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2本のギターと声だけでのギグは、生まれて初めての経験なんだ

――僕があなたの作品を好きな理由のひとつは、ローズ・ピアノ、クラヴィネット、ファルフィッサ・オルガンなど、ヴィンテージな鍵盤楽器の音がふんだんに使われているところです。ヴィンテージ楽器はあなたにどんなインスピレーションを与えてくれますか? 何かお気に入りの楽器はありますか?

「僕はヴィンテージ楽器とその音色が大好きなんだ。もともと自分がドラマーだったせいかもしれないけど、自分の楽曲にヴィンテージの生ドラムのサウンドが鳴ってないなんて想像できないね。だから僕はいつも1970年より以前のヴィンテージのドラムを好んで使っているよ。あと好きな楽器は、ウーリッツァー・ピアノとスペース・エコー(エフェクター)かな。この2つは最新作でもたっぷり使っているね」

――『This Life Denied Me Your Love』にはヴォーカルの処理や音響面でUSインディー・ロックのアーティストたちと共鳴する部分があったり、はたまた室内楽のようであったりと、以前のアルバムと比べると、より多くの音楽に興味が向いているような印象を受けました。何か意識の変化はありましたか?

「君は素晴らしい耳の持ち主だね! その通りなんだ。作風に関しては、キャリアの初期からは変えていこうと意図しているんだよ。もちろんそこには、多くのアメリカのミュージシャンたち――例えばスフィアン・スティーヴンスグリズリー・ベアフリート・フォクシーズビーチ・ハウスダーティ・プロジェクターズウォッシュト・アウトといった面々からの影響があると思うよ。そして、プロダクション面で大きな影響を受けたのはルチオ・バティスティ。本当に興味深いことだけど、彼の“Abbracciala Abbracciali Abbracciati”という曲を聴いたら、きっと僕の言いたいことが伝わるんじゃないかな? だって、イタリア音楽の巨匠であるルチオ・バティスティは、70年代の時点で現在のアメリカのグループが奏でるようなサウンド・プロダクションを確立しているんだからね」

ルチオ・バティスティの74年作『Anima Latina』収録曲“Abbracciala Abbracciali Abbracciati”
 
『This Life Denied Me Your Love』収録曲“Two Half Moons”

――先ほどもステレオラブの名前が挙がりましたが、最近はレティシア・サディエールと何度もコラボを重ねていますよね。共演に至った経緯を教えてください。

「まさしく夢が実現したんだよ。エレファントが僕の3作目『In The Morning We’ll Meet』を彼女に送ったら、すごく気に入ってもらえたみたいで、それで僕は〈“Anna My Dear”という曲で歌ってほしい〉とFacebook経由でメッセージを送ったんだ。そしたら彼女は快諾してくれて、そこから僕たちのコラボ活動がスタートしたんだ。何年かするうちに友人と呼び合える間柄にもなっていったんだ。そしてついに、昨年の11月に僕らはイタリアで初めて顔を合わせることができたんだよ。レティシアは素晴らしいミュージシャン/シンガーで、僕にもっとも大きな影響を与えた人物のひとり。そして、本当に美しくて崇高な人だよ」

レティシア・サディエールとジョルジオ・トゥマ(ドラムス)の共演ライヴ映像
 

――『This Life Denied Me Your Love』にはほかにも、マイケル・アンドリュース※1ローリー・カレン※2マティアス・テレス※3といった素晴らしいミュージシャンが参加していますよね。彼らはあなたにとってどんな存在で、どういう経緯で作品に参加することになったのでしょう?

※1 アメリカ人マルチ・ミュージシャン/コンポーザー/プロデューサー。「ドニー・ダーコ」(2001年)、「君とボクの虹色の世界」(2005年)、「ブライズメイズ」(2011年)など映画のスコアも多数手掛けている

※2 カナダ出身の女性ジャズ・ヴォーカリスト。2009年に日本盤化された初作『Buttercup Bugle』はフリー・デザインの中心人物、クリス・デドリックとの共同プロデュースで制作された

※3 ノルウェー・ベルゲンのシンガー・ソングライター/プロデューサー。日本でもヒットした2007年作『Tamias Mellez』を経て、現在はヤング・ドリームスの中心人物として活躍中

「マイケルとローリーは『In The Morning We’ll Meet』から参加してもらっているんだけど、どちらも大好きなミュージシャンだから凄くラッキーだったと思う。まずはMySpace経由でメッセージを送ってみたんだ、もちろん僕の楽曲を添えてね。そうしたら2人とも気に入ってくれて、快く引き受けてくれたんだ。本当に嬉しかったし、驚いたよ。2人は僕のレコードでも重要な役割を担っていると思うね」

マイケル・アンドリュースとローリー・カレンが参加した『This Life Denied Me Your Love』収録曲“Bright Hugs”
 

「マティアスとは、僕がジュゼッペ・マンタや他のミュージシャンと一緒に〈Contronatura〉という小さなフェスをオーガナイズしたときに知り合ったんだ。フェスの初回に(マティアス率いる)ヤング・ドリームスを招いたのがきっかけだったんだけど、それから僕とマティアスは音楽やレコーディングなどについて本当にたくさん話すようになった。その後もこまめに連絡を取り合うようになって、『This Life Denied Me Your Love』のレコーディングを開始した頃に、彼に1曲プロデュースと演奏を手伝ってほしいてお願いしたんだ。彼も快諾してくれたんだけど、その仕事ぶりは本当に素晴らしかったよ。マティアスはポップの天才だね」

マティアス・テレスとロリ・カレンが参加した『This Life Denied Me Your Love』収録曲“My Last Tears Will Be A Blue Melody”
 

――最近はどんな音楽をよく聴いていますか?

1)ジェイミー・アイザック『Couch Baby』(2016年)
2)ソランジュ『A Seat At The Table』(2016年)
3)オルネラ・ヴァノーニヴィニシウス・ヂ・モラエストッキーニョ『La Voglia La Pazzia L’incoscienza L’allegria』(76年)
4)モーリス・ラヴェル『Complete Piano Works』(2003年)
5)ビル・エヴァンス『Moon Beams』(62年)

ジェイミー・アイザックの2016年作『Couch Baby』収録曲“Find The Words”
 

――あなたが所属しているレーベル、スペインのエレファントと日本のプロダクション・デシネについてはどのような印象を抱いていますか?

「もしエレファントの助けがなかったら、僕は自分の作品をリリースすることはできなかっただろうね。時間もお金も掛かる作品ばっかりだったけど、彼らはいつでも僕を理解して助けてくれるし、僕の音楽を信頼してくれている。(レーベルを運営している)ルイス・カルヴォとモンセ・サンターリャは、僕の人生において本当に大きな存在なんだ。プロダクション・デシネも美しいレーベルだね。彼らが僕のすべてのアルバムを日本で紹介してくれているのは、本当にラッキーなことだよ。それに今度はマサオのおかげで、僕は日本でツアーすることができるわけだからね」

※丸山雅生:プロダクション・デシネなどを運営する株式会社デシネの代表

――それぞれ、好きな所属アーティストや作品も教えてほしいです。

「エレファントのレーベルメイトで個人的に好きなのはヤーニングかな。最新作は素晴らしい内容だよ。それにフィットネス・フォーエヴァーアイコ・シェリーモジュラーも好きだね。プロダクション・デシネについて言っておきたいのは、現行のアーティストのリリースに加えて最高のリイシューもたくさんあること。それらはどの作品も素晴らしくて大好きだけど、特に最近はジュニア・タッカーのデビュー作をよく聴いているよ」

※〈ジャマイカのマイケル・ジャクソン〉と呼ばれたレゲエ・シンガー。78年のデビュー作『It’s A Small, Small World』を弱冠12歳で吹き込んだ

ヤーニングの2016年作『Evening Souvenirs』収録曲“When I Lost You”
 
ジュニア・タッカーの78年作『It’s A Small, Small World』収録曲“Reggae Feeling”
 

――今度の来日ツアーは、デュオ編成での弾き語りになるそうですね。共演するジュゼッペ・マンタはどのような方なのでしょう?

「実は2本のギターと声だけでのアコースティック・ギグは、生まれて初めての経験なんだよね。共演のジュゼッペは、まず僕にとって最高の親友なんだ。そして僕のグループのギタリストであり、いつでもファンタスティックな演奏を聴かせてくれるよ。彼のギターには、美しくフォーキーな感性が備わっているんだ。普段はサウザンズ・ミリオンズなどのロック・バンドでフェンダー・テレキャスターをバリバリ演奏しているんだけど、さっきも言った通り、彼には物凄く繊細で美しいアコースティック・サウンドを奏でるセンスがあるんだよ」

サウザンズ・ミリオンズの2010年作『Rock Days』収録曲“Rock Days”
2008年作『My Vocalese Fun Fair』収録曲“Musical Express”
 

――最後に、〈Mikiki Pit Vol.2〉で共演する日本のミュージシャンの曲もぜひ聴いてみてください。

「どれも素晴らしい作品だね、(谷口が関わった)1983と森は生きているも実にファンタスティックだよ。彼ら(出演陣)のサウンドからは、僕の感覚やイマジネーションに近いものを感じるね。僕らはみんな、大きな括りでのフォーク/ポップ・ミュージックのインディー・シーンのなかで大きな家族の一員だと言えるし、とにかくそんな彼らに実際に会って、共演できるのが楽しみでしょうがないよ。うん、日本に行けることを本当に楽しみにしている。景色やカルチャー、食べ物、街並み……きっと、あらゆるものが新鮮で、美しいと感じるはずだよ」

 


Mikiki Pit Vol.2
日時/会場:2017年2月23日(木) 東京・恵比寿batica
出演:ジョルジオ・トゥマ/ゆうきオオルタイチ&YTAMO)/yoji & his ghost band井手健介と母船
ラウンジDJ:谷口雄(1983、元・森は生きている)/Mikiki DJs(田中亮太&小熊俊哉)
開場/開演:19:00/19:30 
料金:前売り/1,500円、当日/2,000円(+2 drinks代別)
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GIORGIO TUMA JAPAN TOUR 2017
2017年2月17日(金) 福岡・papparayray
2017年2月19日(日) 大分・湯布院CREEKS
2017年2月20日(月) 熊本 ・FELICIA
2017年2月21日(火)東京・清澄白河THE FLEMING HOUSE
2017年2月23日(木) 東京・恵比寿 Batica
2017年2月24日(金) 東京・代官山Weekend Garage Tokyo – Cafe & Dining –
2017年2月25日(土) 大阪・天満教会
2017年2月26日(日) 札幌・PROVO
2017年2月27日(月) 札幌・ヒシガタ文庫
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