台湾出身の3人組、宇宙人(Cosmos People)――本国では2009年にCDデビューを果たした彼らは、幾度かのメンバー・チェンジを経ながら活動するなかで人気を獲得し、いまや現地で絶大な知名度を誇るバンドである。そして2014年に、それまでに台湾で発表してきた作品から楽曲を選りすぐった編集盤『コスモロジー』(大滝詠一“幸せな結末”のカヴァーも収録!)で日本デビュー。ソウル/ファンク、ジャズなどのエッセンスを消化した麗らかなシティー・ポップ・サウンドで話題となった。同年の〈SUMMER SONIC〉で初来日して以降、日本でも着実にファンを増やしている。
そして今年2月には、日本での2作目(昨年発表した台湾での3作目)『10000 Hours』、さらに同作収録曲(オリジナル新曲も含む)を日本語詞で歌ったミニ・アルバム『TIME LAPSE』をリリース。そしてこれらの話題作を引っ提げて、先日1年ぶりの来日公演を東京&大阪で開催した。このタイミングで、Mikikiは宇宙人に初インタヴューを敢行。彼らの音楽的ルーツを探るところから始まり、新作『10000 Hours』についてはもちろん、発音の自然さもあって私たちが普段耳にするJ-Popと何ら変わりなく聴こえる日本オリジナル作『TIME LAPSE』の制作時エピソードまで、じっくり話を訊いた。
毎回新しいものを作って〈宇宙人色〉を打ち出す、
それが僕たちの音楽
――宇宙人(Cosmos People)はどのようにして結成されたんですか?
小玉(シャオユー:ヴォーカル/キーボード)「僕は小さい時からクラシック・ピアノを習っていて、その頃からロックやファンクを聴きはじめました。高校生の時に阿奎(アークェ:ギター)と出会って、一緒にバンドを始めたんです。高校の時はロック部に入っていて、方Q(ファンキュー:ベース)はそのロック部の先輩なのですが、彼には途中からバンドに加わってもらい、いまに至ります」
――皆さん、どういったアーティストから影響を受けているんですか?
小玉「僕はアース・ウィンド&ファイアやファレル・ウィリアムズといったファンク、ソウルのアーティストからの影響が強いです」
阿奎「僕はマイケル・ジャクソン、プリンス、ナイル・ロジャース、(ナイルも所属する)シックですね」
方Q「僕はレッド・ホット・チリ・ペッパーズかな。日本のアーティストからも影響を受けていて、東京事変やL'Arc~en~Cielが大好きです。ベーシストとしては、マーカス・ミラーなどの影響が強いですね」
――台湾では日本のアーティストはどの程度ポピュラーなんですか?
方Q「台湾には昔から日本の音楽が入ってきていて、例えば上の世代のアーティストたちは日本の曲をよく中国語でカヴァーしていたんです」
小玉「逆に僕たちより下の年代は日本のアニメやアニソンにかなり強いんじゃないかな」
阿奎「ついこの間もONE OK ROCKが台湾でライヴをしたばかりですし、台湾ではかなりポピュラーなんですよ」
――そうなんですね。皆さんがルーツとして挙げたアーティストから察するに、3人ともソウル・ミュージックを敬愛していることが伝わってきます。では宇宙人としてはどういう音楽性をめざしていましたか?
小玉「結成当時によく聴いていたのがファンクやソウル・ミュージックだったので、まずはそういう方向性からスタートしたんですけど、やっぱり多くの音楽から常に影響を受けているので、宇宙人としては前回作った音楽とは違った音楽を作りたい。それをテーマに毎回新しいものを作り、どんどん〈宇宙人色〉を打ち出していく、それがまさに僕たちの音楽だと思っています」
――宇宙人の楽曲を聴くと、メロディーがポップでわかりやすく、親しみやすい点が一貫しています。そこに対しては強いこだわりがあるんですか?
小玉「そうですね。ポップでわかりやすいメロディーで、聴き手が入っていきやすい曲というのは常に心掛けています」
方Q「曲作りに関しては、常にバランスを気にしていて。それは歌詞からのアプローチだったりサウンドからのアプローチだったり、みんなが聴きやすいように、いろんな方向からバランスを取っているつもりです」
小玉「ビートルズやマイケル・ジャクソンといった人たちは、そのバランス感覚がかなり優れているアーティストですよね。彼らの曲は全世界の人たちに好まれ、心を動かすようなメロディーや歌詞を兼ね備えているので、僕たちも将来そういう存在になりたいですね」
――特に最新アルバム『10000 Hours』を聴いて感じたんですが、宇宙人は固定のジャンルでは括れない音楽をやっているなと。それこそビートルズやマイケルにも通ずる親しみやすさがあって、ポップ・ミュージックとしては世界共通の魅力が備わっているのかなと思いました。
阿奎「ありがとうございます。やっぱり聴き手と思いを共有できないと、達成感も得られませんし」
小玉「そういう意味でも、僕たちは自己満足で終わらないように、曲作りにはこだわっているんです」
――ちなみに宇宙人は台湾の音楽シーンにおいて、どういった層の方々に支持されているんですか?
阿奎「大学生くらいかな」
小玉「そうだね、中心になっているのは大学生からちょっと上くらいの世代ですね」
――なるほど。宇宙人が鳴らしているようなサウンドは、日本でも20代前半からそのちょっと上の世代の人たちが愛好している印象があるので、そこは万国共通かもしれないですね。
小玉「ロックにありがちなうるさい要素をあまり入れていないというのも要因かもしれないですね」
――日本では2014年に〈SUMMER SONIC〉で初ライヴを行いました。その初来日時によく覚えていることは?
方Q「最初は驚きの連続で。日本に来るのが初めてだったので、僕たちのことを知っている人はきっといないんだろうなと思ってステージに立とうとしていたら、ライヴが始まる前からあきらかに僕たちのことを待ってくれているお客さんが集まっているのが見えて。まずそこにいちばん驚かされました」
――そこから2015年に単独公演を行い、今年も再来日が実現しています。定期的に日本を訪れることで、日本に対する印象は変わりましたか?
小玉「それほど大きくは変わらないです。ただ、いろんな経験を積んだことで自分自身がいろいろ変わってきているので、その変化を音楽を通じて見せられたらなと思っています」
――では日本を訪れた際に、何か新たな発見はありましたか?
阿奎「〈SUMMER SONIC〉に出演した時に、日本のアーティストだけでなく世界的なアーティストの皆さんもたくさん観ることができて、世界というのはこれだけ広いもので、これだけたくさんすごいアーティストがいるんだってことに気付けたんです。自分たちとしてはものすごく勉強になりました」
――ちなみに、これまで観たライヴのなかで、いちばん印象に残っているのは?
阿奎「〈SUMMER SONIC〉で観たクイーンですね。演奏が始まって、会場の外にいる時点からもうギターの音がすごくて。ああ、世界でNo.1のギタリスト(ブライアン・メイ)とはこういうものなんだということをすごく感じました」
方Q「僕も同じく、その時に観たクイーンです。あの日は野球場(千葉・QVCマリンフィールド)でのライヴで、僕らは外野席の後ろのほうで観てたんですけど、日本のお客さんが物凄くハイになって盛り上がっていたんですね。これだけ多くの人がクイーンの音楽を愛して盛り上がっているということが、心に響きました」
小玉「この間台湾で観たONE OK ROCKのライヴが素晴らしかったですね。メンバーそれぞれが素晴らしい音色を奏でていたし、その時に感じた雰囲気がすごく良かった」
『10000 Hours』は単なる時間ではなく、
日々の積み重ねを意味している
――では、ここからはアルバムについて聞かせてください。日本では2枚目のアルバムになる『10000 Hours』は本国・台湾では昨年発表されましたが、今作はどういった内容にしようと考えていましたか?
小玉「これは個人的に思っていたことなんですが、最初このアルバムは〈成長〉という言葉が合うかなと思っていたんです。でも完成してから強く感じたのは、〈成長の過程〉を見てもらうような作品だなと。〈1万時間(10000 Hours)〉というタイトルは単なる時間ではなくて、日々の積み重ねを意味しているんです。その積み重ねの過程も含めて表現できたんじゃないかと思います」
――個人的な印象ですが、僕はその〈成長の過程〉というテーマとは相反して、このアルバムはすごく洗練された、完成度の高い楽曲が詰まっているなと思いました。
小玉「本当ですか? 僕からしてみれば、いま聴き返すと〈もっとこうすれば良かった〉と感じる部分も多いんですが、そう言っていただけるとすごく嬉しいですね」
――このアルバムでは、オープニングの“Move Forward”でいきなり驚かされました。これまでの宇宙人にはないタイプの楽曲で、スタジアム・ロック的というか、コールドプレイあたりにも通ずる大きなノリと、メロディーやサウンドのキラキラ感の強さがとても印象的でした。
小玉「それは狙い通りですね(笑)」
阿奎「僕らも斬新かつ新しい一面を見せたいと思って、何度も話し合ったうえで“Move Forward”を1曲目にしました」
――全体的には、さっき影響を受けたアーティストとして名前の挙がったファレル・ウィリアムズのように、古くからあるソウル~ポップ・ミュージックの魅力を現代に継承したサウンドですよね。そのなかに“Move Forward”や“10000 Hours”あたりに感じられるエレクトロニックな要素が加わったことで、ちょっとアダルトな雰囲気が強まったというか。日本におけるシティー・ポップを思わせる心地良さが全体を通して感じられました。
方Q「まあ僕らは台湾でいちばん大きい街、台北に住んでいますから。そういう意味でも〈シティー・ポップ〉ですよね(笑)」
小玉「エレクトロニック・ミュージックには以前から触れていたのですが、僕自身がアーティストとしてまだ成熟しきれていなかったというか、自分たちの音楽に融合させる方法がわからないところがあったんです。でもいまになってやっと採り入れることができるようになりました。アルバムのなかでは“10000 Hours”と“Island”の2曲で挑戦していますが、自分たちなりの色を出せたかなと思ってます」
――まさにそこで〈成長の過程〉を見せていると?
小玉「その通りです。でもエレクトロニックな要素を入れたくてそういう曲を書いたわけじゃなくて、まず歌が出来てからその要素を加えていようと思ったんですね。だって、そういうことをしたくて曲を作るのは本末転倒じゃないですか。だから(歌とエレクトロニクスが)上手く合致したという点では、ワンステップ上に行けたのかなと思います」
――宇宙人の歌詞はラヴソングをベースにしつつも、人生の教訓的な、聴き手の背中を押すような内容が多いと感じました。作詞をするうえで、どういう点にこだわっていますか?
小玉「台湾人がラヴソングを好む傾向もあって、台湾のアーティストはアルバムにラヴソングを最低1~2曲は入れなければならないような風潮があるんです。僕らからしてみればラヴソングを作ることはすごく大事なことではあるけど、だからといって普通のラヴソングにはしたくない。僕らより上の世代、例えばメイデイ(五月天)あたりとはまた違った味を出したくて、自分たちと同年代の若者たちの心に訴えかけるようなラヴソングでありつつ、宇宙人ならではのアプローチを考えて書いています」
日本語詞はJ-Popっぽさを強めるような発音や
メロディーの乗せ方にすごくこだわった
――そして『TIME LAPSE』は、『10000 Hours』から5曲を日本語で歌い直しています。どういう基準でこの5曲になったんですか?
小玉「日本のレーベルと、どの曲が日本語に合うかを話し合って決めました。こうやって完成したものを聴くと、例えば“もっと遠くへ ~Move Forward~”は断然日本語ヴァージョンのほうがいいなと思って。このメロディーに日本語詞を乗せたことで、自分たちが表現したかった気持ちがより明確になった気がします。それに“恋に似ている ~Alone Together~”のメロディーは日本でウケるんじゃないかと感じていたので、ぜひ日本語で歌ってみたいと思っていました」
――もともと中国語で歌うことを想定して作られた楽曲なのに、いざ日本語を乗せてみたらそっちのほうが合っていたというのはおもしろい話ですね。
小玉「本当ですよね。実はFacebookで“もっと遠くへ ~Move Forward~”を公開したら、〈これを聴いて日本語を勉強したくなりました〉という声が多かったんですよ」
――それは僕たち日本人としても、とても嬉しい言葉ですね。日本語で歌うことは、中国語と歌うのと比べて大変だったと思いますが。
小玉「まずレコーディング前に、日本人の方に日本語で歌ったデモテープを作ってもらったんです。僕がいちばん心掛けたのは、日本語をきちんと発音するということ。1曲丸ごと覚えてから録音するのはまだ難しいので、途中途中で切って録音して、ここはおかしいなというところは直していったんです。で、壁にぶつかった時は日本人アーティストの曲を聴いたり、ミュージック・ビデオを観たりして、発音や口の動きを研究しました。特にMr.Childrenの桜井(和寿)さんが高いキーで歌っている時の発声や口の使い方は、とても勉強になりました。例えば中国語だと高いキーで歌うときは口を開くことが多いんですけど、桜井さんを見ると口を若干閉じて、下に向けて歌うんです。そういう研究を重ねて、自分なりのスタイルを身に着けていったんです」
――それは興味深いですね。僕たちはミスチルをあたりまえのように聴いているから、そういう点を意識したことはまったくありませんでした。
小玉「例えば〈く〉という言葉なんですけど、ローマ字読みだとはっきり〈ku〉と言いたくなるけども、日本の皆さんは口を小さくすぼめて発音している。ローマ字読みだけで歌おうとすると、日本語ネイティヴとは違った発音をしてしまうことになるんです。その違いですよね」
――よく外国人アーティストが日本語の曲をカヴァーすると、確かにローマ字をそのまま読んだような歌い方が多いんですよね。でも宇宙人が日本語で歌うと非常に自然な感じで、気持ち良く聴けます。
(3人が嬉しそうに拍手する)
小玉「そう感じてもらえたなら、本当に最高です。良かった(笑)」
――また、宇宙人の楽曲はサウンドにもメロディーにも、欧米のポップ・ミュージックからの影響が強く感じられます。でも『TIME LASPE』を聴くと、台湾語の楽曲が日本語で歌われることで、J-Pop的な親しみやすさを急に感じるようになって。そういった不思議な魅力が宇宙人の楽曲にはあるんですよね。
方Q「僕も日本語ヴァージョンを聴いた時は、J-Popっぽいなと感じました」
阿奎「小玉が日本語でヴォーカルを録音する時、よりJ-Popっぽさを強めるような発音の仕方やメロディーの乗せ方にすごくこだわっていて。〈この曲ではこう歌ったほうがいいんじゃないか?〉と研究し尽くして歌入れをしていたからだと思います」
――阿奎さんと方Qさんは日本語で歌う小玉さんを見て、不思議な感じはしませんか?
方Q「正直、日本語で歌っているのを聴いて〈これ、(日本語は)合っているのかな?〉と思うこともあるんですけど(笑)、でも実際には中国語で歌っている時と感じ方はあんまり変わらなくて。日本語詞を聞いて瞬時には理解できないんですけど、最終的には小玉は小玉だなと思いながら聴いてます」
阿奎「僕の場合はコーラスも担当しているので、日本語ヴァージョンでは小玉の声を聴いて発音や韻の踏み方を勉強しています。不思議というよりは大変ですね(笑)」
――もっといろんな日本語曲を聴きたくなりました。また、唯一の日本語オリジナル曲“彼女はBOSS ~She's The Boss~”も収録されています。これは日本語で歌うことを前提にして作られた楽曲なんですか?
小玉「そうです。デモテープを作る時点で自分が知っている日本語で適当に当てて歌っていました(笑)。おもしろかったのは、作詞家の先生がそのデモテープの仮歌を聴いて、その適当に歌っていた日本語のなかから言葉を選んで歌詞に使ってくれたんです。出だしの〈いつでも〉は、まさに仮歌に入っていた言葉で(笑)。〈いつでも〉という言葉は日本のドラマでよく耳にしていて、本当に思いつきでパッと入れただけなんですよね。〈あなた〉という言葉もそうですし。それを歌詞に採用してくれたのは嬉しかったです。それに出来上がってきた歌詞を歌ってみると、いろいろ韻を踏んでいて歌いやすかった」
――ちなみに日本語詞を歌う気持ち良さってどういうところにあると思いますか?
小玉「ちょうど日本のライヴに向けてたくさん練習をしていたんですけど、たぶんレコーディングの時よりいまのほうが自己流で歌っていますね。レコーディングでは正しい日本語で歌っているんですけど、ライヴではそれを崩して自分らしい歌い方にしていくことによって、だんだん自然に歌えるようになっている気がします。どんどん気持ち良くなっていますね。ただ、難しい言葉というのは忘れてしまいがちなので、そこだけは大変です(笑)」
――日本でのライヴで日本語歌唱曲を披露するわけですが※、いまの心境はいかがですか?
※編注:取材は日本でのライヴ前に行われました
小玉「やっぱり緊張しますよ(笑)。日本語の歌詞はすごく複雑ですし、例えばAメロ、Bメロに同じようなフレーズが入っていても実は語尾がちょっと変わっていたりとか、自分のなかで混乱してしまうところはたくさんあります。とはいえ、やっぱり最高のステージを皆さんにお届けしたいと思います」
――これを機にどんどん日本でも活動してほしいですし、日本語で歌った新曲も発表してほしいと思っています。最後に、宇宙人としての今後の展望を聞かせてください。
小玉「今回発表した2つの作品は、日本での反響も良いと聞いていますし、ラジオで僕たちの曲をかけていただいたことも耳にしました。やっぱり今後も日本で新しい作品をどんどん出したいですし、ライヴももっと行いたいですね」
阿奎「僕たちの台湾での活動は小さなライヴハウスからどんどん大きくなっていったので、日本でもまずはライヴハウスでたくさんステージをこなして、いつか大きなステージで演奏できるようになりたいです」
方Q「日本のいろんなロック・フェスにも出演してみたいです。日本のアーティストの皆さんとも交流を深めたいと思っています」
★Mikikiでは東京で行われた宇宙人のライヴ・レポートも後日公開します! お楽しみに♪