2023年8月9日、ザ・バンドのギタリスト/ソングライターとして知られた北米音楽界の重鎮ロビー・ロバートソンが、80歳でこの世を去った。前立腺がんとの闘病を長期間続けていたという。

ロビーの音楽家としての深く豊かな才能は、ザ・バンドで遺した多くの名曲はもちろん、ボブ・ディランとの共演作、ソロワークスや映画音楽の仕事の数々で聴ける。一方でザ・バンドの元メンバーたち、特にリヴォン・ヘルムとの軋轢があったことは知られているとおりで、彼の音楽人生は起伏に富んだものだ。

そんな彼への追悼の意を込めて、ミュージシャンの谷口雄がロビーとザ・バンドの物語を綴った。全3回に分けて掲載するうち、第2回に続く最終回はザ・バンド解散後の映画音楽の仕事やソロ活動、晩年におけるキャリアの総括について。 *Mikiki編集部


 

マーティン・スコセッシの名作「レイジング・ブル」などの音楽を担当

ザ・バンドを解散後のロビーは、手始めにリビー・タイタスの1977年のアルバム『Libby Titus』のうち2曲をプロデュース。リビーはリヴォンの当時の妻であり、どこか皮肉めいたものを感じてしまう。

LIBBY TITUS 『Libby Titus』 Columbia(1977)

リビー・タイタスの1977年作『Libby Titus』収録曲“Miss Otis Regrets”。プロデュースとギターはロビー・ロバートソン

その後はかねてからの望み通り映画界へと進出。自らプロデューサーを務めた1980年の映画「カーニー」で映画音楽家デビューを果たす。少年時代の見世物小屋でのアルバイト体験を元にしたこの作品では、脚本とともに主演も務めており、ヒロインのジョディ・フォスターと熱いキスシーンを演じている。ロビーの演技はもう1作、1995年の「クロッシング・ガード」でも披露されており、ジャック・ニッチェが音楽を手掛けたこの作品では、ジャック・ニコルソンや石橋凌とも共演している。

1980年の映画「カーニー」予告編

1980年にはもう一作、「ラスト・ワルツ」で親交を深めたマーティン・スコセッシ監督作「レイジング・ブル」に自作曲を提供し、劇中歌の選曲をサポート。続いてもスコセッシ作品。1982年「キング・オブ・コメディ」では初めて音楽監督を務め、“Between Trains”ではリチャードとのデュエットでボーカルを披露、この曲にはガースもシンセサイザーで参加している。これ以降も11作にわたり音楽監督や監修を務め、ロビーの音楽はスコセッシ作品に欠かせない存在となっていく。今年秋に公開されるスコセッシの最新作「キラーズ・オブ・ザ・フラワー・ムーン」でも音楽監督を務めており、残念ながらこれが遺作となってしまいそうだ。

マーティン・スコセッシ, ロバート・デ・ニーロ 『レイジング・ブル』 MGM(2004)

マーティン・スコセッシ, ロバート・デ・ニーロ 『キング・オブ・コメディ』 20世紀フォックスホームエンターテイメントジャパン(2004)

1983年のサウンドトラック『The King Of Comedy』収録曲ロビー・ロバートソン“Between Trains”

2023年の映画「キラーズ・オブ・ザ・フラワームーン」予告編。2023年10月20日(金)に公開

 

ネイティブアメリカン音楽の探求と実験をしたソロ活動

1987年には初のソロアルバム、『Robbie Robertson』をゲフィン・レコードよりリリース。旧友のリックとガースが参加し、ダニエル・ラノワをプロデューサーに迎えたこのアルバムでは、初めてアルバムを通してリードボーカルを務め、1989年のグラミー最優秀ロックボーカリスト賞にノミネートされた。

ROBBIE ROBERTSON 『Robbie Robertson』 Geffen(1987)

同時期にラノワが手掛けていたU2が参加した“Testimony”や、前年に亡くなったリチャード・マニュエルに捧げられた“Fallen Angel”を聴くと、映画音楽を経由したことで、より幅広い表現力を得たことが分かる。ザ・バンドの香りが漂う“Broken Arrow”は後にロッド・スチュワートやグレイトフル・デッドによってカバーされている。

1987年作『Robbie Robertson』収録曲“Testimony”“Fallen Angel”“Broken Arrow”

ロビーはこのアルバムを皮切りにソロ活動を本格化、1991年の『Storyville』ではミーターズやネヴィル・ブラザーズの面々を招いてニューオーリンズミュージックにチャレンジ。前作に引き続きリックとガースが参加している。

ROBBIE ROBERTSON 『Storyville』 Geffen(1991)

1991年作『Storyville』収録曲“Go Back To Your Woods”“Fallen Angel”“Broken Arrow”

1993年には古巣キャピトルに移籍。1994年のドキュメンタリー番組のサウンドトラック『Music For The Native Americans』では、これまで積極的に明かしてこなかった自らのルーツに向き合い、ネイティブアメリカンの代表的なミュージシャンを客演に招いている。

ROBBIE ROBERTSON 『Music For The Native Americans』 Capitol(1994)

1994年作『Music For The Native Americans』収録曲“Ghost Dance”

続く1998年のアルバム『Contact From The Underworld Of Redboy』では、ハウィー・Bやマリウス・デ・ヴリーズといったエレクトロニック系のプロデューサーを招き、ネイティブアメリカンミュージックとトランスミュージックの融合にチャレンジ。こうした活動やロビー自身の尽力もあり、2001年にはグラミー賞にネイティブアメリカン部門が新設される

※編集部注 グラミー賞の最優秀ネイティブアメリカンミュージックアルバムは2011年に廃止された

ROBBIE ROBERTSON 『Contact From The Underworld Of Redboy』 Capitol/EMI(1998)

1998年作『Contact From The Underworld Of Redboy』収録曲“Peyote Healing”