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6月来日! 今、一番聴きたいヴァイオリニスト

 ルノー・カピュソン(1976年フランス生まれ)は性能の高さ、共演指揮者・ピアニストの芸格、メジャーレーベルから定期的に協奏曲や室内楽の有名作品の録音をリリースできる(つまり「売れる」)の3点において今、最も脂の乗っているヴァイオリニスト。

 そのカピュソンが2016年6月の来日(フランス国立リヨン管弦楽団 [指揮レナード・スラットキン] の帯同ソリスト)に先立ってパーヴォ・ヤルヴィ指揮、パリ管弦楽団との共演で協奏曲アルバムをリリース。曲目はラロのスペイン交響曲、サラサーテのツィゴネルワイゼン、そして来日公演曲目のブルッフのヴァイオリン協奏曲第1番。

RENAUD CAPUCON,PAAVO JARVI,ORCHESTRE DE PARIS ツィゴイネルワイゼン、ラロ:スペイン交響曲&ブルッフ:協奏曲 Erato/ワーナー(2016)

 フランス系のヴァイオリニストには特徴ある節回しや絵の具の塗り方で名をはせるタイプが多いがカピュソンは一味違う。明晰で切れ味鋭い身のこなしの音楽を作れて難所における精度の卓越性と対応能力が高い。つまり自動車で言う「走る、曲がる、止まる」にあたる基本性能が際立っているのだ。従ってカピュソンは古典から近現代まで作曲家の国・地域問わず幅広いレパートリーに対してスコアの情報を的確にすくい上げ、山と谷のはっきりした音楽で表現できる。もちろん音の伸び、艶の面でも聴き手をひきつける要素持っている。

 今回のアルバムはカピュソンの魅力がぎっしり詰まった1枚。いやらしいしなを作ったりせず輪郭の明瞭な凝集力ある質感のサウンドで正面から弾きこむ。3曲ともたくさんの名演奏、名録音が重ねられてきた超有名曲だがカピュソンのアプローチは作品のいわば垢の落とされた美しさを再認識させてくれるもの。またブルッフではシャープさを保ちながらかなり濃い歌も聴かせるなどカピュソンの表現の拡がりが覗えるところもあり、若手・中堅の域からいよいよ歴史に残る名手への階段を上りつつあることが実感できる。

 そして忘れてはならないのがパーヴォ・ヤルヴィの指揮の素晴らしさ。特にラロでの共演ぶりが見事。ショーピースを5つ連ねた格好になりがちな作品だがヤルヴィは強靭かつきめ細かい処理の施されたサウンドで「交響曲」という表題そのままの作品としての構成美を浮かび上がらせた。パリ管弦楽団も持ち前のカラフルさはそのままにヤルヴィとの一連の録音で高い評価得てきた緻密なアンサンブルで演奏全体を支えている。

 冒頭記したようにルノー・カピュソンは間違いなく今、最も脂の乗っているヴァイオリニスト。聴き逃す手はない。本アルバムに浸った後、6月の来日公演でその名技を体感してはいかがだろうか。

 


LIVE INFORMATION

ルノー・カプソン 2016年来日公演
○6/30(木)19:00開演
会場:サントリーホール(東京)
出演:ルノー・カプソン(vn)レナード・スラットキン (指揮)フランス国立リヨン管弦楽団
曲目:ブルッフ:ヴァイオリン協奏曲第1番 ト短調 op.26 ムソルグスキーラヴェル編):組曲「展覧会の絵」他
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