子どもに見せたい舞台『ドリトル先生と動物たち』(C)飯田研紀

 

「子どもとおとながいっしょに楽しむ舞台」第一弾が開催決定!

 豊島区西巣鴨に、廃校を利用した舞台芸術施設「にしすがも創造舎」があることをご存知だろうか? 教室は演劇やダンスの稽古場として使われ、体育館は故・蜷川幸雄氏が稽古場として愛用し、また日本最大の演劇祭「フェスティバル・トーキョー」の演目などが上演されてきた。地域に開かれたアートの発信地としても有意義な試みだったが、残念ながら今年でその歴史を閉じるという。

 私も何度か、にしすがも創造舎を訪れたことがある。体育館で毎年夏に上演されていた「子どもに見せたい舞台」シリーズを観るためである。就学前の息子に演劇を体験させたいという親心からだったが、思いもよらず自分自身も楽しめたのが印象に残っている。関心のない対象から無慈悲に顔を背ける子どもは、ある意味で最も難しい観客だが、彼らの本能に訴えかけ夢中にさせる演出は、決して“子供だまし”ではなく、そのままおとなにも通用すると感心した。

 この「子どもに見せたい舞台」シリーズの演出を手掛けていたのが、当時、にしすがも創造舎のレジデントアーティストだった倉迫康史。大学のサークルの後輩であり、放送作家の後輩でもある。

 その倉迫が、にしすがも創造舎を離れて新たな拠点としたのが、立川市の廃校をやはり文化創造施設として再生した「たちかわ創造舎」だ。「にしすがも」での経験を買われてチーフ・ディレクターに就任した彼が、「子どもとおとながいっしょに楽しむ舞台」という企画を立ち上げ、第一弾として上演するのが『音楽劇 アラビアンナイト』。企画名に「おとな」の文字があるのを知ってニヤリとした。

 もともと、子ども向けと謳わない際の倉迫演出作品の魅力は「耽美的なエロス」にある。子ども向けの際は巧妙に隠されているが、おとなの観客にはその匂いを感じとることができるように仕組まれていることが多かった。そこが既存の子ども向け作品と倉迫演出作品の差異である。その彼が明確に「おとな」もターゲットと宣言したのである。どんなバランスで成立させようと企んでいるのか、興味深い。

 題材がアラビアンナイトなのもいい。ご存知の方も多いだろうが、アラビアンナイトは、翻訳の違いによって児童文学にもなり、おとな向けのエロティックな物語集にもなる。さらに、現在の世界情勢において重要な、アラブの文化や哲学を知るきっかけにもなりうる。大学時代、外交官を志したこともある倉迫が、異文化をどう解釈し、どう描こうとしているのか楽しみだ。

 


LIVE INFORMATION

立川シアタープロジェクト presents 子どもとおとながいっしょに楽しむ舞台vol.1
音楽劇 アラビアンナイト

○12/23(金・祝) 13:00開演
○12/24(土)13:00開演
会場:たましんRISURUホール 大ホール

○1/20(金)16:00開演
○1/21(土)13:00/17:00開演
○1/22(日)15:00開演
会場:吉祥寺シアター

台本・演出:倉迫康史(Theatre Ort/たちかわ創造舎チーフ・ディレクター)
出演:村上哲也平佐喜子小林至竹原千恵(以上、Theatre Ort)/あきやまかおる岩倉真彩榊原 毅藤谷みき
tachikawa-sozosha.jp/