目と耳をフル活用してボスの熱いサクセス・ストーリーに酔おう!

 まもなく67歳を迎えるにもかかわらず、去る9月7日には4時間超えのステージをこなすなど、いまなお現役バリバリのロックンローラーである〈ボス〉ことブルース・スプリングスティーン。そんな彼が7年の歳月をかけて書き上げた初の自伝「ボーン・トゥ・ラン ブルース・スプリングスティーン自伝」と、その書籍に合わせた〈音楽自叙伝〉とでも言うべき編集盤『Chapter And Verse』が登場した。

BRUCE SPRINGSTEEN ボーン・トゥ・ラン ブルース・スプリングスティーン自伝 早川書房(2016)

 自伝のほうは、少年時代からEストリート・バンドと共に成功を勝ち取っていくまでが語られているが、優れた小説家的資質を持つボスなので、その鋭く奥深く含蓄に富み、ユーモアにも溢れた語り口調だけでもきっと魅せられることは間違いなし。また、原書は500ページ超という読み応え抜群なところも、サーヴィス精神旺盛なボスらしいところだ。

BRUCE SPRINGSTEEN Chapter And Verse Columbia/ソニー(2016)

 一方、『Chapter And Verse』には66年の初レコーディング曲ほか、自身のチョイスによる自伝の内容と連動した18曲を収録。とりわけデビュー前の未発表5曲が大きなトピックで、高校時代に組んでいたバンドではガレージ/サーフ・ロックブリティッシュ・ビート的なナンバーを、大学時代の曲ではハード・ロッキンなものを演奏し、デビュー直前にあたる72年録音のデモではリズム&ブルースサザン・ロック的だったり、アコギの弾き語りではエモーショナルに掻き鳴らすなど、ギタリストとしても当初から超一流だったことが確認可能だ。まだオリジナリティーを確立していないとはいえ、どれも凄くクールでカッコイイという点に驚かされる。

 
 

 ファンにとって一連のリリースは、音を聴きながら自伝を読めるという、至福の喜びが味わえるボスからの最高のプレゼント。しかし、ファンならずとも自伝は最高におもしろい物語として、アルバムは豊潤な音楽性が凝縮された最高のロック作品として楽しめるだろう。