Photo by Satoshi Nagare

〈AMBIENT KYOTO - TOKYO〉が2026年10月25日(日)まで東京・麻布台ヒルズギャラリーで開催中だ。坂本龍一と高谷史郎による作品「async - immersion」を幅26.4mの巨大スクリーンと会場に合わせて構築した立体音響で体験できるのは〈AMBIENT KYOTO 2023〉以来初。〈AMBIENT KYOTO〉自体、東京で開催されるのが初で、すでに大きな話題になっている。今回は音楽評論家・松山晋也に過去2回の〈AMBIENT KYOTO〉および〈AMBIENT KYOTO - TOKYO〉について綴ってもらった。 *Mikiki編集部


 

観客から感嘆の声があがる立体音響の迫力と完成度

2023年に大きな反響を巻き起こした〈アンビエント〉をテーマにした〈音〉と〈アート〉、そして〈空間〉による展覧会〈AMBIENT KYOTO〉が、8月末から10月25日まで東京の麻布台ヒルズギャラリーで開催されている。〈AMBIENT KYOTO - TOKYO〉なるネーミングからは、このイベントのコンセプトが京都という街から生まれたものであり、今回はそのスピンオフとしての東京版であるという企画・主催者の思いが伝わってくる。今回の展示作品は、京都のプログラムの目玉だった坂本龍一+高谷史郎のインスタレーションワーク「async – immersion」のみだが、横幅26.4メートルの超巨大スクリーン+37台のスピーカーを用いた立体音響の迫力と完成度には、展覧会初日から観客の感嘆の声が続々とあがっている。私も開幕日直前の内覧会で体験させてもらった。

 

Photo by Satoshi Nagare

〈AMBIENT KYOTO〉の研ぎ澄まされた空間を再現できるのか?

音、アート、空間の関係と調和を探る新しい試みとして〈AMBIENT KYOTO〉第1回の〈BRIAN ENO AMBIENT KYOTO〉が開催されたのはコロナ禍真っ最中の2022年だった。その好評を受けて開催された第2回の〈AMBIENT KYOTO 2023〉では、一気に規模が拡大する。坂本龍一の最高到達点とも言うべき2017年のアルバム『async』のサウンドと高谷史郎が撮影した映像が一体化した「async – immersion」の他にもCorneliusや山本精一、Buffalo Daughterが音+映像+光にミストや香りなども駆使したインスタレーションをそれぞれ制作し、更にCornelius、テリー・ライリーのライブ、小説家・朝吹真理子による朗読作品まで加わって、〈アンビエント〉というイーノ発のニューコンセプトに対する解釈と探究が深化した。そのプログラム中でもとりわけ大きな話題となった「async - immersion」の東京版が今回の展示作品というわけだが、実はこのニュースを耳にした時、〈AMBIENT KYOTO〉の体験者である私は一抹の不安を感じた。同じスケールではあっても、果たして、あの研ぎ澄まされた空間をそのまま再現できるのだろうか?と。

坂本龍一の死の約半年後、京都での「async - immersion」の会場として使われたのは、京都新聞社の地下印刷工場跡の巨大空間だった。インクや機械油の匂いがコンクリート壁に染みつき、膨大な記憶と時間が刻み込まれたそこは一種の冷凍庫であり、廃墟のようなたたたずまい自体が異様な妖気と物語性を孕んでいる。自然音やノイズ、ナレイションなども飲み込んだ超/脱西洋音楽的コラールとでも言うべき坂本の美しくも峻厳な音楽/音響。空や雲、水の波紋、アイルランドやモロッコの風景、東日本大震災の津波で被災したピアノなどを撮影した高谷のイマジネイティブな映像。それらが冥界的空間でけっして同期することなくランダムに循環し一体化してゆく一瞬一瞬、アンビエントという概念が拡張、更新されていくように私は感じたのだった。そして、あのとてつもない甘美さ、寂寥感、夢幻性は京都のあの空間だけのものであり、他の場所では生まれえないだろうと思ったのはけっして私だけではなかったはずだ。

 

Photo by Satoshi Nagare

東京会場ならではの音響設計と没入感

今回の東京会場となった麻布台ヒルズギャラリーは、白い壁と天井と床だけのプレーン空間、いわゆるホワイトキューブだ。そこにはなんの記憶も匂いも物語もない。しかし、作品の最大の要である立体音響をつかさどるサウンドプロデューサーは、京都と同じZAKである。晩年の坂本の活動にずっと寄り添い、『async』という作品に込められた坂本の理念や夢に関しても誰よりも深く理解している彼は、果たして、この素っ気ない空間で、京都とはまた違う新たなアンビエント空間を見事に創出しているのだった。坂本は元々『async』を〈彫刻作品のごとく、空間に音を立体的に設置する〉というコンセプトの〈設置音楽〉として構想・制作したというが、ZAKはそのコンセプトに改めて虚心で向き合い、プレーン&クリアな空間の特性を生かす形でひとつひとつの音の輪郭や襞をより鮮明に体感できるような音響設計をしているのだ。様々な物語性を伴わないまっさらな空間だからこそ、坂本が意図した〈設置音楽〉としての可能性が最大限に引き出されたとも言えよう。

作品名にある〈immersion〉とは〈没入感〉を意味するが、東京での〈immersion〉は京都のそれとは、確かに違っている。そして、『async』の生命体としての脈動を改めて実感させてもくれる。会場を出た後、私の目に映る街の風景はちょっと変わっていた。

 


EXHIBITION INFORMATION
RYUICHI SAKAMOTO + SHIRO TAKATANI
AMBIENT KYOTO - TOKYO

会期:2026年8月28日(金)~2026年10月25日(日)/無休・59日間の開催
会場:麻布台ヒルズギャラリー
開館時間:平日 10:00~19:00/土・日曜・祝日 10:00~20:00(最終入館は閉館の30分前) ※9月11日(金)のみ18:00閉館。その他最新情報は、公式ウェブサイト、各種SNSにて随時お知らせします
アーティスト:坂本龍一+高谷史郎
観覧料:平日 大人 2,500円(当日)/土・日曜・祝日 大人 2,800円(当日) ※高校生以下・障害者手帳をお持ちの方(付き添いの方1名含む)は無料
主催:AMBIENT KYOTO実行委員会(TOW/Traffic)
Official Website:https://ambientkyoto.com/
X:https://x.com/ambientkyoto
Instagram:https://www.instagram.com/ambientkyoto
Facebook:https://www.facebook.com/ambientkyoto