残響レーベルらしいポスト・ロック然としたサウンドから、作品を重ねるごとにアトモスフェリックな空気感とミニマルなプロダクションを推進してきた4人組、雨のパレード。直近のミニ・アルバム『new place』とシングル“Tokyo”においてはダンス・ポップとしても機能するフィジカルな方向へ明確に舵を切った彼らが、インディー時代の代表曲も含むメジャー・デビュー・アルバム『New generation』を完成させた。そのソングライティングの要である福永浩平は、現在のバンドの音についてこう語る。
「自分のやりたいことは結構、海外の新人の方々、同世代の方々とシンクロしてる部分が多いかなと思っていて。ジャンル的に言うとジェイムズ・ブレイク以降に派生した人たち……ポスト・ダブステップと言われるものならミスター・ライズとか、あとはライとかソンとか、ちょっとジャズに寄るとトロピックスとかハイエイタス・カイヨーテとかが近いのかな。彼らみたいに、〈貪欲にやりたい音を追求したい〉っていう心持ちです。でも日本で、マスに向けて、いずれは幕張メッセみたいに大きな会場でもライヴができるようなバンドになりたいので、先鋭性と〈ポップスであること〉とのせめぎ合いで作っている感じですね」(福永:以下同)。
テクノ~ハウス、ベース/ビート・ミュージックを土台とするリズム/音色が散りばめられたサウンド上を、メランコリックに浮遊する福永の歌声。日本であればサカナクションが近い存在だろうが、どんなアレンジの楽曲も纏う深淵な音響が雨のパレードの特性と言える。そうした音楽性を支えているのは、サンプリング・パッドを多用したバンド演奏。「ギタリスト(山崎康介)は、ギターを弾くセクションがあったり、MPCで音を出すセクションがあったりするんですけど、今回は手が足りなくなって、ギターをサンプリングしてMPCで入れるっていう荒業をやってます(笑)」という“Movement”のエピソードからも、その柔軟なプレイ・スタイルが窺える。
「アルバムのタイトル『New generation』にもあるんですけど、サンプリング・パッドとかを採り入れて、バンドでありながら〈バンド・サウンド〉ではないっていうスタイルが、僕は〈新世代〉だと思ってて。新曲はディスクロージャーだったり、フランク・オーシャンだったり、好きなアーティストの音色をいろいろと意識しながら、どうやったらもっといいものになるのかってことを考えて作ったんですけど、それこそFKAツイッグスとかも、ひとり2~3台のサンプリング・パッドに音を全部入れて、並べて叩いてるじゃないですか。僕個人としては、そういう柔軟性がいまのバンドのあり方なのかなと思っていて、今回はそこの世代をこれから引っ張っていけるような一枚にしようと思って制作したんですね。新曲に関しては、歌詞も〈お客さんと一緒に僕らが時代を塗り替えていこう〉っていう意志を持って書いていて」。
毅然としたポエトリー・リーディングを聴かせる“10-9”や“揺らぎ巡る君の中のそれ”の新録音版、〈これでまた淡々と回る世界の一部に戻ってしまうんだ〉といった一節が書きたかったという“breaking dawn”、ヨンシー&アレックスへのトリビュートである(?)インストなどの差し色がありつつも、アルバム全体を貫くテーマは、当人の言う通りに明白だ。本作の最初期と最後に出来上がったのは、“epoch”と“Movement”。〈風穴を開ける〉というアートワークよろしく、彼はこう綴っている。
〈このまま このまま このまま/僕らの波は広がって/時代をきっと変えるはず〉(“epoch”)。
〈どんな偉大な波だって/きっと最初は僕らのような/名もない日々から/名もない声から〉(“Movement”)。
夜を過ごす主人公が、自由に身体を揺らすオーディエンスが集うダンスフロア。密かな昂揚感が揺らめくこの13曲から新しい潮流が生まれるのではないか――そう思わせるだけの萌芽が、ここにはある。
雨のパレード
福永浩平(ヴォーカル)、山崎康介(ギター)、大澤実音穂(ドラムス)、是永亮祐(ベース)から成る、東京を拠点として活動する4人組バンド。2013年に結成。ライヴを重ねつつ、独自の活動スタイルで徐々に話題を広め、2014年8月には残響のレーベル・コンピ『残響record Compilation vol.4』に“ペトリコール”を提供。同年10月には単独名義によるファースト・ミニ・アルバム『sense』を発表し、翌2015年には2枚目のミニ・アルバム『new place』を上梓。コンスタントに作品を送り出すなか、2016年は先行カットとなる1月のシングル“Tokyo”に続き、メジャー・デビュー・アルバム『New generation』(スピードスター)をリリース。