タワーレコード新宿店~渋谷店の洋楽ロック/
つねにリスナー視点を大切にした語り口とユーモラスな発想をもっと多くの人に知ってもらいたい、読んでもらいたい! ということで始まったのが、連載〈パノラマ音楽奇談〉です。第6回は〈夏の極私的名盤〉としてビーチ・ボーイズの『The Beach Boys』について綴ってもらいました。 *Mikiki編集部
エンドレスハーモニーの本家ビーチ・ボーイズの〈極私的名盤〉
前回は〈夏の極私的名盤〉というテーマで、ビーチ・ボーイズ愛の滲む浜田省吾のアルバム『CLUB SURF & SNOWBOUND』を紹介しましたが、今回は本家のほうの〈極私的名盤〉を取り上げます。
その前に、僕は15年前(2008年)のbounce誌にビーチ・ボーイズの企画記事を寄稿したことがありまして、ちょっと長いんですがその序文だけ引用してみます。
いつの頃からだろう、〈ビーチ・ボーイズの最高傑作は『Pet Sounds』である〉というのが常識のようになったのは。いや、その意見に異論はないし、個人的にも生涯の愛聴盤だと思って譲らないのだけれど、彼らの歴史を俯瞰しみてもやはり『Pet Sounds』はきわめて特異な作品であり(それゆえ孤高の輝きを放っているのだが)、その一枚さえ押さえておけば万事OKということには決してならないと思えるのだ。CDショップの店頭スタッフである僕は、彼らのカタログのなかでもズバ抜けて『Pet Sounds』が売れ続けていることを知っている。それはつまり、多くのリスナーにとって彼らの最初にして唯一のアルバムが同作であることを意味している。時代の求める音として支持されることを嬉しく思う反面、僕はどうしてもその事実に一抹の不安を感じてしまうのだ。あまりにも巨大な作品が大きな影を落としていることで、ビーチ・ボーイズが持つ魅力の数々がかえってリスナーに伝わり難くなっているのではなかろうか、と。
現在はサブスクの普及で多少事情は異なるかもしれませんが、それでも当時といまの状況はさほど変化していないように感じます。上記の本文はバンドの歴史を綴りながら彼らの多彩な魅力に言及していったのですが、今回は別のアプローチから15年前の拙文のつづきを書いてみるのも一興ではないかと考えました。となると、前回の浜省と同じく〈あまり顧みられないけれど私的に推したい一枚〉を紹介するのがこの連載らしいのかも、という気がしてきたのです。
前置きが長くなりましたが、今回取り上げるのはビーチ・ボーイズが85年にリリースした『The Beach Boys』(邦題:ザ・ビーチ・ボーイズ ’85)です。チャートアクションでは全米52位と奮わず、ファンの間でもあまり話題にならない作品なうえに、現在CDは生産中止という悲しい扱いですが、このアルバムこそ我が〈極私的名盤〉に他なりません。