コラム

アルカ、多数の外仕事経て早くも届いた新作『Mutant』はロマンティックな作曲家としての才能も閃かせる開かれた内容

【特集:ポストの先で出会った地下のポップス】Pt.2

#AndAndAndAndAnd
【特集】ポストの先で出会った地下のポップス
多様なコンテクストを出入力しながら、驚くべき早さで拡散していった〈#OPN〉〈#Arca〉の波動。その現象がいま、スタンダードになろうとしている

 


ARCA
内側から外側へ――アルカはこの2作目でリスナーとコネクトする道を選んだ。親密さと混沌、その向こうに待っているのは破滅か、それとも……

 

美しく官能的な世界

 衝撃のデビュー・アルバム『Xen』から1年。その間に、ビョークの最新作『Vulnicura』を手掛けて全世界から賞賛を集めたアルカ。ベネズエラ出身で、現在はロンドンに拠点を置く彼が、持てる才能を爆発させるかのように早くもセカンド・アルバム『Mutant』をリリースした。

ARCA Mutant Mute/TRAFFIC(2015)

 おそらく、〈突然変異体〉を意味するタイトルから多くのリスナーがイメージするのは、ノイズ、インダストリアル、ヒップホップ、アンビエント、クラシック音楽、ニューエイジといった、さまざまな要素を鋳造することでアルカが生み出す、金属的で歪んだ音塊だろう。映画「ターミネーター2」に登場する液状金属のアンドロイドのように、曲中で、作品全体を通じて、絶え間なく形を変える音塊。その奇妙な響きは、クリエイティヴ・パートナーであるヴィジュアル・アーティストのジェシー・カンダが、音世界を補完するように描いたグロテスクな映像も相まって、捻じれ溶けた末に見い出した美しく官能的な本作の突然変異性を際立たせている。

 彼がこれまでにプロデュースしてきたサウンドを振り返った時、アルカの〈突然変異性〉は時と場所、アーティストや作品に応じて風合いを変えてきたことがわかる。例えば、その名を一躍世間に知らしめたカニエ・ウェストの『Yeezus』では、インダストリアルやゴシックの要素を持ち込みつつもあくまでヒップホップとして成立させていたし、FKAツイッグスの『EP2』や『LP1』は、イビツな音像で更新した〈2010年代のトリップ・ホップ〉とでも表現すべき仕上がりだった。さらにビョークの『Vulnicura』では、彼女が紡ぐメロディーと寄り添うようにアブストラクトなビートを構築。〈ポスト・アリーヤ〉と評されるケレラが今年10月に配信リリースしたEP『Hallucinogen』収録の“A Message”では、ビヨンセの2013年作『Beyonce』を手掛けた新鋭ブーツのサポートも得て、ミニマルでアンビエントなスロウ・ジャムを誕生させるに至っている。

 また、アルカがNYのラグジュアリーなストリート・ブランド、フッド・バイ・エアのコレクション音楽を、2015年の秋冬、2016年の春夏と2度に渡って担当していることにも触れておこうか。後者はブランドのデザイナーにして、以前から親交が深いショーン・オリヴァーとのユニット、ウェンチ名義で制作し、ケミカル・ブラザーズシェールアーサー・ラッセルクリスタル・キャッスルズボーン・サグスン・ハーモニーt.A.T.u.クリス・クラークをサンプリングしながらポップなサウンドスケープを展開。加えて、去る10月にはディーン・ブラントの新たなプロジェクト、ベイビーファーザーとのコラボ曲“Meditation”も発表したばかりだが、こちらではディーン主導のトラックにアルカが手を加えたと思しきストーナー・ダブが披露されている。

 

破壊と再生を繰り返し……

 こうした外部仕事を追っていくと、『Xen』で潜在意識のレヴェルまで内面を深く深く掘り下げたアルカの別の顔とでも言うべき、開かれたスタンスが浮かび上がってくる。そして、彼が愛するもの、友人や家族、知人などから受けた影響がトリガーとなった『Mutant』もまた、リスナーに向けて開かれた内容の一枚となった。

 ベースを用いず、破裂音をビートとして代用することが多いトラックの基本構造に大きな変化はないし、ダンス・ミュージックや特定のジャンルの機能性には目もくれず、分断や接続、ウネリなどによってダイレクトに感情に訴えかける音響空間の構築マナーにも、揺らぎは一切感じられない。情報が錯綜/飽和したポスト・インターネットの時代にあって、瞬く間に記号として消費されることを回避し、音楽を音楽のまま、可能な限り生きながらえさせるために意味や意図をギリギリまで削ぎ落とそうと、試行錯誤を繰り返した姿がアルバムからは窺え、そこにミュージシャンとしての誠実な在り方を感じたりもする。

 そのうえで本作における彼は、エリック・サティの“Gymnopedie”を想起させるピアノと弦楽器の音色が宙に浮かぶ“Else”、チェンバロやギターのメロディアスなフレーズとビートでドラマを生み出す“Sever”、弦楽器の音色を加工してクラシカルなコンポジションを聴かせる“Gratitud”といった楽曲において、ロマンティックな作曲家としての才能を閃かせる。

 ジェシー・カンダの手掛けたアートワークには、もはや裁ききれないほどの情報で歪み、肥大化した人間の脳内を投影したかのような突然変異体が映し出されているが、アルカはこのアルバムを通じ、そんな人間の奥底にもまだまだ美しく響く音楽の断片があるということを、彼なりの手続きで提示したかったんじゃないだろうか。情報の瓦礫で覆い尽くされたシーンのなかで、美しいサウンドを探し求めるリスナーが少なからず存在していることもまた、確かなのだから。失われた〈音楽〉を求め、破壊と再生がどこまでも繰り返されるエレクトロニックな音の渦に、迷うことなく飛び込んでいただきたい。

 


【特集】ポストの先で出会った地下のポップス
★Pt.1 ワンオートリックス・ポイント・ネヴァー『Garden Of Delete』のインタヴューはこちら
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