COLUMN

KIRINJIらしさが詰まった新しい挑戦―オリジナルから大きく変貌遂げた新解釈ライヴ盤『EXTRA 11』の全容を徹底分析

 

6人編成となって2013年夏に再出発したKIRINJIが、翌2014年に発表したアルバム『11』を新たなアレンジで再レコーディングした『EXTRA 11』をリリース。バンドによるライヴ録音をベースに入念なポスト・プロダクションが施されているのが本作の特徴で、通常のライヴ盤とは発想の異なる、フレッシュな解釈とミュージシャンシップの詰まったKIRINJIらしい一枚となっている。 

では実際に、『EXTRA 11』は『11』となにがどう違うのか? 自身もレコーディング・エンジニアを務めるなどスタジオ・ワークに精通した音楽評論家/音楽プロデューサーの高橋健太郎氏に、KIRINJIの6人のうち堀込高樹千ヶ崎学田村玄一コトリンゴへのインタヴューを依頼。そのときの証言をもとに、オリジナルの『11』から大きく変貌を遂げた『EXTRA 11』の全容と聴きどころを解説してもらった。 *Mikiki編集部

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KIRINJI EXTRA 11 Verve/ユニバーサル(2015)

※試聴はこちら 

 

ライヴの記憶を撹乱させる〈ポスト・プロダクション〉の域を越えた作業 

1854年、ペリーが黒船に乗って日本にやってきた時、船にはバンドが乗っていた。顔を黒塗りにしたバンドのメンバーたちは、バンジョーやフィドルを弾いて、当時のアメリカのミンストレル・ショウの音楽を演奏した。それは日本に初めて海外のポピュラー音楽、いまでいう〈洋楽〉が輸入された瞬間だった。長い航海に耐えるための娯楽として、当時の大型船はバンドを乗せていて、それが異国の地に音楽の種を運んでいく時代だったのだろう。

ペリーの来訪から160年が過ぎた2013年、新しい船と共に航海に出ようとするバンドがあった。キリンジから堀込泰行が脱退した後、堀込高樹が5人のメンバーを引き入れて、再スタートさせたアルファベット大文字のKIRINJIがそれである。翌2014年8月に発表されたアルバム『11』の冒頭は“進水式”。そこで、堀込高樹は〈必ず生きて還ろう〉と歌う。

KIRINJI 11 Verve/ユニバーサル(2014)

KIRINJIの2014年作『11』収録曲“進水式”

 

彼とともに生死を共にする航海に出た5人は、楠均(ドラムス)、千ヶ崎学(ベース)、田村玄一(スティール・ギター)、コトリンゴ(キーボード)、弓木英梨乃(ギター)。3人の男性陣、楠、千ヶ崎、田村はかねてからのバックアップ・ミュージシャンだったが、2人の女性メンバーの加入はファンを大きく驚かせるものだった。コトリンゴ、弓木英梨乃はそれぞれシンガー・ソングライターとしても活動。楠均もカイバレスクスノキスの名でオリジナル作品を作ってきたシンガー・ソングライターだったから、バンドには4人のヴォーカリストが含まれることになった。

このため、アルバム『11』はリード・ヴォーカルが次々に交替し、ヴァラエティーに富んだ曲が並ぶアルバムになった。ソングライターは堀込高樹ひとりだが、曲想的に同じタイプのものが2曲以上ないと言っていいくらいに、次から次に違う世界が開けていく。普通ならば、バンドで制作したアルバムは曲ごとにスタジオ・ミュージシャンを集めて制作したアルバムよりも統一感が出そうなものだが、まったく逆の展開になっていたのがKIRINJIの『11』だった。

そんな『11』から1年と少しが過ぎた2015年11月に発表されるのが、KIRINJIとしての2作目となる『EXTRA 11』というアルバムだ。

収録曲は『11』と多く重なり、『11』の11曲のなかから“シーサイド・シークェンス~人喰いマーメイドとの死闘篇”と“クリスマスソングを何か”を除いた9曲を再演した形である。レーベルからの資料には〈今年(2015年)6月23日、24日に六本木・Billboard Live TOKYOで行われた「KIRINJI PREMIUM 2015 at Billboard Live TOKYO」でのライヴ録音をベースに、スタジオでオーヴァーダビングやエフェクトなどのポスト・プロダクションを施し完成〉とある。つまり、ライヴ・アルバム的な何か。パーマネントなバンドとして、ライヴ活動を行ってきたKIRINJIの航海記的な作品とでも考えればいいのだろうか。 

実際、何も言われなければ、その6月のライヴに足を運んでいないリスナーは、素直にそれをライヴ・アルバムとして楽しむに違いない。多くの曲のエンディングには、観客の拍手も収められている。スタジオでのポスト・プロダクションを施した、とは言っても、それは世の中の傑作ライヴ・アルバムと呼ばれるものの多くに言えること。かのダニー・ハサウェイの『Live』(72年)だって、テープ編集の跡や楽器やヴォーカルのオーヴァー・ダビングが聴き取れるし、そうしたアリフ・マーディンによるプロデュース・ワークを含めての名盤だったのである。などと考えながら、僕も『EXTRA 11』のアドヴァンス音源を聴いていたのだが、メンバーに話を聞いてみると、いや、ちょっと見込みが甘かったようだ。

堀込によれば、当初は「歌は録り直したほうがいいんじゃないかなと思っていた。あとはアコギとかくらいかなと」という構想だったそうだが、「やっぱりいろいろ聴くと難しいなと感じたんですよ。じゃあちょっと録り直すかって話に」。そして、一度、スタジオに戻ってしまうと、それはもう〈ポスト・プロダクション〉と言えるレヴェルのものではなくなっていった。

田村玄一

 

例えば、田村玄一の幻想的なスティール・ドラムをイントロに置く“虹を創ろう”は『11』収録のヴァージョンとは大きく異なっていて、エンディングではスティール・ドラムとコトリンゴのシンセサイザーが絡み合ったスペイシーなサウンドが展開する。これをBillboard Live TOKYOで体験したら、さぞかし至福だったろうと思わすのだが、実は6月のライヴではスティール・ドラムもシンセサイザーも演奏されていない。“虹を創ろう”で田村が弾いたのはバンジョーだったそうで、スティール・ドラムを入れたアレンジが発案されたのは、ライヴ・レコーディングが終わってから。だから、僕が幻視したBillboard Live TOKYOの光景は、現実にはまったく存在しなかったものなのだ。逆に、ライヴへ足を運んだ人にとっては、バンジョーではなくスティール・ドラムが聴こえるこの“虹を創ろう”は、記憶を撹乱するものに違いない。 

6月23日、24日のライヴは、千ヶ崎学が全曲でコントラバスを弾き、Billboard Live TOKYOというハコの特性と相まって、〈MTVアンプラグド〉的な趣もあったようだ。千ヶ崎のアルコ奏法によるコントラバスとコトリンゴのアコーディオンに始まる“ジャメヴ デジャヴ”などはその色が強く、やはり『11』のヴァージョンと大きく異なる聴きものになっているが、そのコントラバスのアルコ奏法も実はライヴでは披露されていない。それどころか、コントラバスの演奏はすべてスタジオで録り直しされている。そして、千ヶ崎はライヴ・テイクをコピーすることはなく、「聴き直した上で、元のテイクは参考にせずにアプローチした」のだという。

千ヶ崎学

 

音楽産業の変化ともリンクして生まれた〈ライヴ・アルバム的な何か〉 

では、『EXTRA 11』で聴けるサウンドのうち、どこがライヴ・レコーディングなのか? 答えは「ドラムとパーカッション、アコースティック・ピアノとフェンダー・ローズ、一部のペダル・スティールと、一部のエレキ・ギター」(堀込)だそう。あとはすべてスタジオで録り直されているのだ。楽器類はどれもリヴァーブのかかった少し遠いサウンドになっているが、それもドラムの雰囲気を合わせるために、スタジオでエフェクト処理したもの。そして、“虹を創ろう”のように楽器編成、アレンジからして、スタジオで練り直されている曲も少なくない。

つまり、『EXTRA 11』は完成度を高めるためにポスト・プロダクションを施したライヴ・アルバムというよりは、ライヴ・レコーディングをプリ・プロダクションと位置付けて制作された『11』のリミックス・アルバムに近いものなのだろう。

コトリンゴ

 

とはいえ、そこにはライヴの熱量も確実に反映されている。もっとも大きいのはリズムにおいてだろう。ドラム・トラックはすべてライヴのもの(ただし、“心晴れ晴れ”だけはよく聴くと、2台目のドラムが打ち込まれている)。それがベーシックになっているから、クリックに合わせて演奏したスタジオ・ヴァージョンとは、基本的なリズム・フィールからして違う。

「ピアノはライヴの音を使ってるので、楠さんのドラムと一緒にわーって走って、みたいな感じも残ってたりする。そういうクリックなしでやった自由な演奏に対して、スタジオに入って、冷静になりながら考えてというのがおもしろい効果を生んでいると思う」(コトリンゴ)。

楠がヴォーカルを取る“ONNA DARAKE!”は、『11』では打ち込みのクラーベを基調にした80sニューウェイヴっぽいリズムで構成されていたが、それが『EXTRA 11』ではむしろ60sのラテン・ロックンロールのようなビートになり、その上で田村のスティール・ギターが疾走する。「あの曲だけはどーんと、オレンジ・カウンティー・ブラザーズ谷口(邦夫)くんのように」(田村)。思えば、彼がこれほどストレートにカントリー・ロック・ルーツを覗かせるプレイを聴かせるのは珍しい。

このように、それぞれの曲のサウンドは『11』と異なる魅力を放っているのだが、一方で各曲の演奏時間はオリジナル・ヴァージョンとほとんど変わりない。ライヴ・ヴァージョンではインタープレイを拡大し、演奏時間を長くするというような志向性は、KIRINJIという6人編成のバンドにはまったくないのだ。どの曲も丁寧にコーラス・ハーモニーが重ねられていることもあって、曲自体のポップな感触は『EXTRA 11』でもほとんど揺るがない。むしろ、印象が柔らかくなり、とっつきやすくなった曲も少なくない。

「ツークッションあるんですよ。まず、ライヴに向けて、曲をどうアレンジするか。それがあったうえで、そのライヴ音源をもとに、『11』とどれだけ離れたものに仕上げるか。その密室作業は個人でやっているんだけれど、メンバーのアイデアからまたヒントを得て、作品がどんどん変わっていくというふうにして、最終的に出来上がったんです」(堀込)。

堀込高樹

 

考えてみると、世界的な傾向として、ポップ・ミュージックにおけるライヴとレコーディングの関係は、21世紀に入って、大きく変化を遂げた。CDのセールスが音楽産業の根幹となっていた2000年代初頭までは、ライヴはCDをプロモーションする場として位置付けられていた。コンサート・ツアー自体は赤字でも、そのプロモーション効果を見込んで、レコード会社が費用負担を引き受けた。しかし、CDセールスが低迷し、ライヴ・マーケットが活況という時代がやってきて、両者の関係は大逆転してしまった。現在ではCDはコンサートのプロモーションのために制作するものになり、音源自体はタダで配布しても、ツアーで収益を上げれば良い、と考えるアーティストも海外では珍しくなくなっている。 

レコーディング作品を作り上げることを表現活動の中心に置くアーティストにとっては、これは辛い時代だ。かつてのスティーリー・ダンのように、ツアーを嫌い、1年中、スタジオに籠っていることを好むようなアーティストは、生きていくことが難しくなっている、と言ってもいい。

堀込高樹が、それぞれが自立した存在でもある5人のミュージシャンを引き入れて、新生KIRINJIを船出させたのも、どこかで音楽産業のそうした世界的傾向と関係しているのだろう。ポップに作り込んだ音楽をやるにあたっても、同じメンバーでライヴを重ねたうえで、そこで得られた感覚をフィードバックさせて、スタジオ作品を作り上げていく。実は『11』もすでにそういうアルバムであったのだが、その次に進む前に、この〈ライヴ・アルバム的な何か〉が必要とされた。バンド内のケミストリーの進展を確認する意味でも、ということかもしれない。

『11』の冒頭に置かれた“進水式”が『EXTRA 11』では最後に置かれ、エンディングの〈われらの船だ〜必ず生きて還ろう〉のあたりでは、堀込高樹が感極まったかのように、メロディーをフェイクする。が、いかにもライヴのエンディングに相応しいその瞬間も、実際はスタジオでの密室作業。「ライヴがどうこうじゃない。元と変えなきゃ!っていう一心で、自宅で感極まった」(堀込)。

そこまで種明かししなくても良いのに、と思わないでもないが、してしまって良いのだろう。航海記的な作品になるはずが、港に戻った船はドックに入り、高樹船長は図面を引いて、ふたたびシップビルディングに明け暮れ……というのも、実にKIRINJIらしい光景に違いないのだから。
 



KIRINJI LIVE 2015

【東京公演】
日時/会場:2015年11月21日(土) 東京・EX THEATER ROPPONGI
開場/開演:17:00/18:00
料金(税込):アリーナ立見/6,480円、スタンド指定/7,020円
問い合わせ:DISK GARAGE 050-5533-0888
http://www.ex-theater.com/contents/schedule/0417/ 

【大阪公演】
日時/会場:2015年11月25日(水) 大阪・梅田CLUB QUATTRO
開場/開演:18:15/19:00
料金(税込):前売り/6,480円
問い合わせ:キョードーインフォメーション 0570-200-888
http://www.club-quattro.com/umeda/schedule/detail.php?id=5304

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