できるかぎり予備知識なく見ていただきたい逸品! 阪本順治&藤山直美の『顔』コンビ16年ぶりのタッグ!
その年の映画賞を独占した『顔』のコンビ、阪本順治と藤山直美の16年ぶりのタッグ! 舞台は、タイトルの通り団地。監督のいう“タテ型の長屋もの”としての団地映画、それも大阪が舞台で藤山直美主演とあれば、ベタなホロリとさせる人情喜劇になると誰もが予想するだろう。だが、どうもそうではないことに、観客はすぐに気づかされる。
藤山と岸部一徳の老夫婦は、息子を失ったことがきっかけで家業の漢方薬局を畳み団地に移り住んでいる。団地は“噂のコインロッカー”。住人たちは隣人たちの様子を観察し、噂話にいそしんでいる。自治会長戦に敗れ、へそを曲げた岸部は「死んだことにしてくれ」と床下の収納庫にこもりだす。急に岸部を見なくなった団地の住人たちの間で、藤山が岸部を殺して隠したのではないかと噂が広がり、果てはワイドショーが乗り出し警察が来るまでに発展してしまう。
というのが、物語の半ばまでである。息子を失ってひっそりと暮らしたい老夫婦にとって、団地は住みづらい場所でしかない。老夫婦は、住人たちに見られ続ける。見る側の戯画化された妄想の暴走が、この映画の笑いのベースだ。
但し、ホロリがないわけではない。例えば、親の暴力に耐えベランダで「ガッチャマンの歌」を歌う少年と藤山が視線を交わすシーン。「ここではないどこか」を求める二人の見る/見られるの切り返し。この映画は個々の視線の切り返しのシーンが全て素晴らしい! 前言を翻すようだが、その意味では変化球だがホロリとさせる人情喜劇といえるだろう。などと胸をなでおろしていると、この映画は終盤へ向けて「ここではないどこか」へ観客を連れていくとんでもない展開を迎える。
口あんぐりである。阪本順治やりました! やっちゃいましたね! 最高!