UKはマンチェスター出身の新世代ピアノ・トリオ、ゴーゴー・ペンギンのブルー・ノート移籍第1弾アルバム『Man Made Object』がリリースされて約2か月。クラブ・ミュージックや現代音楽の影響に基づく彼らの演奏は、ロバート・グラスパーを筆頭とする〈ブラック・ミュージック再解釈〉の動きとは一線を画しており、ジャズの新たな可能性を切り拓くアクトとして日を追うごとに注目を集めている。
Mikikiでは、彼らの歩みを紹介したイントロダクション&ライヴ・レポート記事に続いて、People In The Box(以下ピープル)の波多野裕文と、ビートメイカーのyuichi NAGAOを迎えた対談記事を企画。邦楽ロック・シーンを代表するピープルは、3ピースという編成や、変則的かつ難解な曲構成などにゴーゴー・ペンギンとの共通項も窺えるほか、フロントマンの波多野は自身のTwitter上などで、以前から現代ジャズへの興味を公言していた。片やyuichi NAGAO は、日本のエレクトロニカ・シーンを牽引するPROGRESSIVE FOrMから昨年9月に『Phantasmagoria』でアルバム・デビューを果たした(レヴューはこちら)新進気鋭のビートメイカーで、大学時代には菊地成孔に音楽理論を師事していたという経歴の持ち主だ。聞き手には〈Jazz The New Chapter〉シリーズの監修を務めるジャズ評論家の柳樂光隆氏を迎えて、ジャズ × ロック × ビート・ミュージックの3方向からゴーゴー・ペンギンと『Man Made Object』の革新性に迫った。
音楽家がクロスオーヴァーを志すのであれば、その動きを伝える記事でもジャンルを越境していくべきだろう。そのようなアイデアから企画されたこの対談は、4月2日(土)、3日(日)にブルーノート東京で開催されるゴーゴー・ペンギンの来日公演を前に、時に音楽理論も駆使しながら徹底解剖を試みつつ、〈この時代に音楽を作る理由〉にまで言及するという、非常にディープな内容となった。
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ゴーゴー・ペンギン台頭の背景
ジャズの最前線とUKのクロスオーヴァー
――波多野さんは現代ジャズだと、どのあたりに興味があるんですか?
波多野「最近のジャズはビートへの意識の持ち方がおもしろいなと思っていて。最初はヴィジェイ・アイアーの“Human Nature”を聴いてびっくりしたんですよ。なんの変哲もない3連のバックビートのようで、よくよく聴けば3拍目だけが3連符の中のひとつ分だけ長いんです。そういう手法を頭の中に思い浮かべることは論理的には可能だろうけど、そういったアイデアをサラッと演奏として実現させて、しかもそのビート上で各々の演奏が自由自在にフロウしているということに感銘を受けました。数学的ではあるけれど、聴いていてそういう感じがしないというか、あざとさを感じさせないのが驚異的ですよね」
――それ以外では?
波多野「コリン・ヴァロンもガチでヤバイですね。ビートというか、音の長さに対する集中力がすごい。時間を支配してやろうという気合いを感じさせるし、演奏家としての甘えを感じさせない。どこからどこまでがインプロヴィゼーションなのかわからないけど、ギリギリのところでジャズであることを保っているというか」
――よくわかります(笑)。
波多野「電子音はまったく入ってないけど、オウテカみたいな音楽もガンガン聴いてきているのがわかるんですよね。パーカッションの〈トトン、トトン〉って響きが列車の走る音のように聴こえたりとか、そういうことをリスナーに感じさせる想像力の余地を残している。でも特別な楽器は使ってないだろうし、オーヴァーダブもしていないですよね。だから、『Le Vent』には本当に感動しました」
――NAGAOさんはいかがでしょう?
yuichi NAGAO「グラスパー周辺はもちろんですけど、UKではLVのようなダブステップをやってた人もジャズに接近しているんですよね。日本だとトラックメイカーとジャズ・ミュージシャンは文化的な距離が若干ある気がするんですけど、そこがナチュラルに混ざっている。その折衷具合が最近は気になってます」
――LVが昨年リリースしたアルバム『Ancient Mechanisms』にはティグラン・ハマシアンが参加しているんですよね。あのコラボはジャイルズ・ピーターソンが間に入ったそうですけど。
NAGAO「LVの作品の延長線上としても聴けるし、ジャズ・ピアノを求めても楽しめる。そういうクロスオーヴァーの伝統がやっぱりUKにはあるんですかね」
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――確かに、音楽の土壌がアメリカとは違いますよね。
NAGAO「ゴーゴー・ペンギンもそうですよね。リズムの訛り方を取っても、ヒップホップ的なもたり、J・ディラ的によれたビートというよりは、もっとコンポーズされた作為を感じたので、アメリカとUKの文脈を対比させて聴くのもおもしろそうだと思いました」
――ゴーゴー・ペンギンのキャラクターはUKそのものって感じがしますね。アメリカからは絶対出てこないバンドというか。
NAGAO「同じUKを拠点にしているバンドなら、例えばフロネシス(Phronesis)のほうがソロや変拍子といったジャズ的な旨味があるんですけど、ゴーゴー・ペンギンは折衷感があって、そこが単純に聴きやすい」
