すっかり秋めいてきたある日の午後。ここはT大学キャンパスの外れに佇むロック史研究会、通称〈ロッ研〉の部室であります。
【今月のレポート盤】
HOLGER CZUKAY,JAH WOBBLE,JAKI LIEBEZEIT Full Circle Virgin/Spoon/Pヴァイン(1981)
戸部小伝太「ズコーッ!」
三崎ハナ「入ってきた途端にズッコケないでください!」
戸部「そりゃ、ハナ殿がキャラとは程遠い『Full Circle』を聴いているんだから、コケる以外ないでしょうが!」
逗子 優「実は僕が持ってきたんです~。CDでは初の日本盤化にして最新リマスターも施されているんですよね~」
戸部「むむ、そう言えばホルガー・シューカイの一周忌に合わせて関連作品がリイシューされると聞いていましたが、もう出ていたとは……我輩のうつけ者! それにしてもユウ殿がなぜまた?」
逗子「この前クラブでアイドルズやシェイムと一緒に流れて、凄くカッコイイと思ったんです~」
戸部「ふん、実に軽薄な理由ですな。ですが、〈35年以上前に発表された本作の強靭な音楽性が、現代でも十二分に有効である〉というエピソードとして捉えれば、まんざらでもないか……」
三崎「何をブツブツ言ってるんですか? そもそもこれってバンドなの?」
戸部「ホルガー・シューカイ、ヤキ・リーベツァイト、ジャー・ウォブルという曲者3人のコラボ盤ですよ。81年リリースの12インチに2曲を追加し、アルバムの体裁にしたものですな」
逗子「その12インチって、前年に亡くなったジョイ・ディヴィジョンのイアン・カーティスへの追悼盤なんですよね~」
戸部「左様。ちなみに、いわゆる〈ロフト・クラシック〉としても有名な“How Much Are They?”は、日本でもTVCMに使用されていたんですぞ」
逗子「え~、こんな攻めのディスコ・ダブがCMタイアップ? 80年代、恐るべしですね~」
三崎「ところで、ホルガー・シューカイって元カンの人ですよね?」
戸部「ヤキだって元カンのドラマーですよ。奇しくもホルガーと同じく昨年に亡くなってしまいましたがね」
三崎「メンバーが2人もいるのに、ハナのイメージするカンとはちょっと違うなあ」
逗子「やっぱり元P.I.L.のジャー・ウォブルが参加したことで、絶妙な化学反応が起こったんじゃないかな~。ダブやレゲエの要素が強いのはきっと彼の趣味だよね~」
三崎「この人のミミズがのたうつようなベースは、気持ち悪いけどクセになるよね」
戸部「それを言ったら全体をタイトに引き締めている、ヤキの正確無比なビートも聴き逃せませんぞ!」
逗子「彼は〈半分人間で半分機械〉なんて言われていたらしいですね~。ホントにリズム・マシーンみたいです~」
戸部「この高度な演奏技術こそが、当時の凡百なポスト・パンク勢との決定的な差異でもありますな」
三崎「それにしても変な効果音が重なって、クラクラしちゃいそう」
戸部「ハナ殿、良い指摘ですぞ。そう、この過剰なまでのサウンド・コラージュこそがホルガーの真髄と言っても過言ではないでしょう。彼はすでに60年代からテープ操作やサンプリングといった手法を駆使していた異才ですからね」
逗子「彼ってベーシストですけど、本作ではジャー・ウォブルにベースを一任したぶん、編集作業に没頭できたのかも知れないですね~」
三崎「あと、エキゾな歌が唐突に挿入されるのもヘンテコ!」
戸部「本作の少し前に発表し、これまた日本のCMで使用されたホルガーの代表曲“Persian Love”もアラブ風ですし、この異国情緒も彼の特色かと」
逗子「そう考えると、3人の特殊な個性がスパークした、とんでもない作品なんですね~」
三崎「負けてられません! 私たちの特殊な個性についてもお茶を飲みながら探りましょう!」
私から見ればロッ研メンバーも十分すぎるほど個性派ばかりなので、ハナちゃん、ご安心を。 【つづく】
9月26日にリイシューされるホルガー・シューカイの作品を紹介。