日本の皆さん、こんばんは。気がつけば当連載も2年目。どこで呑んだとか、なんのライヴを観に行ったとか、そんなのばっかですが、まとめて読み返してみたいですね。先月のことも覚えていないのに、2年前ともなれば歴史の授業のようです。

タイトルは、諸用で訪れたローマで遭遇したレストランの日本語メニューから(後半は最近読んだポール・オースターの文庫版あらすじから)。そのレストランはどうやら英語メニューもでたらめで、食事時の閑散とした雰囲気や火を通しすぎたカルボナーラなど、まあアレな感じだったんですが、ひとしきり笑ったので良し。他には〈より多くの石油やローズマリーをカット〉〈グリッドへのソリューション〉〈緑〉などがありました。もはや詩的で楽しめました。案外、在りし日の日本のアンダーグラウンド音楽もそんな感じだったのかもしれないですね。ラリーズなんか、これ、僕は本気で言ってると思うのですが、ボブ・ディランのつもりだったらしいですし。

 

ローマ。造幣局跡

 

 

ローマ。ホテル

 

帰国。
そして、この連載、ずっとツアー日記みたいになってるんですが、僕の当番の今月は1年ぶりくらいに目立ったツアーもライヴもない時期で、それで、音楽家は普段何をしているかというと、曲を書いているんですね。練習したり。研究したりもします。

その合間に散歩をするのですが、この間よく晴れた日に歩いたのは、前回のモンチャンの稿にもあるハックニー・マーシュでした。僕の家から少し東に歩いて、運河を下るとモンチャンの住む辺りにでるのです。

 

晴れた日の公園から丘を下って運河
湿地へ架ける橋
運河を駆ける人

 

意思に欠ける警告
その後、用事があったのでcafe otoへ。ゆうきくんが近所なので誘って一杯

 

ここと近所の墓地、アブニー・パークがいつもの散歩道です。歩いているとある種の瞑想状態に入ってアイディアを捕まえやすいようで、大切なことはたいてい散歩中に思いつきます。そういう意味で、ロンドンという都市の空気が音楽に反映されているかもしれません。東京を、パリを、ニューヨークを散歩したらまた違うものができるのでしょう。

 

 

 

アブニー・パークの入り口と道と教会

 

散歩と作曲と練習以外には、ライヴを観に行ったり。今月はcafe otoが豊作でしたが、かなり絞って、ジェイムズ・チャンスマーク・リーボー、そしてコルシカ・スタジオでオネイダ

ジェイムズ・チャンスは言わずと知れたあの人。高校の時に買ったコンピレーション『No New York』がなかったら今は音楽やっていないだろうな。それにしても、もうかなりおっさんなのに、しっかり70年代NY地下の空気をまとって現れたのには驚きました。というか、会場についたら彼が飛行機に乗り遅れたとかでざわついていて、本当に現れるのかわからない状態だったのですが。〈チャンスを逃した〉とか〈これが最後のチャンスかも〉というくだらないジョークが一晩だけ流行。

【参考動画】ブライアン・イーノが監修したノーウェイヴ史の萌芽となる78年のコンピ
『No New York』収録曲、ジェイムズ・チャンス&ザ・コントーションズ“Dish It Out”

 

マーク・リーボーは言わずと知れたあのギターの人。ラウンジ・リザーズで初めて知って、それ以来、ソロ作品やバンドものなどいろいろ聴きました。僕の目指すところの、ギターの一音が歴史(正史に限らず)の体現である状態や、森のような無指向性、と言ったコンセプトは彼の演奏からヒントを得たものです。

【参考動画】マーク・リーボー・セラミック・ドッグの2014年のライヴ映像

 

オネイダはクラウトロックと下世話なハード・ロックなんかをとりあえず混ぜてみたらギトギトして美味しかった。と言った感じの賑やかなロック・ギグで、革ジャンのおっさんたちの隙間から楽しみました。あまりに反復が多くて時間が伸び縮みした変な夜でした。

【参考動画】オネイダの2012年作『A List Of The Burning Mountains』収録曲
“A List Of The Burning Mountains - 1”

 

アルバム制作も、出口は見えなくとも順調であります。スタジオに行くたびに荷物が増えて困っていますが。マーク・リーボーのようにアコースティック・ギター一本っていうのにはかなりの憧れがありますね。

今月末のロンドン公演はおかげさまで両日ともソールドアウトいたしました。また一回り分厚くなり、しかも研ぎ澄まされたBO NINGENをお届けします。
時間、そして歴史はひとつの方向にだけ動いているわけではないかもしれません、しかし僕は音楽の未来を信じたい。音楽を聴くやり方はここ数年でだいぶ変わりましたが、でも変わらないものもあるはず。未来に素晴らしい音楽があるように。

 

スタジオのテラス。一見和やかだが、台風の目
自宅作業机の正面。砲兵隊に見つめられながら

 

PROFILE/BO NINGEN


Taigen Kawabe(ヴォーカル/ベース)、Kohhei Matsuda(ギター)、Yuki Tsujii(ギター)、Akihide Monna(ドラムス)から成る4人組。2006年、ロンドンのアートスクールに通っていたメンバーによって結成。2009年にアナログ/配信で発表した 『Koroshitai Kimochi EP』が現地で話題となり、UKツアーのみならず、日本盤の発表後は日本でのツアーも成功させる。2011年にミニ・アルバム『Henkan EP』、2枚目のフル・アルバム『Line The Wall』をリリース。〈フジロック〉やオーストラリアの〈Big Day Out〉、USの〈SXSW〉〈コーチェラ〉といった各国の大型フェスへ出演し、ますます注目を集めるなか、2014年に最新作『III』をドロップ。さらに、37分に及ぶ大曲となる盟友サヴェージズとの 共作シングル“Words To The Blind”(Stolen/Pop Noir)をリリースしている。そのほか最新情報はこちらへ!

【参考動画】BO NINGENの2014年作『III』収録曲“CC”