芸劇&N響ジャズ ~BEBOP BERNSTEIN~
クラシックとジャズの出会いの瞬間 ~気鋭の指揮者とN響が再現!
クラシックとジャズの間には深い溝があると思っている方がいまだに多いのではないだろうか? しかし、実はクラシックとジャズはかなり古くからコラボレーションして来た。それを改めて教えてくれる、しかも実演で。そんな温故知新なコンサートが開催される。東京芸術劇場での「芸劇&N響ジャズ~BEBOP BERNSTEIN~」である(7月10日)。演奏される曲目はレナード・バーンスタインの《プレリュード、フーガとリフ》《ディヴェルティメント》《ファンシー・フリー》、デューク・エリントンの《ハーレム組曲》、そしてジョージ・ガーシュウィンの《パリのアメリカ人》だ。いずれもそれぞれの作曲家の代表的な作品で、クラシックとジャズの融合を目指した意欲的な作品をまとめて聴くチャンスと言えるだろう。NHK交響楽団がこうした作品をまとめて演奏するのも珍しい。
指揮はジョン・アクセルロッド。10代でバーンスタインに指揮を学び、ハーバード大学を卒業したが、一時期はカリフォルニア、ナパのロバート・モンダヴィ・ワイナリーでワイン作りをしていた。1994年のある夜、ナパの美しい夜景を観ていたら、突然頭の中でワーグナーの『トリスタンとイゾルデ』序曲が鳴り出し、改めて指揮者を目指したという意外な経歴を持つ。バーンスタイン作品の指揮に力を入れており、カーセン演出の『キャンディード』をパリ・シャトレ座、ミラノ・スカラ座などで指揮して成功に導いた。現代曲の初演にも積極的な指揮者である。
そのアクセルロッドいわく「バッハ、モーツァルト、ショパンの例を出すまでもなく“即興”はクラシック音楽生来のものでした」と。確かにバロック時代から古典派、そしてロマン派初期にかけて、即興をするというのはとても重要なテクニックのひとつであったのだ。一方で、近代に進むに連れて、クラシックでの“即興”は次第に影を潜め、20世紀に入ると、ジャズの“即興”が“即興”の地位の中心に座ることになった。ただし、クラシックの現代音楽の世界では、奏者が即興的に演奏することを求める作曲家も多い。
さて、クラシックとジャズの初めての出会いはいつだったのか? おそらく「ジャズ・エイジ」と呼ばれていた20世紀初頭のアメリカ、ニューヨークでクラシックとジャズは出会ったのだ。その証拠となるのがガーシュウィンの傑作《ラプソディ・イン・ブルー》。当時人気のあったジャズ・バンド、ポール・ホワイトマン楽団のために書かれた作品で、1924年にニューヨークで初演された。この作品は史上初の「シンフォニック・ジャズ」と呼ばれているが、その大成功によってガーシュウィンは《パリのアメリカ人》という傑作も書くことになる。こちらはニューヨーク・フィルの委嘱作品。ニューヨークという様々な文化が覇を競う街だからこそ生まれた音楽、それがシンフォニック・ジャズなのかもしれない。
指揮者として活躍したレナード・バーンスタインだが、一方でずっとジャズを愛し、またブロードウェイのミュージカルに傾倒していた。そんなバーンスタインにもジャズ・バンドのための作品がある。それが《プレリュード、フーガとリフ》。ウディ・ハーマン楽団のために書かれたが、ハーマン楽団が解散したために演奏されずにいたものを、ジャズ・クラリネットの巨人ベニー・グッドマンが再発見したという逸話がある。1944年のバレエ曲《ファンシー・フリー》の中にもジャズの響きがあり、1980年の《ディヴェルティメント》にもそれは感じられる。指揮者のアクセルロッドはそれを「ビバップ」と表現しているが、確かにモダン・ジャズの起源となった1940年代のミュージシャンたちの自由な精神をバーンスタインも受け継いでいる。
そしてジャズの巨人デューク・エリントンの《ハーレム組曲》。言うまでもなく、エリントンの傑作のひとつで、オーケストラ用に編曲されているが、ジャズのエッセンスを集めたような多彩な作品だ。NHK交響楽団とアクセルロッドが贈るシンフォニック・ジャズの世界を体験しに行こう。
LIVE INFORMATION
開館25周年/芸劇フェスティバル
芸劇&N響ジャズ ~BEBOP BERNSTEIN~
○7/10(金) 17:30開場/18:30開演
会場:東京芸術劇場 コンサートホール
出演:ジョン・アクセルロッド(指揮)大島 文子(cl)トルヴェール・クヮルテット(サクソフォン/須川 展也、彦坂 眞一郎、新井 靖志、田中 靖人)NHK交響楽団
曲目:バーンスタイン:プレリュード、フーガとリフ
デューク・エリントン:ハーレム組曲
バーンスタイン:ディヴェルティメント/ファンシー・フリー
ガーシュウィン:「パリのアメリカ人」
www.geigeki.jp