深夜の〈サマソニ〉に海外インディー・ロックの実力派8組が集結する注目イヴェント、〈HOSTESS CLUB ALL-NIGHTER〉(以下〈HCAN〉)が8月20日(土)に千葉・幕張メッセで開催される。タイムテーブルもいよいよ公開され、〈RAINBOW STAGE〉にはダイナソーJrを中心としたオルタナ/サイケの実力派バンド4組が登場、片や〈SONIC STAGE〉には久々の来日となる2000年代USインディーの伝説的アクト、アニマル・コレクティヴを筆頭にシンガー・ソングライターからDJまでヴァラエティー豊かな4組が出演する。 

Mikikiではこの〈HCAN〉を総力特集。〈RAINBOW STAGE〉出演バンドを取り上げた第1回に続き、この第2回では〈SONIC STAGE〉に出演するアニマル・コレクティヴ、マシュー・ハーバートアウスゲイルジョン・グラントの個性派4組をピックアップする。気軽にアプローチできるよう、真っ先に知りたいであろう必須3項目にフォーカスして紹介しているので、ぜひ予習に役立ててほしい。 *Mikiki編集部

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アニマル・コレクティヴ

1)そもそも、どういうバンド?

ダーティ・プロジェクターズグリズリー・ベアと並び、2000年代のインディー・ロック最大の震源地、ブルックリンの音楽シーンを牽引した顔役。『Feels』(2005年)や『Merriweather Post Pavilion』(2009年)など代表作のジョイフルでポップなイメージが強いかもしれないが、結成当初はアナーキーで実験的なサウンドで知られた。現在のメンバーは3人だが、過去には2人だったり4人だったりと作品ごとに異なる編成で活動。それに伴って表情を変える音楽性、楽器の構成や演奏のダイナミクスも大きな魅力だ。ちなみに勘違いされがちだが、彼らの出身地はブルックリンではなくボルティモア。

2)今回のライヴでハイライトになりそうな曲は?

アニコレのルーティーンでもある、制作過程の新曲をライヴで試して練り上げていく、という流儀。なので彼らの場合、音源として発表される曲は、その時点でライヴのフィーリングを織り込まれたものが大半を占めるのだけど、今年リリースされた最新作『Painting With』は事情が異なる。というのも、同作に収録されたナンバーはスタジオでのみ曲作りが行われた、初のシロモノ。つまり、今回のツアーがライヴ初おろしとなる。そもそも、ライヴでは既発曲も原型を留めぬほどアレンジを施すことがザラである彼ら。そういう意味で、余白の効いたプロダクションにR&Bやヒップホップのシンプルで力強いリズムが映える“Golden Gal”は、ステージでの伸びしろが大いに楽しみ。

3)最近の気になる動きと、ライヴの観どころ

〈大昔、原始時代に生きていた人たちが焚き火の周りを囲んで踊るようなイメージ〉とは、『Painting With』について語ったパンダ・ベアの弁。前述の通り曲作りのアプローチこそこれまでと異なるものの、エネルギッシュなビートやギラギラと極彩色を放つエレクトロニクス、美しいコーラス・ワークといった彼ら本来の醍醐味は損なわれていない。加えて、今回のツアーが初披露となる新曲のライヴ演奏はどれも鮮度抜群。そしてこれまた彼らのルーティーンに倣えば、セットリストの隙間に未発表の新曲がこっそり用意される、という展開もなきにしもあらず。ちなみに、彼らのBandcampにはLGBT支援を目的に制作されたライヴ・アルバムが公開されているので、予習もかねてぜひチェックされたい。 *天井潤之介

 

マシュー・ハーバート

1)そもそも、どういうアーティスト?

21世紀以降のミニマル・テクノクリック・ハウスに多大な影響を与えた90年代後半の活動から、2000年代初頭のミニマル・ハウスダニ・シシリアーノ嬢とのディープ・ハウス路線、さらに2000年代中頃にはビッグバンド・ジャズ・プロジェクトにてその評価を決定的なものにしたハーバート。並行してレディオ・ボーイや本名のマシュー・ハーバート名義でアンチ・グローバリズムな、ほぼコンセプチュアル・アートといえる作品も発表。近年では、ハーバート名義ではハウスや歌ものを、マシュー・ハーバートを名乗るときにはよりレフトフィールドな作品を発表している……が、どちらにしてもコンセプトはガッチリとレフト。今回の〈HCAN〉からイヴェントのレジデントDJに就任しました。

2)今回のライヴでハイライトになりそうな曲は?

DJなんでアレですが、2015年の『The Shakes』からシングル・カットされた“Middle”あたりは歌ものとしてもダンス・ミュージックとしてもいい感じではないかと。いやいやでも、往年のファンとしては“Going Round”“Leave Me Now”“Suddenly”“The Audience”といったディープ・ハウス・クラシックを聴きたいかも。まぁ、自分の曲をかけるというのはDJとしてフェス用の飛び道具感があるので、そんなの気にせずにとにかくそのグルーヴに集中することをオススメします。

3)最近の気になる動きと、ライヴの観どころ

2015年はヴォーカルを中心としたポップな『The Shakes』を、そして今年は人体から
発生した音のみで構築したというアヴァン・エレクトロニクス作『A Nude : The Perfect Body』を発表している。ちなみに、今回の〈HCAN〉出演について〈え~、ライヴ・セットじゃないの~〉という方へ。実は、ハーバートはDJとしての評価も高く、2000年のミックスCD『Globus Mix Vol.5 Letsallmakemistakes』は、トップ・ダンス・ミュージック・メディアである〈RA〉で2000年代の重要ミックスCDのトップ50の17位に選出されているほど。最近、改めて大きな注目を集めているシカゴ・ゲットー・ハウスのバウンス感と、変態エレクトロが出会ったようないびつなグルーヴは必聴ものです。 *河村祐介

 

アウスゲイル

1)そもそも、どういうアーティスト?

優美さや親近感を兼ね備えたメロディーを、清廉なアコースティックの音色と洗練味のあるエレクトロニクスで奏で、ファルセットも用いながら柔らかな美声で歌い上げる、アイスランド出身の23歳のシンガー・ソングライター。2012年9月にリリースしたファースト・アルバム『Dyrd í dauðathogn』が、アイスランドの音楽賞でマルチ受賞するなど一躍スターの座に就いた。いまでは国民10人に1人がこのアルバムを持っているという。それから2014年1月に同作の英語ヴァージョン『In The Silence』を発表し、国外でも注目を集めることに。過去に〈フジロック〉を含めて3度の来日公演を実施し、幽玄の世界に観客を誘った。待望のセカンド・アルバムは間もなく、か。

2)今回のライヴでハイライトになりそうな曲は?

今回のライヴの時点においては、まだアルバム1枚しか発表されていないし、単独公演より時間の短いフェスであるからして、やはりデビュー作からの人気ナンバー“King And Cross”や“Torrent”あたりを推しておくべきなのだろう。それと近年のライヴでは、2014年にネット上に公開されたたニルヴァーナ“Heart-Shaped Box”のカヴァーを披露しており、これはぜひ生で聴いてみたいところ。

3)最近の気になる動きと、ライヴの観どころ

2015年秋の時点で15曲をレコーディングしていることを明かしていたが、いよいよその新作がお披露目間近。サウンド的には、前作よりエレクトロニカやプログラミングの比重が増えているという。作詞に関しては前作同様に、長年の友人であるユリウスと、詩人である父親の手を借りているが、次の作品ではより本人が作詞に関わる比重が増えている模様だ。父親が書いた曲が収録されるか否かは不明。いずれにせよ、今回の来日でニュー・アルバムからの新曲が聴ける可能性は大きいだろう。 *赤尾美香

 

ジョン・グラント

1)そもそも、どういうアーティスト?

USミシガン生まれのコロラド育ち。バンド活動を経てソロに転向し、サイケ・フォーク・ロック・バンドのミッドレイクと作り上げた初ソロ作『Queen Of Denmark』(2010年)が、美しいサウンドスケープと赤裸々な内容で話題に。その後はアイスランドのレイキャビクに移住し、アウスゲイルのヒット作『In The Silence』の歌詞英訳も手掛けている。2014年に『Pale Green Ghosts』、2015年には『Gray Tickles, Black Pressure』をそれぞれ発表。2016年4月に〈Hostess Club Presents Sunday Special〉で実現した初来日ライヴは大絶賛された。2012年に自身がHIV感染者であることを告白しているが、同性愛者であることやそれに付随するさまざまな事柄は、彼の音楽やアートに深く影響を及ぼしている。

2)今回のライヴでハイライトになりそうな曲は?

上述の初来日ライヴでは、シンガーとして、またエンターテイナーとして、期待を遥かにに上回るステージを見せてくれた彼だが、とりわけ“Glacier”の素晴らしかったこと! 艶のあるバリトン・ヴォイスで朗々と歌うジョンの炸裂したエモーションをいやというほどに浴びられるのは、やはりこの曲ではないかと思う。同曲のミュージック・ビデオはLGBTの歴史ドキュメンタリー的な作りとなっており、これを先に観ておけば、その感動はさらに大きくなるはずだ。ちなみに、去る6月にロンドンのロイヤル・アルバート・ホールで行われたジョンのライヴで、カイリー・ミノーグがゲストで登場し、この曲をデュエットしている。

3)最近の気になる動きと、ライヴの観どころ

複数の言語を自在に操る彼は、日本語や日本のカルチャーにも興味津々。初来日前にMikikiが行ったインタヴューでは、近藤等則のファンであり、近藤等則・IMAのアルバム『BRAIN WAR』(91年)のアナログ盤を見つけたいと語っていたが、それをきっかけに初来日時には近藤本人との対面が実現。今回の〈HCAN〉で共演することが決まった。本人にとってもファンにとっても喜ばしい出来事だ。その共演を含め、単独公演はもとより6月の〈グラストンベリー〉や、7月末の〈ウォーマッド〉などへの出演を経て、磨きのかかったパフォーマンスを披露してくれるに違いない。 *赤尾美香

 

HOSTESS CLUB ALL-NIGHTER
日時:2016年8月20日(土)
〈SUMMER SONIC 2016 Midnight Sonic〉
会場:幕張メッセ
出演: ダイナソーJr/アニマル・コレクティヴ/ディアハンター/マシュー・ハーバート/テンプルズ/サヴェージズ/アウスゲイルジョン・グラント
開場/開演:22:00/23:15
料金(税込)/8,500円
※〈サマソニ〉東京公演の各入場券をお持ちの方は入場可能。
※写真付IDチェックあり
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Hostess Club Osaka Presents
Deerhunter / Savages

2016年8月18日(木)大阪・なんばHatch
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Hostess Club Presents
Dinosaur Jr.

2016年8月22日(月) 東京・恵比寿LIQUIDROOM
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