グルーヴ・コンシャスな志向性を深めているトリオの過去と現在、そして未来への架け橋となる新曲群。メロウな夜を抜け出した先に、物語はまだまだ続いていて――
90年代の一時代をアップデート
スフィアン・スティーヴンスやワイ?に代表されるポスト・ロック以降のUSインディーとはっぴいえんど以降のフォーク・ロックからエキゾ音楽に至る70年代の邦楽の流れを融合させた初作『WORLD RECORD』から、80年代のニューウェイヴ、ミュータント・ディスコにインスピレーションを得たドメスティックなエキゾ音楽の発展形である2作目『My Lost City』へ。そして、同時多発的に起こる出来事をピックアップしながら架空の街の地図を描くところから、その街を壊し、水浸しの風景のなか、時間軸に沿って進んでゆく箱船に象徴される神話的なストーリー・テリングへ――。サウンド/歌詞の両面において、劇的な進化を重ねてきたcero。昨年12月にリリースされたシングル“Yellow Magus”においては、その船の座礁から砂漠の物語を展開しながら、音楽的にはネオ・ソウル以降のブラック・ミュージックを素地に、日本人的な感性を介在させたエキゾ音楽のさらなる発展形を模索してみせた彼らが、1年ぶりとなるニュー・シングル『Orphans/夜去』を完成させた。
「2014年はライヴを重ねながら、曲作りに没頭した1年でした。多くのバンドがそうだと思うんですけど、セカンドあたりで曲のストックを使い切った後、サードに向けて、イチから構築していくタームに入っていくなかで、僕らも何回かに分けて、合宿という形でまとまった数の曲を作っては、それをライヴで実践して叩き上げていくという、そんな活動の流れでしたね」(高城晶平、ヴォーカル/ギター/フルート)。
そんななかから生まれた“Orphans”は、高城晶平と荒内佑がブラック・ミュージックへの傾倒を深めていくなかで、エンジニアも担当し、一歩引いた立ち位置からceroを支えてきた橋本翼(ギター/クラリネット)が初めてコンポーザーとしてソングライティングを手掛けた一曲だ。彼のポップスに対する感性が洗練された形で練り込まれたこの楽曲は、厚海義朗(ベース)と光永渉(ドラムス)というリズム隊のサポートを得て、グルーヴ・コンシャスな作品制作を深めている現在と過去のceroとの重要な架け橋となる、ミッドテンポの甘酸っぱいポップ・ソウルだ。
「“Yellow Magus”の時に二人が作ってきた曲を通じて、そこまで馴染みがなかったブラック・ミュージックに触れたんですけど、低音を出すと上の音域が狭まるので、中音域を出すいままでの音作りとの辻褄が合わなくなってくるんですね。だから、“Orphans”では楽曲的にポップなものとディープなものを繋ぎつつ、音作りの面でも低音がガッツリ出ているけど、J-Pop的にも軽やかに響く音作りを意識しましたね(橋本)。
「僕らはレコーディング前に参考音源を聴き合ったりするんですけど、“Orphans”のJ-Pop感やアートワーク、音の質感を含めてUAの“ミルクティー”が下敷きになっているというか……ブラック・ミュージックとJ-Popが同居できていた90年代の短い一時代、その時代感のアップデートは今回の裏テーマになっているんです」(高城)。
もう1曲の表題曲“夜去”は、ファルセットを活かし、艶やかなメロウ・グルーヴ上でメロディーをうねらせながら、歌詞の技巧的な譜割によって、夜のその先へとスムースに誘ってゆくceroの新機軸が展開されている。
「“夜去”にもその片鱗が窺えると思うんですけど、新たに出来上がりつつある曲は、言葉が詰まってて、ラップと歌の中間を縫っていく表現が新しいんじゃないかと思っていて。その言葉には節がついているんだけど、その節も一聴して歌えるものではないというか。メロディーとリズム、そして譜割を含めた言葉の新しい関係性、そこから生まれるストーリー・テリングを模索しているところなんですよ。80年代にヒップホップの影響下にあった佐野元春さんがトライしていたことに通じるかもしれない」(荒内佑、キーボード/サンプラー/ベース)。