シュトックハウゼンの音楽を学び、カンという世にも奇妙なバンドで活躍。まるで謎めいた魔術師のような風貌でマジカルなサウンドを生み出すホルガー・シューカイのアルバムが、3タイトルまとめて紙ジャケットでリリースされた。振り返ればソロ・ワークの初期2作『カナクシス』『ムーヴィーズ』が紙ジャケ・リリースされたのが2007年で、実に8年ぶりに再開された復刻プロジェクトに拍手を送りたい。

HOLGER CZUKAY On The Way To The Peak Of Normal P-VINE(1981)

 まず、『ノーマルの頂へ』は81年に発表されたソロ3作目。元カンのドラマー、ヤキ・リーベツァイトコニー・プランクといった気心の知れた仲間達に加えて、PILジャー・ウォーブルや、シューカイがプロデュースを手掛けたジャーマン・ニュー・ウェイヴ・バンド、S.Y.P.H.など、カンに影響を受けた若手がゲスト参加。ダブやコラージュといった音響実験を織り込みつつ、チャカポコと脱力したリズムや千鳥足のトレモロ・ギターの音色が浮遊感に満ちたサウンドスケープを生み出していて、クラウトロックニュー・ウェイヴを橋渡ししているようなアルバムだ。

 

HOLGER CZUKAY Der Osten Ist Rot + Rome Remains Rome P-VINE(2015)

 『デア・オステン・イスト・ロート+ローマ・リメインズ・ローマ』は、84年作『デア・オステン~』と87年作『ローマ~』からセレクトした楽曲に、『ローマ~』収録曲のリミックスに未発表曲を加えてレコードストア・デイにリリースした2枚組10インチ『ヒット/フロップ』の収録曲を加えたもの。この時期は初期に比べてメロディーや曲の構造が鮮明になったぶん、若干ポップな印象がある。

 

HOLGER CZUKAY 11 Years lnnerspace P-VINE(2015)

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 そして、『イレヴン・イヤーズ・インナースペース』は、これもレコードストア・デイに2枚組10インチとしてリリースされたものを初CD化。カンのホームスタジオ、インナースペースでシューカイが11年間に渡って録りためてきた未発表曲をまとめたコンピレーションで、カンのメンバーと共演した曲やシュトックハウゼンが参加した曲も収録されていて、シューカイのキャリアを辿るうえで興味深い音源集だ。実験精神に溢れながら、飄々としたユーモアも感じさせる。そんなシューカイの世界にたっぷり浸れる3枚だ。