国内屈指のオルタナティヴ・ロック・バンドへと成長したTHE NOVEMBERSの新作『Elegance』がリリースされた。2014年の前作『Rhapsody in beauty』がノイズと混沌をまとった〈美は乱調にあり〉を体現していたのに比べると、この『Elegance』に収められた全6曲は、荒野に咲く一輪の花のよう。その美しく整ったフォルムは、〈優雅〉と呼ぶに相応しいものとなっている。そんな本作では、土屋昌巳がプロデュースを手掛けているのも一大トピック。一風堂のリーダーとして名を馳せた80年代にはUKニューウェイヴ・バンドのジャパンにも参加し、ブランキー・ジェット・シティやGLAYを筆頭にプロデューサーとしても錚々たる実績を誇る土屋は、還暦を超えた現在もKA.F.KAを率いるなど、麗しいルックスを保ちながら活躍している。

今回Mikikiでは、THE NOVEMBERSのフロントマンである小林祐介と土屋の対談を敢行。このあとにも述べられている通り、小林にとって憧れであった土屋の存在は、バンドを新たなステップに導くのと同時に、作品を通じてアティテュードを示すうえでも大きな指針となったようだ。改めて土屋のキャリアを振り返り、小林とバンドがめざした方向性を確かめながら、2015年の空気を捉えた瑞々しいポップソングが生まれるまでの過程を教えてもらった。インタヴューの後半では、収録曲にまつわるコメントも掲載。美意識の共振を見せる2人の対話は、とても実り多きものになったと思う。 

★THE NOVEMBERS『Elegance』発売を記念し、10月13日(火)21時~より〈THE NOVEMBERS×土屋昌巳 TALK SESSION〉をタワーレコード渋谷店にて開催&タワレボ生配信!

 



僕が影響を受けたものは、みんな昌巳さんに行きつくんです(小林)

――まずは土屋さんがプロデュースするに至った経緯、お2人の出会いについて教えてください。

小林祐介「ジャパン、一風堂にブランキー・ジェット・シティのプロデューサーとしても存じてましたし、憧れの存在でした。いまベンジー(浅井健一)さんと僕がROMEO's blood※というバンドをやっているので、スタジオでの会話などで初期のブランキーのエピソードなんかとかも教えてくださって、そのなかで昌巳さんのお名前も出てきてたんです。それでベンジーさんがプロデュースに関することも話してくれて。〈祐介には、昌巳さんすごく合うと思うよ〉と言ってくれてたんですね。もともと憧れもあって、いつかTHE NOVEMBERSも昌巳さんにプロデュースしてもらえたら素敵だなっていうのは希望として抱いていたので。思い切って、〈実は、土屋昌巳さんにプロデュースしてもらえたら嬉しいんだ〉ってベンジーさんに伝えたんです。そうしたら、〈電話しておくわ〉と言ってくれて」
※浅井(ヴォーカル/ベース)、小林(ギター)、有松益男(ドラムス、BACK DROP BOMB)によって2014年に結成されたバンド

【参考動画】ブランキー・ジェット・シティの94年作
『幸せの鐘が鳴り響き僕はただ悲しいふりをする』収録曲“青い花”
土屋は92年の2作目『Bang!』以降、東芝EMI時代のスタジオ盤でプロデュースを手掛けた

 

――具体的にどういった部分で相性が良さそうとか、そういうお話もされたんですか?

小林「いや、そういうのはなにも(笑)。とにかく、いいと思うと言ってくれて」

――土屋さんはもともとTHE NOVEMBERSのことはご存じでした?

土屋昌巳「存在は知ってましたけど、実際に音は聴いてなかったですね」

――このプロデュースの話を受けて、どのように思いました?

土屋「いまの話の続きになりますけど、もう突然電話がかかってきて。まあベンジーはいつも突然なんだけど(笑)。例によって何の説明もなく〈ええがや〉の一言で。祐介くんもわかっていると思うけど、あんまりそういうことを言わない人だから。その一言でわかっちゃうのね、すべてが。だから、〈わかった〉と。それからすぐ(THE NOVEMBERS側から)連絡が来て。じゃあどこかで会おうかと」

――いい話ですね。それで?

土屋「今日に至ります」

小林「ものすごい飛ばしましたね(笑)」

土屋「ええがや(笑)」

THE NOVEMBERS
ミッシェル・ガン・エレファントやくるりなどの写真で知られる佐内正史が撮影

 

――小林さんは以前から80sニューウェイヴの影響を公言していますよね。過去のインタヴュー記事でジャパンに言及しているのも見かけましたが、土屋さんの音楽活動からの影響はやはり大きいんじゃないですか?

小林「もちろんです。最初にニューウェイヴを聴くきっかけになったのが、スミスとキュアーだったんですね。そこからもっとダークなほう……ジョイ・ディヴィジョンとかバウハウスとか、デッド・カン・ダンスとかを掘り下げていって。それでジャパンに触れたときに胸がときめいたんですよ、あのシンセの音に。最初に聴いたのが『Tin Drum』※だったんですけど」
※ジャパンのラスト作にして最高傑作の誉れ高い81年の5作目(試聴はこちら)

――シンセの名機、プロフェット5が大活躍の一枚。

小林「オリエンタルな雰囲気があるシンセに惹かれて、それまでに僕が聴いてきたニューウェイヴとは別の入り口になりましたね。キュアーの可愛らしいポップソング、スミスのナイーヴさ、ジョイ・ディヴィジョンのダークな感じのどれとも違う。それが僕のなかのジャパンでした」

――ジャパンといえば、OKAMOTO'Sのハマ・オカモトさんによるMikikiの連載〈ハマ・オカモトの自由時間 ~2nd Season~〉で、ジャパンのライヴ盤『Oil On Canvas』を取り上げていて(記事はこちら)。土屋さんがギター・ソロをまったく弾かずに静止しているパフォーマンスを、ハマさんが絶賛していたんですよ。あのプレイにはどういう意図があったんですか?

【参考動画】ジャパンの83年の『Oil On Canvas』収録曲“Methods Of Dance”
『Oil On Canvas』は土屋がサポート・ギタリストとして参加した
ジャパンの82年ツアーを収めた一枚。土屋のパフォーマンスは3分30秒過ぎから

 

土屋「いや、カッコイイだろうなと思って(笑)。〈地蔵ギター奏法〉というか、最強の技は〈弾かない〉ってことだろうと」

小林「ある意味、究極のギター・ソロですもんね」

土屋「それを最初にやったのはシド・バレットなんですよ。ピンク・フロイドのUSツアー中のことですけど、彼はものすごくデリケートな人だから、ステージの上で緊張して金縛りみたいになっちゃったんですよね。ピンク・フロイドといえば、プログレとかアート・ロックとして当時から人気バンドだったから、アメリカ人は固まってるシドもそういうものだと思って、〈すごい!〉って驚いたわけですよ」

小林「シドは風貌がまた素晴らしいから、あれで動かなかったらパンチあるだろうな」

土屋「フロントマンが何もしないわけですからね。とはいえ、本当に何もやらなくなったら大変だから、そのときのために穴埋め用の影武者として雇われたのがデイヴ・ギルモアだったわけです」

【参考動画】シド・バレット在籍時のピンク・フロイド、“Jugband Blues”のパフォーマンス動画
シドは薬物摂取とストレスで精神を病み、68年にバンドを脱退している

 

――そのエピソードからヒントを得たんですか?

土屋「いや、それは後付けですね(笑)。ピンク・フロイドの最初のマネージャーだった人とたまたま知り合って、教えてもらいました。でも大事だよね、そういう歴史を知っているということも。だってニューウェイヴが、祐介くんにとっては生まれる前の現象なわけでしょう」

小林「(生まれ年の)85年といったら、ニューウェイヴ真っ只中ですもんね」

土屋「厳密に言うとニューウェイヴが流行っていたのはもう少し前で、85年はニュー・ロマンティックスの時代だね」

――土屋さんはニュー・ロマンティクスの象徴的バンドである、デュラン・デュランのメンバーとも共演されているんですものね。アーケイディア※に参加して。
※デュラン・デュランのサイモン・ル・ボン、ニック・ローズ、ロジャー・テイラーが85年に結成したバンド。85年作『So Red the Rose』には、デイヴ・ギルモアやスティング、アンディ・マッケイ(ロキシー・ミュージック)らと共に、土屋もギターで参加

土屋「そうですね。そのへんはちゃんと順番があって、ロキシー・ミュージックが頂点で、ジャパンは彼らに憧れていた。僕は(ブライアン・)フェリーさんとも会ったり、ロキシーのメンバーと一緒にレコーディングもさせてもらったんだけど、ジャパンのデヴィッド(・シルヴィアン)は会ったこともないんですよ。自分たちが嫌われていると思っていたから。メロディーとかリフとか、ロキシーからいろいろ拝借していたからね。でもフェリーさんは全然気にしてなくて、むしろ褒めてたんですよ。だから、あのときもっとコミュニケーションしていれば良かったんだけど、そういう上下関係ってハッキリしているものだから。デュラン・デュランのニック・ローズはジャパンの大ファンで、最初はアーケイディアにスティーヴ・ジャンセン(ジャパンのドラマー)を誘っていたんだけど、ジャンセンは断ったんですよね」

――最初の浅井さんの話にも象徴される通り、そういう上下関係のコミュニケーションをTHE NOVEMBERSは大事にしている印象がありますね。あと、一風堂はヴィジュアル系の先駆けとも言われている存在ですけど、THE NOVEMBERSはその方面のバンドが担ってきたある種の美学も継承しているのかなと。

【参考音源】一風堂の82年作『Lunatic Menu』収録曲“すみれ September Love”
一風堂のオリジナル・アルバムは現在廃盤となっており、
2010年のベスト盤『ESSENCE: THE BEST OF IPPU-DO』が比較的入手しやすい

 

小林「でも僕は、〈ヴィジュアル系だから好き〉というわけではなかったんですよね。DIR EN GREYとかcali≠gariとか、あの辺は好きでしたけど。ラルク(LArc~en~Ciel)はヴィジュアル系じゃないんだと意地になって主張してます(笑)。でも、ラルクのyukihiroさん(※)だって、昌巳さんを見てそういう美しい方向に目覚めたとおっしゃってましたし」
※小林はyukihiroのサポート・ギタリストも務めるなど、親交が深い。

――そうなんですね。

小林「先祖とか遺伝の話でいうと、僕が影響を受けたものはみんな昌巳さんに行きつくんですよ」

――土屋さんも、小林さんとは趣味のテイストもそうだし、美意識においても近しいものを感じたんじゃないですか?

土屋「そうそう。たまたま〈美感〉が似ていたおかげで、いろいろなステップをすっ飛ばすことができて。おかげでレコーディングも結果的にスムーズでしたね」

〈WORLD HAPPINESS 2015〉でKA.F.KAを率いてステージに立つ土屋昌巳

 

――今回こうしてお2人が一緒にやられるのは、ある種の美学を継承している過程にも映るんですよ。お2人がゆっくりお話されたのも、今回の制作が初めてだったんですよね?

小林「そうです」

――土屋さんにお会いしたら、いろいろ訊いてみたいことがあったのでは? それこそ、質問攻めにしたりとか。

小林「質問攻めというよりは、なにかきっかけがあったときに、いろんな話を聞かせてもらえるので。それが軒並みおもしろかったですね。自分たちが憧れているバンドの活躍の裏でこんなハプニングがあったとか、あれはこんなふうにして作った、こういうふうに録音したんだよとか、そういうエピソードを教えてもらって。物語を読んだり、歴史の教科書を学んでいるようでした」

――YouTubeやレコードなどで過去を学ぶ方法はありますけど、本人に会って話を訊くのが一番貴重な機会ですよね。

土屋「そういうのが一番おもしろいですよね。僕も本を書いた人に会ったりするのが大好きです」

 

 

こんな時代だからこそ、ロックは品格と作法を持たないと(土屋)  

――今回のEPを作るに至った順序としては、土屋さんにプロデュースをお願いするのと、EPでリリースするのを決めるのとでは、どちらが先だったのでしょう?

小林「EPにするかアルバムにするかは決めてなかったんですけど、なにかしら作品を作ろうとは思っていたんです。『Rhapsody in beauty』を作り終えたあとに、今作に繋がるような考え方というか、意図してデザインされた美しさ、洗練された美しさとか。透明感のあるポップなものを作りたいという気持ちが芽生えて。『Rhapsody in beauty』のなかに“Romancé”という曲があるんですけど、あれをもう一歩進めたような世界観を表現できたらいいなと思ったんですよ。そんなふうに考えていたときに、土屋さんにやってもらえたら素敵だろうなと考えていたんです」

【参考動画】THE NOVEMBERSの2014年作『Rhapsody in beauty』収録曲“Romancé”

 

――その時点で、すでにヴィジョンとして描いていた?

小林「そのときは、まだ夢物語みたいな感じでしたね。〈こんなことができたら素晴らしいのに〉っていう。そういうことを考えはじめて作曲に取り掛かったくらいのときに、最初のベンジーさんの話に繋がっていくんです。だから、タイミングとしてはほぼ同じくらいでしたね」

――先ほどおっしゃっていたような方向性をめざした理由を、もう少し詳しく教えてもらえますか?

小林「『Rhapsody in beauty』は美しいと感じるものであれば、整理整頓されてなくても、過激であってもエキセントリックであっても濁っていてもいい。美しいと思うことがすべての理由なので作品にしましょうと、思い切り良く作れた作品でした。それを経験したうえで、もっとデザインされたものや洗練されたものに興味が向いたのかもしれないです」

――そういうコンセプトを、土屋さんにもお伝えしたんですか?

小林「そうですね、もう少し別の言い方だったかもしれないですけど。デモを聴いてもらいながら、スミスとかキュアーとかコクトー・ツインズとか、おおまかな音像やイメージだけは伝えて」

【参考動画】コクトー・ツインズの90年作『Heaven Or Las Vegas』収録曲“Heaven Or Las Vegas”

 

――土屋さんもプロデュースをされる際に、THE NOVEMBERSの過去作を聴かれたと思うんですけど、どんな感想を抱かれました?

土屋「いや、もう素晴らしいなと。特に『Rhapsody in beauty』は本当に素晴らしい。正直に言うと、なんでもっと売れてなかったんだろうと不思議に思いました。そのくらい優れた作品だったし、なにかが間違えていますよ」

――ですよね。

土屋「特にいまの日本は、文化的なレヴェルがものすごく下がっちゃっているから。そのなかで、これだけのレヴェルの作品を……言葉を換えればビジネスにしなければいけない。それは至難の業ですよ。でもだからこそ価値があるというか、作っていく意味がある。無謀な挑戦かもしれないけど、それをやってみる意味は十分にあるから」

――だからこそ、〈Elegance〉という言葉をタイトルに冠して、こういう時代に掲げることには大きな意味があるように思えたんですよね。〈Elegance〉には〈優雅〉という意味があるけれど、それは裕福さとか生活水準とかの話ではなくて、例えば心を気高く持つことを言いたかったのかな……とか。

小林「そうですね。それに日本語で言うところの〈粋〉だったり、あと僕のなかでは素直さや正直さがテーマにあったんです。素直に正直に生きているのが、粋に映るような自分になれたらいいな……というか。高尚というイメージよりは、より良く生きるということ。多くを求めたり、欲深くなったりするのとはまた別の、気持ちのうえで優雅なものが作れたらいいなと思ったんですよね」

――土屋さんのキャリアにおいても、〈Elegance〉は重要なテーマの一つだと思うのですが。

土屋「もちろんです。僕の場合、〈Elegance〉といえば〈品格〉ですね。それで、〈品格〉といえば〈作法〉なんですよ。これはもう間違いない」

小林「あぁー、なるほど」

土屋「そして〈作法〉といえば、弓道ですよ。小笠原流の弓道が作法の始まりみたいです。だから、弓の矢の先に〈エッジ・オブ・エレガンス〉があるわけ」

――作法の極みが(笑)。

土屋「こんなときだからこそ、品格と作法は大事ですね。まさに、ロックはそれを持たないと。〈好きだったらいいじゃん〉じゃダメなんですよ」

――そう思いますね。THE NOVEMBERSは自分でレーベルも運営して、アートワークや写真などヴィジュアル面でも独自のこだわりを見せていて。そういう活動姿勢には〈品格〉と〈作法〉が感じられます。

 

『Elegance』収録曲“きれいな海へ”のMVは〈Father side〉〈Mother side〉の2本が用意されており
2台のスマートフォンで並べて再生すると、より世界観を楽しめる内容になっている

 

土屋「バンドを維持していくために、すごく大変なことをしているのに、何事もないように振舞っているわけですよ。祐介くんも他のメンバーも、音楽に対して誠意がありますよね。このあいだTHE NOVEMBERSのライヴを初めて観たんだけど、みんなスッと立っていて。その姿勢こそが〈Elegance〉だよね。でも休みになると、実家に帰って税務署に行ったりしているの。そういうこともちゃんとやっている」

――EPのサウンド・プロダクションについては、先ほどスミスやキュアー、コクトー・ツインズの名前が挙がっていましたが、具体的にどんなサウンドをめざしていたのでしょう。

小林「僕は最初、そういう先に挙げた80年代のニューウェイヴやポスト・パンクだったりを、当時の音で再現してくれるかもしれないというか、そういうのができたらおもしろそうだと思ってたんです」

――僕も土屋さんのプロデュース作だと聞いて、あるいはそういう音になるのかなと少し思ってました。

小林「でも結局のところ、当時の音をめざすのではなく、いまの音をちゃんと鳴らすことができました。そこが一番気に入ってるポイントです。何かを再現するというよりは、『Elegance』という作品の収録曲が求めている音を作れた。もっと言えば、自分たちと昌巳さんが関わったことに相応しい音ができたかなと。あんまり気負ったことをしないというか、それよりも綺麗な音、いい音で録ることにこだわって。シンプルなところに立ち返った気がします」

土屋「いまの祐介くんの話に付け足すとしたら、〈空気〉なんですよね。2015年の空気。例えば4ADにせよラフ・トレードにせよ、サウンドを近付けようと思えば近付けられるんですよ。どういう機材を使っていたのかも把握していますし。それよりも決定的なのは、78年だったり80年だったりの空気。それはもう絶対に再現なんて無理なわけで。60年代や70年代でも同じ話で、歴史に刻まれた名盤とされるレコードが、その他の忘れ去られた99.9%と何が違うのかというと、その時代の空気を記録しているかどうかなんですよ。メンバーやエンジニアには言わなかったんだけど、僕が一番気にしていたのはそこなんです」

――ニューウェイヴの時代も、マーティン・ハネットのようなプロデューサーが時代の空気を閉じ込めていた。それと同じ試みを、2015年に実践しようとしたわけですね。

土屋「それより前の世代のジョージ・マーティンと直接話をしたこともありますけど、やはり最後に言うのはそこなんです。だから彼は、自分のスタジオを〈AIRスタジオ〉と名付けてたでしょう。メチャクチャ深いですよね。今回のレコーディングでも、ソフト・シンセの音だけを使ったところとかは最後の最後まで〈空気〉が出てこなくて」

小林「そうなんです」

土屋「説明しようもないし、あたりまえの現象なんですよ。空気を通して振動を録音するのがどれだけ大事なのかって話ですよね。やっぱり力がある。いまは音楽を始めようと思ったら(機材などが)なんでもある時代だから、そのなかで一番自分に都合がいい、便利なものを使っちゃう。昔は僕らもそうやってきた。デジタルが出てきてからは毎日が実験でしたよ。だから、そこはもう自分で経験してもらえればいい。それも誠意だよね。ひと手間かけるのも、便利さの恩恵に被るのも、僕らの誠意の問題だと思う」

 

魔法みたいで、感動しっぱなしのレコーディングでした(小林) 
 

THE NOVEMBERS Elegance MERZ(2015)

 ――『Elegance』は6曲入りということで、ここからは各曲について話を訊かせてください。まずはオープニングを飾る“クララ”。美しいギターのアルペジオから始まって、まさしくスミスや4ADに通じる美しいムードを持った曲です。

小林「この曲はもともと、〈KOLA〉というキュレーション・アプリのプロモーション用の曲として書いたものだったんです。それで絵コンテとかの説明を受けたときに、映像が躍動感のあるものになる予定だったので、曲はしっとりとしているほうがコントラストが出て綺麗かなと思って」

【参考動画】〈KOLA〉のプロモーション映像

 

小林「それとこの曲は、自分に娘が生まれてから最初に生まれたものでもあるんです。だからこそ、シンプルに素直さを出したかった。それで『Elegance』に収録することになったので昌巳さんに聴いていただいて、そこから構成を変えるなどサウンド・プロデュースをしてもらいました」 

――構成を変えたというのは、具体的にどういう部分ですか?

小林「もともと(映像用の)90秒しかなかったので、そのあとエンディングに向かう流れは正直想像つかなかったんです。そこで昌巳さんにコーラスやストリングスのアイデアをいただくなど、デザインしてもらって完成形に辿り着きました。本当は軽さが売りみたいな、もっとサラッとした曲だったんですよ。でもすごく感動的な曲に仕上がって」

――ドラマティックですよね。

土屋「作りながら曲が育っていった印象です」

小林「『Rhapsody in beauty』はノイズが裏テーマのひとつだったんですけど、そういうスクラッチ・ノイズとはまた別の、現代音楽的な不協和音に近いノイズを昌巳さんが作ってくれたんですよ。コーラスとメロディーがクロスする瞬間のグニャっとなっているところ。それについて、アリかナシか議論ができたのも楽しかったです。〈ダメな人はダメな音だから、祐介くんが決めるべきだと思う〉と言われて」

――それで?

小林「アリアリの方向で(笑)。だって、そこに感動したんですから」

――確かにその部分、〈現代的な音響〉って感じがしました。

土屋「その感想はありがたいです。祐介くんのハーモニー感覚が素晴らしくて、ちょっとビックリしたんですよ。それは過去の作品では気付かなかった部分。それで、〈これは無理だろうな〉というのをダメ元で歌ってもらって。こういうブライアン・ウィルソン的な手法がそのまま使える人はなかなかいないですよ」

――ブライアン・ウィルソン的なハーモニーというのが、しっくりきますね。

土屋「秘密を言ってしまいました(笑)。あそこは『Pet Sounds』なんですよ」

【参考動画】ビーチ・ボーイズの66年作『Pet Sounds』収録曲“I Just Wasn't Made For These Times”

 

――2曲目の“心一つ持ちきれないまま”は、ダイナミックでスケールの大きなナンバー。

小林「実はこの曲、仮タイトルが“デュラン”だったんですよ。もちろんデュラン・デュランから」

――なんと、ここで最初と話が繋がるんですね(笑)。

小林「といっても、元ネタというよりは喩えというかイメージですけど。広いところで演奏したら気持ち良さそうな光景を想像できる曲を作ろうと提案したときに、僕がロキシー・ミュージックと言ったら、ドラムの吉木(諒祐)くんがデュラン・デュランと言い出して(笑)」

――この曲で意識したところは?

小林「ヘヴィーで渋めのリフと、あとはアラバマ・シェイクスの新作をちょっと意識しましたね。あれを昌巳さんやエンジニアさんと聴いてて」

――ああ、納得です。あのアルバムもプロダクション相当攻めてますもんね。

【参考動画】アラバマ・シェイクスの2015年作『Sound & Color』収録曲“Don't Wanna Fight”
強烈なドラムと張りつめたテンションとグルーヴに、“心一つ持ちきれないまま”への影響が窺える

 

小林「イントロのドラムが入ってきた瞬間に、〈うわー、カッコイイ〉ってなりますね。そのあとにシンセ・サウンドがギターと共に押し寄せてくるじゃないですか。そこも、普段の自分たちでは辿り着けなかった特殊な音像を、昌巳さんの機材をお借りすることで実現できました」

土屋「この曲が、過去の作品や資料で僕がイメージしていたTHE NOVEMBERSらしさに一番近いと思います。だから僕の頭のなかには、どうやればいいのかが最初からありましたね」

――続く3曲目の“きれいな海へ”が今回のリード・トラックですよね。

――ちょっとネオアコっぽいというか。

小林「16ビートの感じですよね」

――そうそう、でもベースはファンキーで。

小林「僕のなかでは、キュアーやスミスへの愛が炸裂した曲ですね。キュアーにも、16ビートのノリでファンキーな感じを出したり、バリンとした音でファンクっぽいリズム・ベースが入ったりする曲があるじゃないですか。そういうのがいいなって」

【参考動画】キュアーの85年作『The Head On The Door』収録曲“In Between Days”

 

【参考動画】スミスの86年作『The Queen Is Dead』収録曲“The Boy With The Thorn In His Side”

 

――あとは、シャムキャッツの最近の曲もふと思い浮かべたんですよね。今年出た『Take Care』とか。

小林「僕、シャムキャッツであれが一番好きなんですよ。ちょっとフェミニンな感じがするっていうか、ポップなんだけど寂しそうで、すごくいい。そういえば、今回の『Elegance』を作っているときに、自分たちの持っているフェミニンな部分を出せたらいいなと思っていたので。そこはちょっと繋がっているかもしれない」

――シャムキャッツに取材したときにも、夏目(知幸)くんが小林さんについて、まさにそういう話をしていましたよ。〈フェミニンな部分に共感している〉みたいな(記事はこちら)。

小林「はは(笑)。夏目くんとは同い年なんですよ。素晴らしい才能ですよね」

――土屋さんはこの曲、いかがでしょう?

土屋「そうですね。狙っているところが明確だったし、どうやればカッコ良くなるかも見えていたので、全体的に楽でした。無駄なことをせずに済んだというか。そのへんの感覚が通じない人とやると、先にその人がしたい形に付き合ったあとに、〈こういうのもあるよ〉と提案していく形になる。そうすると時間もかかっちゃいますよね」

――カッコ良さの意思疎通ができていると、快適そうですね。

小林「作業が進むたびに魔法みたいというか、自分が想像していたより遥かに素晴らしいものになっているんですよ。それに昌巳さんが音作りのヴィジョンやプランも立ててくれたので、慌てふためくこともなくて。自分たちも昌巳さんを信頼しきっていたし、感動しっぱなしのレコーディングでした」

――4曲目の“裸のミンク”は、横揺れのベース・ラインも格好良いミドル・チューン。

小林「この曲は高松浩史くん(THE NOVEMBERSのベーシスト)が作曲で、ギターのアルペジオとベースのフレーズを用意してくれたんですよ。それで最初はもう少し平坦なノリだったんですけど、思い切り跳ねてみることにして。レコーディングすることで印象が大きく変わった曲なので、エンジニアさんもお気に入りみたいです。というのも、昌巳さんがギターの定位からディレイに至るまで録音の段階で構築しているので、エンジニアさんが手を加える余地がないほど、昌巳さんのデザインが完成されていたそうなんです。マジックみたいだと」

土屋「マジックだなんてとんでもない。最初にスケジュールを渡された時点で、それをやっていかないと絶対に完成しないと判断しただけですよ。あとは高松くんが怖かった(笑)。あの人は厳しいというか、よほどの信頼関係がないと言えなさそうなことを、自分以外のメンバーに対してきちんと言えるんですよね。きっと、自分自身に対して一番厳しいんだと思う。譲れないところは言えるし、音のほうでも妥協しない。そういう意味で、この曲はTHE NOVEMBERSというバンドがちゃんとしているところのサンプルというか」

――歌詞のなかでは、ジム・ジャームッシュの映画「ダウン・バイ・ロー」の名シーンが引用されています。

小林「〈I Scream, You Scream, We All Scream for Ice Cream〉のシーンがすごく好きなんですよね。あれをどうにか作品に採り入れられないかと思って、歌詞に書いてみたんです」

――あのシーンも改めて見直すと、いまの気分にフィットしているところもあって。

小林「刑務所の中に閉じ込められて、そこで途中までトランプをやっていたんだけど、それはルールのあるゲームですよね。それじゃないと言わんばかりにトランプをバーッて捨てて、〈I Scream, You Scream~♪〉って歌い出すと、外の部屋にいる連中も歌い出して。あのシーン、もはやライヴですよね(笑)。ああいうふうに楽しみが蔓延していって、みんなで同じ歌をうたう。価値観を共有しているんじゃなくて、一瞬の刹那的で楽しんでいるというか。子供心をくすぐられる瞬間的でした」

――5曲目の“エメラルド”は歌メロの強度に尽きると思いました。曲展開も穏やかなようで、美しいうねりがある。

小林「僕のなかでは、ユーミン(松任谷由実)とスミスを足したような曲なので。スミスっぽい12弦ギターの雰囲気が合うアルペジオを奏でて、それで歌のメロディーや言葉が素直に伝わるというか、優雅さみたいなものが表現できたらと思って作りました。ゆったりした感じというか。あとは、最後に希望があって終わっていくような曲にしたいと考えてましたね」

――“今日も生きたね"などの曲もそうですが、最後に希望を込めるというのはTHE NOVEMBERSが大事にしていることだと言えますか?

小林「そうですね。ライヴを観に行く前の自分と、観終えたあとの自分って少し違うじゃないですか。ライヴを観ていた時間のぶんだけ歳を取って、さっきまで悩んでいたことを忘れられたり、いろんなことが変わっていたりする。どんな曲を作っていても、4分の曲なら4分間だけ歳を取る間に、その人がいい方向に行くきっかけになれたらいいなと思っています。そういうものを作ったり、そういうふうに接したりできる大人になれたらいいですよね」

――ラストの“出る傷を探す血”は、今回唯一ノイジーでインダストリアルな楽曲。

小林「全部のミックスが終わったあとに曲順を決めることにして、昌巳さんからアドヴァイスもあったんですよ。それが説得力もあるし、自分たちも間違いないと思えたので。こういう曲で作品を終えるっていうのはしてこなかったんですけど、だからこそ今回はやってみたかった。〈To be continued...〉的というか……。

――その表現しっくりきますね。この曲でも、ワイアーの『Pink Flag』とかルー・リードの『Metal Machine Music』が歌詞に盛り込まれたりしていて。

小林「そうですね(笑)、そこはユーモアのつもりで」

――過去のTHE NOVEMBERSにもワイアーを意識した曲がありましたよね。

小林「僕、ワイアーが大好きなので。“ Wire (Fahrenheit 154) ”(2013年作『zeitgeist』収録)みたいに曲のタイトルでもじったり、あとはちょっとしたミニマル感を踏んでみたりとか」

土屋「そこもビックリしたんですよ。まさかそんなところまで聴いているとは思わなかったから、歌詞が出来上がったときに〈ピンク・フラッグって……まさか?〉と思ったら、そのまさかだった(笑)。ワイアーなんて、当時でも相当ヘンな奴しか聴いてなかったし。だから、すごく嬉しかったですね」

【参考音源】ワイアーの77年作『Pink Flag』収録曲“Strange”
“ Wire (Fahrenheit 154) ”の〈154〉はワイアーの79年作のアルバム・タイトルに由来

 

――こうして全曲を振り返ってみると、『Elegance』は本当に充実した内容ですね。

小林「すごく自信作になりました」

土屋「大好きですね、それに尽きる。僕にしかわかんないのかなって思うくらい。お好きでしたか?」

――素晴らしいですよ! まさに2015年のいま聴きたい、力強くて軽やかな音楽だと思いました。

土屋「そうですね。品があるし、作法に則ってるし。そこに気付いてくれるとありがたいです。なんて、音楽は押しつけるものじゃないですけど」

小林「おもてなしの心が大事だと、千利休が言ってました」

――わはは(笑)。でも今回の作品やインタヴューを通じて、お2人の相性が抜群なのもわかっただけに、今後も共演などに期待したいです。同じステージに立つ予定は?

小林「いや、もう粛々と(笑)。しっかりと計画して、然るべきタイミングに、然るべき佇まいで臨みたいです」

土屋「最初の話に戻るけど、祐介くんがベンジーと一緒にやることになってそういう(プロデュースの)話をして、それでベンジーがなんの説明もなく〈ええがや〉と言っただけで実現したわけです。そのへんで全部見えたというのは、つまり運命だったということでしょうね。祐介くんとベンジーがいま一緒にやってるのも、300年くらい前から宿命付けられていたんですよ。だから僕ら(の共演)も、いつかはそうなるだろうし。そうならなければそういうものだったのでしょう」

――いつかTHE NOVEMBERSのステージで、土屋さんに弾かないギター・ソロをお願いしたいです。

小林「2人で止まりますか(笑)」

 


Bang On! special event
THE NOVEMBERS『Elegance』リリース記念
〈THE NOVEMBERS×土屋昌巳 TALK SESSION〉

日時:2015年10月13日(火)21:00~22:00
会場:タワーレコード渋谷店B1F CUTUP STUDIO
出演:THE NOVEMBERS、土屋昌巳
Bang On!MC:ヤマダナオヒロ (†13th Moon†)
※当日はタワレボで同刻生配信も! 詳細はこちら

〈10th Anniversary TOUR –Honeymoon-〉
2015年11月2日(月)新木場STUDIO COAST
2015年11月5日(木)心斎橋JANUS
2015年11月6日(金)京都磔磔
2015年11月8日(日)高松DIME
2015年11月10日(火)松江AZTiC canova
2015年11月11日(水)広島CAVE-BE
2015年11月13日(金)福岡BEAT STATION
2015年11月15日(日)池下UPSET
2015年11月19日(木)新潟GOLDEN PIGS BLACK STAGE
2015年11月20日(金)金沢van van V4
2015年11月23日(月・祝)仙台enn 2nd
2015年11月28日(土)札幌COLONY