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トランぺッターとしての革新性とショウアップの自覚

――ロイはトランぺッターとしても、(前の世代に当たる)ウィントン・マルサリスやニコラス・ペイトンとは違いますよね。

「確かに。ニコラス・ペイトンはウィントンの影響が如実にありましたけど、ロイが登場したときは誰とも似てなかったですよね。アドリブの構成にも独自のスタイルがありましたし。しかも、ロイの影響を受けた奏者がそのあとに続々と現れている」

ロイ・ハーグローヴ・クィンテットの2007年のライヴ映像

ニコラス・ペイトンの2001年のソロ・パフォーマンス映像

――以前、黒田卓也さんにインタヴューをしたときにも〈ロイが出発点で刺激を受けた〉と話してました。

「そうですね、黒田くんや広瀬未来くんはロイの影響が見える部分もありますよね」

――あとは、いまディアンジェロのバンド(ヴァンガード)に参加しているキーヨン・ハロルドや、ディーディー・ブリッジウォーターと一緒にやっているセオ・クロッカーにもロイの影響がある気がしますね。

「影響を受けているというよりも、NYのジャム・セッションがそういうふうになってきているんだと思うんですよね。現地にはああいう(ロイの影響を受けた)トランぺッターが増えているんじゃないかな。そういう意味では、今日のNYにおける演奏スタイルの在り方を形成したのかもしれない」

黒田卓也の2014年作『Rising Son』収録曲“Rising Son”

キーヨン・ハロルドが参加した、デリック・ホッジの2014年のライヴ映像

――エフェクター以外で、類家さんにとってロイの存在が刺激や参考になった点はありますか?

「実は、ロイの曲ばかり演奏するバンドを2年ぐらい前から不定期でやっているんですよ。(ドラムスの)佐藤ことみがロイのファンで。それで曲も分析して譜面に起こしているんですけど、本当に難しいです(笑)。あと参考にしたということなら、ショウアップの仕方ですかね。ロイはそういうのを物凄く気を使っている人じゃないですか」

――ドレッドヘアやハットのイメージがありますよね。そういえばロバート・グラスパーも、ロイのことを〈単純にカッコイイ〉と言ってました。

「お洒落でスター性がある人ですよね。マイルスもそういう人だったけど、ジャズは特にそういう人が少なかったから」

ロイ・ハーグローヴ・クィンテットの2014年のライヴ映像。ロイのファッションにも注目

――当時のヒップホップ・シーンだと、コモンがそんな感じでしたよね。クレヴァーな印象で、クラシカルなジャケットを羽織ったりしているんだけど、上手く着崩していて。ギャングっぽさはなくて、それよりもジェントルマンなイメージ。

「そうそう。一般の人が見てもカッコイイと思える形でジャズを演奏していますよね」

コモンをフィーチャーした、RHファクターの2003年作『Hard Groove』収録曲“Common Freestyle”

――あと、アルバムではロイ本人の演奏が目立つ感じではないですよね。『Hard Groove』でも、ロイのトランペットが一番目立たないと言えるくらい。逆に言えば、自分が引くことができる。最近だとグラスパーもそうですけど、トータルのプロデュース能力にも秀でた人なのかなと。

「〈吹かない〉という点では、マイルスも意外と吹かないですよね。リーダーとしての存在感が大きいから錯覚しがちですけど。そうやって俯瞰して全体を見渡せているのは凄い。あとロイの演奏は、ソロを吹くときのダイナミック・レンジがすごく広いんですよ。物凄く小さい音も使うし、クールなんだけどなんというか……。表現が難しいな(笑)」

――派手な特徴があるわけではないから言語化が難しいけど、とにかくハイセンスに演奏がまとまっていますよね。ウィントンやニコラス・ペイトンにはニューオーリンズらしさがあるけど、ロイにはそれがない。かなり都会的で。

「洗練されていますよね、テクニックもあるし。確かに言葉にはしづらいけど、〈ロイ・ハーグローヴっぽい〉と言えば伝わる共通認識はトランぺッターの間でもあります」

――ウイントン・マルサリス以降に、ここまで個性のあるトランぺット奏者はいなかったじゃないですか。やっと近年になって、クリスチャン・スコットやアンブローゼ・アキンムシーレのような新世代が台頭してきましたけど。

「クリスチャン・スコットは僕も好きです。それに、アンブローゼはいい意味で変わった人ですよね。というのも、トランペットは離れた音を操るのが難しい楽器なんですよ。マイルスやクリスチャン・スコットは半音階を上手く使っているんですけど、アンブローゼは跳躍のある音程を好んで使って吹いていて。独特なアプローチですよね」

アンブローゼ・アキンムシーレのライヴ映像

――ちょっと突然変異っぽいところがありますよね(笑)。そんな感じで、15年くらい経過してようやく次のスタイルが生まれつつある。だからロイは、90年代後半から2000年代前半にかけてのイノヴェイターだと言えそうですね。

「そうですね。〈これを聴いておけば安心なんだ〉と思えるというか、スタイルの指針とも言える存在だと思います。あとは体調を崩していた時期もあるけど、第一線でずっとやり続けているのも凄いですね」

――片や類家さんも、現在はRM jazz legacyでかなり久しぶりにR&Bやネオ・ソウル的なサウンドを演奏しているわけですよね。しかも、かつて一緒にセッションしていたmabanuaさんたちと共に。

「そうですね。自分のバンドのメンバーも携わっているし、坪口(昌恭)さんのバンドの人も被っているし、近い人たちでいろいろやってます」

類家が参加した、2015年作『RM jazz legacy』のトレイラ―映像

――そして類家さんのバンド、RS5pbによるニュー・アルバム『UNDA』が3月23日にリリースされるんですよね。2013年のソロ前作『4 AM』はライヴ盤でしたけど、今回のバンドもそのときと同じ5人編成なんですよね?

「そうですね。それで新曲も交えながらスタジオで録ってみました」

類家心平 『UNDA』 T5Jazz(2016)

――新作にはどんなコンセプトがあったんですか?

「ガツンとロックっぽい感じで、ちょっとエレクトリックなものにしたくて。凄くギリギリのところを狙って作りましたね。座っても立っても聴けるし、ジャズのハコでも違う場所でも演奏できるといったような」

――アルバムは確かにロックな仕上がりでしたね。レイドバックしたリズムはなくて、それよりも前のめりな感じ。

「どう転んでも日本人っぽくなってしまうのは否めないと思うんですよ。(ブラック・ミュージックとしての)ルーツを追求するのとは別に、ジャズは白人が発展させてきた部分もあるし、日本でだってそう。だから、ひとつのアートとして捉えたときに、自分を通して出てきたものがいいのかなと。そう思わないとやってられないので。そう考えたときに、R&Bやヒップホップっぽいことをやるより、ロック的な演奏をしたほうが〈日本人らしさ〉が出てきたときに、よりセンスのいいものが出来上がるんじゃないかと思ったし、自分としても表現しやすかった」

類家心平の2013年作『4 AM』のトレイラ―映像

――あとはトランペットのエフェクトと、そういう(ロックな)演奏の相性もありますよね。類家さんのワウを使うスタイルとエレキ・ギターの音は合いますし。70年代マイルス的というか。

「そうなんですよ。生楽器とそうでない楽器とか、ジャズとロックとか、そういった要素の接着剤になるのがギターだと思っていて。(前作から)ギターが入ったことで、自分のやりたいことができるようになりましたね。あとはミックスやマスタリングの段階で、かなりロウ(低音)を強調したり、突っ込んだ作りにしてみました。クリスチャン・スコットのアルバムも凄くロウが出ているじゃないですか。あのくらいやってもいいんだという思い切りが最近はありますね」

 


LIVE INFORMATION
ロイ・ハーグローヴ・クィンテット

2016年1月26日(火)~29日(金)ブルーノート東京
1stショウ
開場/開演:17:30/19:00
2ndショウ
開場/開演:20:45/21:30
自由席:8,500円 ※指定席の料金は下記リンク先を参照
★予約はこちら

 

■類家心平からのお知らせ
LIVE INFORMATION
RS5pb new album『UNDA』release tour

2016年5月2日(月)東京・新宿PIT INN
2016年5月4日(水)八戸・HACHI
2016年5月6日(金)水戸・CORTEZ
2016年5月8日(日)名古屋・jazz inn LOVELY
2016年6月未定 横浜・MOTION BLUE YOKOHAMA