コラム

映画「グッド・ライ~いちばん優しい嘘~」 難民となったスーダンの兄弟の絆や異文化との出会いを描く、実話ベースの物語

2つの異なる世界の出会い~兄弟の絆から広がる心の絆

(C)2014 Black Label Media, LLC. All Rights Reserved.

 ある日、生まれ育った環境とまったくちがうところで暮らすことになったら、あなたはどうするだろう。なんとかそれまでの習慣を守ろうとするだろうか。それともできるだけ新しい環境や文化になじもうとするだろうか。映画『グッド・ライ~いちばん優しい嘘~』に登場するスーダンの子供たちは、二度にわたってその選択を迫られる。

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 最初は、第二次スーダン内戦(1983~2005)によって、家族や親戚が殺され、子供たちだけで村を離れ、ケニアの難民キャンプで暮らさなければならなくなったときだ。

 短い導入部の後、映画ではスーダンの小さな村の暮らしの回想がはじまる。その村を襲って住民や子供を無差別に殺す兵士たちと、村の平和な生活や自然の圧倒的な美しさとの対比が悲しくもやりきれない。しかもケニアを目指す旅の途中で、子供たちのリーダーだった長男テオは敵兵に拉致されてしまう。

 過酷な逃避行の末にカクマの難民キャンプにたどり着いた子供たちは、内戦が終わらないので帰る目処も立たない。各地から難民が集まる大規模なキャンプと、家族の愛情に包まれた故郷の伝統的な村は、われわれには同じアフリカに見えるかもしれないが、キャンプは村の子供たちには、未知の人々や言葉が行き交う世界でもある。しかし子供たちはその環境に適応することを学びながら、村で年長者から教わった価値観も忘れず、励まし合って成長していく。そして時が流れて13年後、国際機関のあっせんで、難民の第三国定住制度が適用され、マメール、ジェレマイア、ポール、アビタルの4人の兄妹はアメリカに旅立つ。

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 二度目の選択はそのアメリカで起こる。彼らにとって、アメリカはさらに遠い別世界だ。まず妹が兄弟と同じカンザスシティではなく、規約にしたがって遠く離れたボストンにきわめて事務的に引き離される。一方、カンザスシティで兄弟は、日本人からするとうらやましいくらい立派な家に案内されるが、最初の日、3人はベッドのマットレスを床に並べて眠る。映画は新天地での前途多難を予感させるそんなエピソードをあまり多くを説明せず淡々と積み重ねていく。

 新しい生活に慣れても、ジェレマイアは勤め先のスーパーでまだ食べられる食料品を廃棄する作業に耐えられない。マメールは逃避行での悲しい出来事のトラウマに苦しみ続ける。手先の器用なポールは怠け者の同僚にそそのかされて気力を失い、やり場のない不満を爆発させる。おまけに、スーダンをめぐる国際情勢や難民定住を支援する団体の杓子定規な対応が、彼らの望みの前に立ちはだかる。

 彼らをサポートする職業紹介所のキャリーは、最初のうち、なんでわたしがこの厄介な連中の担当なの、という表情を隠さない。彼女と兄弟たちの体験や思いの範囲のくいちがいが、いちいち悩みや笑いを誘う。しかし兄弟とキャリーの交流は、一方通行の要求や指導や拒絶ではない。兄弟たちが新しい環境で次々に選択を迫られるように、彼らを受け入れる側の彼女もまたそのつど学び、選択を迫られる。

 慣れない暮らしの中でも、家族愛にあふれ、思いやりを忘れず、誇りを失わない兄弟と苦労を共にするうちに、それまで一人で気ままに暮らしてきたキャリーの心に少しずつ新しい気持ちが芽生えてくる。そして単なる仕事としてではなく、親身になって彼らのために働きかけ、ついには思いきった決断まで下すにいたるのだ。

 

 フィリップ・ファラルドー監督は難民について「ぼくらが彼らに何を与えられるかだけじゃなく、彼らがぼくらに何を与えられるかを伝えることも重要」と語っている。カナダ出身のこの監督は、『ぼくたちのムッシュ・ラザール』でも異郷暮らしの主人公を登場させていた。1994年、彼はスーダンで内戦のドキュメンタリー映画の撮影中、国連の命令で退去せざるをえなかったとき、スーダンの人々を見捨てるような気がしたことをずっと悔いていたという。身代わりに連れ去られた兄テオを置き去りにしたことへの罪悪感に苦しむマメールの人物設定には、監督自身のその体験も反映されているにちがいない。

 終盤、兄が生きている可能性にかけて、マメールは一人ケニアに旅立ち、難民キャンプを訪れる。そして最後の最後に思いがけない行動に出るのだ。

 その結末に関わる「グッド・ライ」は、マメールがアメリカの学校で習ったマーク・トウェインの『ハックルベリー・フィンの冒険』の言葉だ。人種差別の不条理を19世紀にいちはやくユーモアをこめて告発した小説家の言葉を引用するところに、この映画の誠実さや思いの深さが感じられる。監督は苦労や悲惨な体験を強調するのではなく、キャスティングや音楽や映像の細部にまで気を配りながら、希望を持って、軽やかなタッチでこの物語を描いている。

 国連難民高等弁務官事務所によると、2013年の難民、庇護申請者、国内避難民の数は第二次世界大戦後はじめて5000万人を超えた。日本の人口のなんと4割にもあたる。これは認定されている統計だから、実際はさらに多いだろう。われわれは難民を縁遠い存在と思いがちだが、「第三国定住制度」により日本にも難民だった人たちが暮らしている。東日本大震災や福島原発事故で故郷に戻れない人たちも国内避難民だ。難民は実はけっして他人事でないことにも思いをはせたい。それがこの映画のメッセージのひとつでもあるのだから。

 

MOVIE INFORMATION

映画「グッド・ライ~いちばん優しい嘘~」

誰かのやさしい嘘で、今日も世界は救われる。
世界の裏側の驚くべき実話をベースにした感動の物語

監督:フィリップ・ファラルドー 「ぼくたちのムッシュ・ラザール」
脚本:マーガレット・ネイグル 「ボードウォーク・エンパイア 欲望の行方」
音楽:マーティン・レオン
出演:リース・ウィザースプーンアーノルド・オーチェン
ゲール・ドゥエイニーエマニュエル・ジャルコリー・ストール/他
配給:キノフィルムズ (2014 年 アメリカ 110 分)
◎ 4/17(金)全国ロードショー!

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