無双の指捌きと多彩な表現力で話題のピアニストが示す、名曲の新しい地平
異次元の切れ味の技巧、音楽から放たれるスピード感とエネルギー、ゾクッと妖艶な音色……カティア・ブニアティシヴィリはいま最も聴き手を魅了するピアニスト。録音リリースも活発でいずれも高評価。また2016年11月には協奏曲の映像ソフト(ズービン・メータ指揮のイスラエル・フィルと共演)がリリースされた。
そんな彼女の新録音はラフマニノフのピアノ協奏曲。しかもパーヴォ・ヤルヴィ指揮のチェコ・フィルのバックという大顔合わせ。音楽ファン待望の1枚といえる。
まず耳を奪われるのは抜群の響きの解像度。クールな質感の鋭いタッチでいかなる難所もガチャガチャせずスパッと弾きぬいて、作品の綾を明晰に浮かび上がらせる。また過去のアルバム(小品集『マザーランド』など)で印象深かった、沈み込むような弱音の美しさも冴えている。そして第2番の第1楽章や第3番の第3楽章などにおいては激しい叙情の迸りの中にどこか醒めた感覚を漂わせ、ラフマニノフの作品の不思議さ(屈折とも言えるか)をあぶりだす。ブニアティシヴィリのテクニックと読みの卓越性が覗える。
パーヴォ・ヤルヴィの指揮はブニアティシヴィリと何度も共演しているだけあって実に行き届いたもの。チェコ・フィルの厚みのあるサウンドを生かして音楽全体を大きく縁取りながら、小回りの求められる個所ではオーケストラを器用に動かして奔放なソロと濃密に絡み合う。ソロと指揮の高いレヴェルの相互作用がこれだけはっきり表れた協奏曲録音は久々に聴いた気がする。
近年、若手ピアニストによるラフマニノフの協奏曲録音が次々とリリースされ、それぞれの特徴でファンを楽しませているが、今回のブニアティシヴィリの録音は一段抜けた破格の内容。ラフマニノフのピアノ協奏曲の演奏史、録音史の新たな1ページを拓く名盤の登場を慶びたい。