演劇との関係に焦点を絞ったヌーヴェル・ヴァーグ作家論!

矢橋透 ヌーヴェル・ヴァーグの世界劇場 映画作家たちはいかに演劇を通して映画を再生したか フィルムアート社(2018)

 ヌーヴェル・ヴァーグの作家論はあまたあるが、演劇との関係に焦点を絞って論じた書は、論者自身が言及する通り本書が初めてなのではなかろうか。ジャック・ドゥミ、ジャック・リヴェット、アラン・レネ、ジャン=リュック・ゴダール、エリック・ロメール、クロード・シャブロル、フランソワ・トリュフォー。映画の歴史を変えた7人の映画作家と演劇との関係性を、作品に沿って紐解くいていく。

 この7人の映画作家の演劇との関係を大きく二つに分類すると、〈前衛派〉と、〈世界劇場派〉に分かれるのだという。〈前衛派〉代表は、リヴェットである。例えば即興演劇、リハーサルを映画に内包させる作法といった既存の映画を革新する手段としての演劇を導入するタイプ。対する〈世界劇場派〉代表は、ドゥミとロメールである。作家に強固にある劇場的と呼べる世界観と、その世界観が具体的な演劇形式(ミュージカルや戯曲等)を引き寄せるタイプがこれにあたる。

 この二つ中間に位置するのレネという存在である。作風が全く異なるように見える初期(『去年マリエンバートで』)から後期(『六つの心』)まで、実は一貫しているレネの作家性が作品単位で詳細に論じられていて、レネの入門書としても最適な評論であることは付記しておきたい。

 ゴダールは? シャブロルは? トリュフォーは? 詳しくは本書をお読みいただければと思う。ヌーヴェル・ヴァーグという〈新しい波〉は、これまでアンドレ・バザンの理論やロベルト・ロッセリーニを経由したネオリアリズムの系譜で語られることが多かった。本書は、新たに演劇というフィルターを通すことで、ヌーヴェル・ヴァーグの映画作家たちの方法論の有効性と多様さにあらためて驚かされるとともに、彼らが長く晩年に至るまで刺激的な作品を発表し続けられた秘密の一端が露わになったと言えるだろう。