深い眠りから覚めしハリウッド・ヴァンパイアーズ!
 

 

 ハリウッドのサンセットストリップにあるレインボー・バー&グリルは、その名称からもわかるようにレストラン・バーで、ピザの美味さに定評がある。しかし、ピザ以上にこの店を有名にしているのが、そこに染み付いたロックンロール伝説だと言えよう。土地柄もあってロックスターの溜まり場でもあるレインボーは、例えば近年もモーターヘッドレミーが毎晩のように出没する場所として知られているし(実際、彼はサンセット通りの近所に居住しており、映画「極悪レミー」にも店内のシーンが象徴的に登場する)、ほろ酔い加減のオジー・オズボーンが目撃されたこともある。

 2004年1月、ヴェルヴェット・リヴォルヴァーが各国のプレス関係者を招いてデビュー作『Contraband』の試聴パーティーを行ったのも、店の2階にあるVIPルームだった。筆者もその場に居合わせることができたのだが、思わず〈ここがあの伝説的な場所なのか〉とむやみに室内をキョロキョロ見回してしまったものだ。

 

 

 そこはまさに、〈ハリウッド・ヴァンパイアーズ〉が生まれた空間。時は69年、2階のバーには、ハリウッド界隈に住んでいたり、ツアーでLAを訪れたりしていたロックスターたちが集っていた。その輪のなかにいたのが、〈ショック・ロックの帝王〉ことアリス・クーパー。彼は「あのクラブに行っては、ひたすらいろんな連中と飲んでいた」と振り返りながら、その〈いろんな連中〉のなかにジョン・レノンハリー・ニルソンからキース・ムーン、さらにはジム・モリソンエルトン・ジョンマーク・ボランジミ・ヘンドリックスに至るまでが含まれていたことを認めている。

HOLLYWOOD VAMPIRES Hollywood Vampires ユニバーサル(2015)

〈ハリウッド・ヴァンパイアーズ〉という名称は、レインボーに集う夜行性の飲み仲間集団に付けられたもの。例えば80年代、モトリー・クルーラットの面々が〈グラディエーターズ〉と名乗ってつるんでいたという話も、それに対するオマージュであるかと思われる。そしていまから約3年前、ハリウッド・ヴァンパイアーズを復活させたのが、そもそもの創設者でもあるアリス・クーパー自身であり、彼の新たな相棒となったのがジョニー・デップだった。とはいえ彼らが復活させようとしたのは飲酒癖ではなく、あくまでも当時その場に渦巻いていたスピリット。要するに、アーティストがさまざまな縛りを超えた次元で和気藹々と演奏を楽しむことのできる環境を取り戻そうじゃないか、というわけだ。

 アリスとジョニーはそれ以前から親交が深く、この2人にまず同調したのが、双方とは長い付き合いのあるジョー・ペリーだった。そして、オリジナルのハリウッド・ヴァンパイアーズの精神を賞讃するトリビュート的な発想で、たくさんの仲間を巻き込みながらレコーディングを開始。ペリー・ファレルデイヴ・グロールブライアン・ジョンソンスラッシュポール・マッカートニーザック・スターキーなど、世代や活動拠点を超越した顔ぶれが名を連ねていくことに。

 

 プロデューサーには、アリスの往年の名作はもとより、キッスピンク・フロイドの作品でも実績を持つボブ・エズリンが起用されている。少しばかり種明かしをするならば、今回のアルバムにはアリスの“School's Out”とピンク・フロイドの“Another Brick In The Wall Part. 2”の大胆なメドレーが収録されていて、共に原曲が収められているアルバムのプロデュースはエズリンだった。さらに付け加えると、ペリー・ファレル率いるジェーンズ・アディクションの作品を手掛けていた過去も彼にはある。

【参考動画】ピンク・フロイドの79年作『The Wall』収録曲“Another Brick In The Wall Part. 2”

 

 実際、『Hollywood Vampires』とシンプルに命名されたこのアルバムでは、アリスがブライアン・ジョンソンやペリー・ファレルとデュエットしていたり、ジョー・ペリーとポール・マッカートニーの初共演が実現していたりするだけじゃなく、〈クラシック・ロック〉と軽々しく呼ぶことにすら躊躇いを覚えるような、伝説的な楽曲の数々が奇想天外な顔ぶれで蘇っていたり、今回のためのオリジナル曲まで収められていたりもする。

 そんな作品の最後を飾るのが、書き下ろし曲のひとつである“My Dead Drunk Friends”。そこにはきっと、先に逝った仲間たちへのアリスの思いや、彼らから継承してきた精神も反映されているはずだ。もしかすると、〈存分に飲めよ。だけど、身を滅ぼすまでは飲むなよ〉といったメッセージも込められているのかもしれない。偉大なるロック史の語り部、アリスとその素晴らしい仲間たちに乾杯!