みんなが恋をしてるような時期でした。徹さんもすごくラブを発散してる感じがしてた。今回、私がトリビュート盤で歌った“週末の恋人”も、歌詞はフーちゃん(鈴木博文)だけど、あの時代の徹さんのライダーズのラブみたいなものをメロディやアレンジで全開にしてたと思います」

──岡田さんの曲って、歌詞を書く側の人がすごくロマンチックになる。そこを誘発してるようなところがありますよね。

奈々子「“Kのトランク”(佐藤奈々子作詞、岡田徹作曲)は歌詞は先だったっけ?」

白井「あれが入ってる『MANIA MANIERA』(1982年)の時は、奈々子さんに歌詞を4つくらい先に頼んだんだよね。そういう実験だったんじゃないかな」

 

クレバーで上品、信念を感じる作曲

──『It’s the moooonriders』(2022年)に入っている“三叉路のふたり”は岡田徹さんと嶋崎洋司さんの作曲で、歌詞はスカートの澤部渡くん。澤部くんに話を聞いたんですが、岡田さんから渡されたデモの時点で、メロディラインに合わせて入ってる岡田さんの仮歌ハミングに、実はモチーフとなる言葉が時々紛れ込んでるって。

白井「昔から、ヒントのワンフレーズはあったね。仮歌のなかのメロディに〈さよなら〉って入ってたりね。岡田くんの曲では、それを元に歌詞を作っていく作業をライダーズではしていた記憶はありますね」

──そうか、“さよならは夜明けの夢に”の〈さよなら〉はすでに岡田さんが提示していた。

白井「岡田くんの曲の作り方としては、ポップスの王道で攻めるというかね。エレクトロポップにすごくこだわっているし、メロディのパーツとパーツの組み合わせ方がすごくクレバーなんだ。それに、できあがるまで自分で作った曲を一日中聴いてるんだよ。すごい努力家。どれをどう組み合わせるかをずっと考えてた。“ジャック・フロスト”を初めて聴いた時もそうだったけど、どこか上品で洗練された感じが常にある。

“さよならは夜明けの夢に”でもすごくキレイな転調をする。自然なんだよね。それがエレクトロポップの時代になっても変わらないし、聴いた人がはっきり感じるところなんだよ。自分を信じて作ってるんだろうね」

 

明け方4時の電話

──佐藤優介くんは年齢的には、このなかでは一番最後に岡田さんと出会っているわけですが、ライダーズとしてはキーボードの後任でもあるし、晩年に関わった度合いは深い。

佐藤優介「ずっとライダーズのファンでしたけど、岡田さんと直に会ったのは10年くらい前です。当時やっていたカメラ=万年筆というバンドのアルバム『The Old Angel』(2013年)を奈々子さんとのコラボレーションで作ろうということになり、奈々子さんの家で打ち合わせをしていたら、〈岡田さんをうちに呼ぼう〉と言ってくださって。その時点で慶一さんとは面識があったんですが、岡田さんとは〈初めまして〉でした」

白井「その印象は? コロっとしてるな、とか、かわいいな、とか(笑)」

優介「いやー、すごい緊張しました。でも、奈々子さんに対してもそうだったと思うんですけど、上から目線とかは全然なくて、友達みたいに接してくださって。いい意味で、すごく子供っぽい」

奈々子「レコーディングにも徹くん、毎日のように来てくれてね。私と優介くんたちが作業のなかで難しい雰囲気になる場面もあったんだけど、そういう時に徹くんが〈いいからいいから、どうどうどう〉みたいに収めてくれたりした(笑)。徹くんも優介くんの演奏を〈いいね、素晴らしいね〉みたいに見てたよね。あれからすごく2人は仲良しになったんだよね」

優介「そうですね。夜中の4時くらいに電話がかかってくるんです(笑)」

白井「プリンスみたいだね(笑)!」

優介「夜中に突然ですからね。内容は本当にたわいもないんですけど(笑)」

白井「岡田くんと親しくなったから、ライダーズの曲のキーボードにも詳しくなったの?」

優介「それ以前からずっとファンでしたし、(体調を崩した岡田のサポートとして)ライダーズでも一緒に演奏できるようになってすごくうれしかったのも覚えてますね。

でも、僕は全然岡田さんの後継とかじゃないんですよ。やっぱり岡田さんの曲作りや演奏のセンスって真似できないんです。そもそもオリジナルの6人が好きすぎるので、自分も含めてサポートが入ってるライダーズは、俺は認めてないです(笑)。まあ、今はそのなかで自分なりにできることを探してる感じですね」

 

効率的に〈手を抜く〉岡田徹メソッド

──でも自分なりに感じ取った岡田徹メソッドってあるのでは?

優介「あー、一番明確に影響を受けたのは、いかに手を抜くか(笑)」

白井&奈々子「(笑)」

優介「手を抜く、と言ったらアレですけど……、良明さんは分かりますよね?」

白井「わかるわかる。譜面を全部再現するんじゃなくて、様子を見ていくというかね。参加した人たちがどういうプレイをするか、それを自然に見てとる感覚だよね」

優介「それに加えて、プロデューサー目線というか、効率をすごく考えているんです。プレイヤーとして細部にこだわるとすごく時間がかかっていくんですけど、岡田さんはそこで〈もういいんだ。これはこれでいいから次に行こう〉となる。その決断の早さですよね。

シンセの音色も岡田さんはプリセット(機材にあらかじめ内蔵された音)をすごく多用するんですよ。僕は岡田さんと出会う前はプリセットは絶対に使わず、自分で音色をいじるのがシンセの醍醐味だと思ってたんですが、岡田さんは迷わず、出た音を使う。そこで生まれる音の強さってあるんです。そこはすごく影響を受けたなと思いますね」

──めちゃめちゃ良い意味で〈手を抜く〉。なるほど。

白井「でも(優介は)すごいよ。いきなり岡田くんと同じ音色やフレーズが出てくるって、なかなかできることじゃない。まあ〈これが優介だ!〉ってのがそろそろ出てくるんだろうけど」

 

CHAKAはいつも疾風のよう

──そろそろ今回のトリビュートアルバムの話に移りますが、このアイデア自体は、岡田さんの娘さんでミュージシャンの岡田紫苑さんから。2024年の末から企画がスタートしたそうです。ライダーズのみなさんが参加すること、ボーカルは全曲女性シンガーにすることが骨子となっていったなかで、ここにいるみなさんにもオファーが届いたということですね。まずは女性シンガーである奈々子さんにお聞きします。このお話はどういうふうに受け止められました?

奈々子「うれしかったです。徹さんも喜んでくれたらうれしいなと思いました。曲は“週末の恋人”か“さよならは夜明けの夢に”がいいですと希望を出したら、“週末の恋人”に決まりました。しかも優介くんと一緒にと言われたから、やった!って感じでした(笑)。フーちゃんもベースで入ってくれることになって」

白井「すごくいいテイクだよね」

奈々子「ピアノが素晴らしいでしょう? 3人ともリモートでデータを送りながらレコーディングしたんだけど、最初に優介くんのピアノが送られてきて、それを聴いて〈うわー〉って思った」

白井「最初に聴いた時、マリアンヌ・フェイスフルみたいだって思った。もちろん奈々子ちゃんの世界なんだけど、すごく落ち着いたトーンでいいよね」

──白井さんはCHAKAさんと“(チロリンの)星に願いを”。

白井「これは曲と歌い手の組み合わせが最初から決まってたんです。彼女とやり取りして、キーを決めたり、デモを軽く作ったりして、お互いに好きにやった感じ。ローチェスみたいにやりたいと思ってやってたら、あんな感じになった。CHAKAはPSY・Sの頃からよく知ってるけど、いつも疾風のようでね。ものすごく気持ちがいい。非常に楽しいレコーディングでした」

 

岡田徹が呼び戻した音楽家たち

──トリビュート盤で、他にもみなさんにとって印象的だった曲も知りたいです。

奈々子「野宮真貴ちゃん、よかったな」

白井「“ビューティコンテスト”ね。鈴木慶一さんのテクノパワーが出たね。全体的に見て、僕はどの曲もすごくよかった。若い人たちが岡田くんのエレクトロポップを継承して、リスペクトを持って演奏していることに、ちょっとウルッときましたね。亡くなっちゃったけど岡田くん、幸せだなと」

奈々子「うれしそうな徹さんが目に浮かびます」

優介「僕も、徹さんってメロディメイカーだなってすごく思いました。PSY・Sがすごく好きなんで、CHAKAさんは最近はジャズを歌っているので、こういうポップな曲では久しぶりに聴きました。Nav Katzeもすごく好きなので、こちらも久々の新録音での“いとこ同士”はすごくよかった」

白井「ユーリズミックスみたいだったよね」

優介「暗いトーンで、かっこよくて」

──企画者サイドからは〈構成は原曲通りでお願いします〉というリクエスト以外は、みなさんに自由にやっていただいたとのことでした。

優介「CHAKAさんにしても、Nav Katzeにしても、岡田さんが呼び戻したというか、そういう方々が岡田さんのための企画で戻ってきてくれたのはすごくうれしかった」

 

王道って実は過激

──新しいテクノロジーを求める人はエッジーな方向に行きがちですが、岡田さんの曲にはそことは違うポップさがありますよね。楽曲がロマンチックだし、包容力もある。

白井「ライダーズはエッジマンが多いからね。岡田くんもポップの王道を確保するのに苦労したんじゃないかな(笑)。でもさ、王道って実は結構過激なんだよね。大滝(詠一)さんもそうじゃない?」

奈々子「ロサンジェルスでS・P・Yのレコーディングした時も楽しかった。あと、徹さんは私の息子、jan(GREAT3)をとてもかわいがってくれた。優介くんへの接し方と似てるのかもしれない。夜中の電話もかかってきてたし(笑)。〈jan、jan〉って子犬のようにかわいがってくれたし、〈またレコーディングしよう〉とか、いつも気にしてくれてた(笑)。かわいかったです、うん」

優介「そういえば、僕と岡田さんと2人でユニットをやろう、って話があったんですよ。名前も決めて発表してました。TOYSっていうんですけど」

──TOYS?

優介「岡田徹のTOと、佐藤優介のYSで、TOYSです。先にロゴも作ってました。岡田さんはビジュアルから入るのが好きだったから(笑)。デモもいろいろ岡田さんからもらっていたし、その何曲かはライダーズに還元してるんですけど。

……そうですねえ、夜中の電話もそうだけど、大先輩なのに友達みたいに接してくれる。それがすごくうれしかったですね。あとは、良明さんもおっしゃってましたけど、王道だけど過激というのは本当にそう。王道ポップだけど、転調にせよ、アレンジにせよ、実はすごく難しいことの積み重ねになってるじゃないですか。そこはやっぱり真似できないですね。ポップなものと過激なものが両立してるというか。そこがすごく岡田さんのセンスだなと思います」

白井「楽しい思い出はたくさんありますね。でも、最初の“ジャック・フロスト”の印象は大きいね」

奈々子「ねえ、その“ジャック・フロスト”という曲は、何かのかたちで残ってるの?」

白井「残ってないんだよ。サビは覚えてるんだけどね。〈ジャ~ック・フロスト、愛は不変だと思うかい♪〉ってところだけ。部員しか知らないんだけど、(同時期にサークルにいた)くじらくん(武川雅寛)は覚えてるかもしれない……。ビートルズからウッドストック系、はっぴいえんどに至る渦中から生まれたような曲で、びっくりしてね。ピアノがキラキラと輝いてたよ(笑)」

奈々子「今覚えてるところだけでも元にして曲にしたら、徹さん、戻って来るかも」

白井「そうかもしれないね(笑)」

 


RELEASE INFORMATION

VARIOUS ARTISTS 『Adventures in Modern Recording by TOHRU OKADA』 Headland(2026)

リリース日:2026年4月23日(木)
品番:HEAD-0001
仕様:CD
解説:小暮秀夫
定価:3,520円(税込)

TRACKLIST
1. ウェディング・ソング/岩下清香 with ROSE-UNLIMITED
2. Try Again/野田幹子 with 武川雅寛、夏秋文尚
3. 週末の恋人/佐藤奈々子 with 鈴木博文、佐藤優介
4. さよならは夜明けの夢に/姫乃たま with 山本精一
5. ビューティコンテスト/野宮真貴 with 鈴木慶一
6. いとこ同士/Nav Katze(ナーヴ・カッツェ)
7. いつの日か Happy End/島崎夏美(チロリン)with CTO LAB.
8. Good Nightは嫌い/3776
9.(チロリンの)星に願いを/CHAKA with 白井良明
10. 9月の海はクラゲの海/覚和歌子 with Life Goes On
11. 途中にしてね/テノリエリ with 黒田英明
12. 涙は悲しさだけで、出来てるんじゃない/Pyokn
13. 硝子MOON/ジーニアス
14. 空の名前/三浦透子 with 澤部渡(スカート)

 

3776 『Good Nightは嫌い』 なりすレコード(2026)

発売日:2026年4月18日(土)
品番:NARO-3776
仕様:7インチ 45回転
ジャケットイラスト:森伸之描き下ろし
定価:2,200円(税込)

TRACKLIST
SIDE A:Good Nightは嫌い
SIDE B:MR.SUNSHINE (3x7x7x6 Edit)

 

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