©Chris Shonting

ここ掘れワンワン! 終わりなきサイケの旅を続けるパンダ熊が今回掘り当てた美なる逸品とは?
家族や旧友と作り上げた新作『Sinister Grift』は、一足早い春眠へと聴き手を誘って――

 ループやドローン、エレクトロニカなど多彩な要素を交えながら、フリーフォームな形態のもと、2000年代以降のサイケデリック・ポップを再定義した米ボルティモア出身のバンド、アニマル・コレクティヴ。そのコア・メンバーにして、チルウェイヴの源流とも位置づけられるソロ・アルバム『Person Pitch』(2007年)を発表するなど、独創的なソロ活動が高く評価されているポルトガルはリスボン在住のパンダ・ベアことノア・レノックスは、何度目かのクリエイティヴ・ピークを迎えつつある。

 アニマル・コレクティヴとしては、全員がスタジオに集った制作スタイルを構想するもコロナ禍にあってセパレートで制作された2022年の『Time Skiffs』、そこで頓挫した構想を具現化できた2023年の『Isn’t It Now?』を発表。ソロでは、2022年に伝説的なサイケデリック・ロック・バンド、スペースメン3のソニック・ブームとタッグを組み、50~60年代のロックンロールをサンプリングしたアルバム『Reset』とエイドリアン・シャーウッドによるそのダブ盤『Reset In Dub』(2003年)、さらにメキシコのマリアッチ楽団を迎えて『Reset』を発展させた『Reset Mariachi EP』(2024年)を次々にリリースしてきたが、バンドメイトかつ幼馴染みのディーケンことジョシュ・ディブが共同プロデュース/ミックスを手掛けたニュー・アルバム『Sinister Grift』は曲作りに5年ほどの歳月をかけ、サイケデリック・ポップの多面性、彼自身の内面世界の豊かさを投影している。

 「もともとは、声、ギター、ベース、ドラムという伝統的な構成で、それらを自分で弾いたものを抽象化したり、ぼかしたり、分解したり、ちょっとダブ的な手法で仕上げるというアイデアだった。でも実際にレコーディングを始めて、アレンジや音作りにじっくり取り組んでみると、いい感じにまとまってきて、それを解体したり何かしたりする必要性を感じなくなった。僕らが好きな感じに曲が成長してくれたから、それをそのまま活かすことにした。このアプローチは、直近のアニマル・コレクティヴの作品に影響を受けた部分もあって。でも、僕自身にとってはかなりラディカルな試みだったんだ」。

PANDA BEAR 『Sinister Grift』 Domino/BEAT(2025)

 50~60年代のロックンロールやウォール・オブ・サウンド、サンシャイン・ポップから抽出された暖かく美しいメロディーとビーチ・ボーイズ『Pet Sounds』直系のヴォーカル/ハーモニーが際立つ本作は、19歳の実娘ナジャのスポークンワードをフィーチャーした“Anywhere But Here”やシンディー・リーことパトリック・フレーゲルによるエモーショナルなギターをフィーチャーした“Defense”といった楽曲を収録。さらにレノックスのパートナーでもあるスピリット・オブ・ザ・ビーハイヴのリヴカ・ラヴェデをバック・ヴォーカルに迎えた“Ends Meetでは、ジョシュ・ディブのみならずエイヴィ・テアことデヴィッド・ポートナー、ジオロジストことブライアン・ウェイツも参加し、アニマル・コレクティヴが勢揃いしている。レゲエの影響が聴いて取れる“Praise”やカントリー風味のラップ・スティールを織り込んだ“50mg”、スロウでヘヴィーなビートと共に飛翔するコズミック・ブルース“Defense”など、音数は決して多くはないが、ディブの空間を活かした現代的なプロダクションがパンダ・ベアの豊かなサイケデリアを見事に具現化している。

 「初期のロックの影響に加えて、60年代のレゲエっぽいサウンドが結構入ってたり、カントリーの要素、アメリカでクラシック・ロックと呼ばれる音楽からの影響もある。本当なら自分のサウンドやテクニックに関して立派なマニフェストを言えたらいいんだけど、実際はそうじゃなくて単に自然に出てくるままに任せて、それに編集を加えていくというのが僕のやり方だね。アニマル・コレクティヴの音楽には、どこかグロテスクな美しさ、混乱やカオスが感じられることが多い。それに対して、自分の作品では、カオスな美しさよりも調和のとれた美に重点を置いている。もちろん、どちらが良いとか悪いとかではないんだけどね。今回のアルバムはジョシュと一緒に作れたことにすごく満足している。自分自身のスタジオで作ったことにも、多くの人たちが関わって出来た作品だということにも満足しているよ」。

パンダ・ベアの近年の作品と参加作を一部紹介。
左から、ソニック・ブームとの2022年のコラボ作『Reset』、同作のエイドリアン・シャーウッドによるダブ盤『Reset In Dub』、アニマル・コレクティヴの2023年作『Isn’t It Now?』(すべてDomino)、ブリオンの2024年作『Affection』(Ghostly International)、ジェイミーxxの2024年作『In Waves』(Young)

『Sinister Grift』に参加したアーティストの作品。
左から、シンディ・リーの2024年作『Diamond Jubilee』(W.25th)、スピリット・オブ・ザ・ビーハイヴの2024年作『YOU’LL HAVE TO LOSE SOMETHING
』(Saddle Creek)