蝶のように舞い、キツネの如く自在に変身する!? 無意識の殻を破り、華麗なる進化を遂げたピアノ・トリオが、多彩に色付く羽をスケールいっぱいに広げて見せた、怒濤のリリース計画を締め括る〈3部作〉の最終章!
〈現代版ジャズ・ロック〉の名のもとに2011年に活動を開始して以来、凄まじい勢いで作品を発表し続けてきたfox capture plan(以下、fcp)。JABBERLOOPの岸本亮(ピアノ)、Immigrant's Bossa Bandのカワイヒデヒロ(ベース)、nhhmbaseの井上司(ドラムス)という3人が奏でるサウンドは、決して〈現代版ジャズ・ロック〉というキャッチコピーだけで説明しきれるものではない。オーセンティックなピアノ・トリオの編成でありながら、さまざまなジャンルを飲み込み、常に進化を続けてきたfcp。今年に入ってからはTVドラマ「ヤメゴク~ヤクザやめて頂きます~」の劇伴を担当したほか、3枚の作品リリースを計画。4月にはライヴDVD付きのミニ・アルバム『UNDERGROUND』を、7月にはアンダーワールドやグリーン・デイの楽曲に取り組んだカヴァー・アルバム『COVERMIND』を発表し、このたび3部作の最終章にして通算4枚目となるフル・アルバム『BUTTERFLY』をついに完成させた。バンド史上最高傑作を携え、fcpがいま新たに飛翔する――。
よりドラマティックに
――3部作のアイデアはどこから出てきたんですか?
カワイ「まあ……ノリ(笑)?」
岸本「それぐらいバンドの勢いがあったということでもありますよね。去年は(サード・アルバムの)『WALL』1枚しか出してないし、なんだか少ない感じがして」
――フツーのバンドだったら多いぐらいですけど(笑)。
岸本「そうですよね(笑)。僕ら自身、音源制作自体を楽しんでるところがあるんですよ。アートワークとかMVを作るのも楽しいし」
――皆さん並行して他のバンドでも活動しているわけですが、そちらではできないことをやろうというのもこのバンドのコンセプトであるわけですよね。
カワイ「そうですね。それは最初から話していたことで」
岸本「僕の場合は逆に狭めてるところもありますね。JABBERLOOPではエレピやシンセも弾いてるんですけど、このバンドでは基本的にピアノの音だけで弾いてる。カワイくんもここではウッドベースだけ。そういう制約を設けることで生まれるおもしろさがあるんじゃないかと」
カワイ「ルールがあったほうがゲームとして成り立つんじゃないかということですよね」
岸本「使う音を限定したほうが、曲そのものに新しい発想が生まれるんじゃないかと思ったんです」
――今回のアルバム『BUTTERFLY』は過去の作品以上に曲調が幅広くなってますよね。特に印象的なのは冒頭3曲にストリングスが入ってることで、あきらかにこれまでのアルバムとはスケール感が違う。
カワイ「ストリングスを入れようという構想は前からあったんですけど、タイミングを探っていたところがあって。『ヤメゴク~ヤクザやめて頂きます~』の劇伴ではストリングスを入れてたので、そのアイデアを膨らませていったところもあります」
岸本「ファーストの『trinity』はポスト・ロック的だったし、『WALL』はロック・テイストのアルバムだったので、もう少しドラマティックな展開を持った曲をメインにしたアルバムを作ってみたくて」
――“混沌と創造の幾何学”では菊地成孔さんが参加してますね。
カワイ「菊地さんのサックスって強烈な個性があって、一発でわかるんですよね」
岸本「上手いサックス奏者はたくさんいるけど、菊地さんみたいな人はいないと思う。dCprGにしても常に新しいことにチャレンジしていて、音楽に対する僕らの姿勢とシンクロするところがある気がしていて。5テイク吹き込んでくれたんですが、どれも凄くて。ライヴみたいなテンションの音なんですよ」
――“inchoate”は井上さんの作曲。
井上「初めて曲を書いたんですよ。これまで他のバンドでも書いたことがない」
カワイ「独特のループ感があって、僕ら2人が作る曲とはちょっと毛色が違いますよね」
井上「もともとリズムから曲を作ろうという発想自体があんまりなくて、この曲もドラム・パターンをいちばん最後に考えました」
――“Plug In Baby”はミューズのカヴァーですね。
岸本「『COVERMIND』で(定番となっていた)90年代カヴァー・シリーズは一度終わりにしようと思っていたんですね。そうなると、次は2000年代カヴァー・シリーズしかないかなと。ミューズは2000年代を代表するバンドのひとつだし、曲自体、素晴らしいと思うんですよね。ゼロ年代の(レディオヘッド)“Creep”というか。こういうカヴァーを通じてロック・ファンが〈俺もジャズを聴いてみようかな〉と思ってくれたら嬉しい」
ピアノ・トリオの新しい基準
――皆さん、ご自分たちがやっているものが〈ジャズ〉である、という意識はあるんですか。
岸本「3人とも影響されてるし、好きな音楽でもありますけど……僕らがやってる音楽がジャズにカテゴライズされなくても、それはそれでいいかな」
――ジャズの範囲も曖昧になってきてますしね。
岸本「ロバート・グラスパーもそうだし、上原ひろみさんにしたって昔からジャズだけを聴いてきた人の音楽じゃないですよね。ジャズという音楽の境界線が広がってR&Bやヒップホップにまで浸透してる現状は素晴らしいと思う」
カワイ「よくある4ビートを僕らがやる必要もないと思ってますしね」
ストリングスとドラムンベース調のドラムが並走する“Butterfly Effect”、機械的なピアノのアルペジオが強い印象を残す“Kaleidoscope”、fcpらしい叙情的なメロディーが疾走する“Supersonic”など――。本作において3人は自身が築き上げてきたものを踏襲しつつも、ピアノ・トリオという極めてシンプルな編成の可能性と未来像を過去にないやり方で提示している。
岸本「ピアノ・トリオのサウンドのひとつの基準みたいなものを作れればと思ってるんですよね。ピアノ・トリオの編成って自由度が高いと思うし、まだまだ可能性があると思う。あと、(今回の収録曲)“Christmas comes to our place”はベタなクリスマス・ソングですけど、前は〈fcpはこういうバンドなんだ〉という意識が自分たちのなかでもあったし、こういう曲はやらなかった。でも、そういうリミッターがだんだんなくなってるんです」
カワイ「今回はいろんなリミッターを外してるんですよね。自分たちを無意識のうちに縛っていた鎖をひとつひとつ解いていったというか」
岸本「いままでのアルバムはタイトルも『WALL』とか『BRIDGE』みたいに人工物でしたけど、今回は〈優雅さ〉や〈鮮やかさ〉〈自由〉とか、いくつものイメージを含む『BUTTERFLY』でいこうと」
みずからを解き放つアルバム『BUTTERFLY』。本作でリミッターを外したfcpは、今後どこに向かっていくのか――。来年の結成5周年を控え、さらなる進化を続ける3人からはやはり目が離せなさそうだ。