ON SEASON OF BEATS & RHYME 2017
[緊急ワイド]2017年、日本のヒップホップは
数多くの思い出が生まれた時代、色褪せないクラシックが作られた時代――それは何年前? あるいはいま? もしくはこれから? いずれにせよ、名盤が皆無だった年はないが、肥沃な土壌が育まれた前年を受け、2017年もまたいい作品が各方面から届きそうな……表題は適当だけど、予感は本当だ!

★Pt.1 10代のラッパーLick-Gが語る、自身のやりたいことを貫き高いスキルやメッセージ性 をとことん追求した初作『Trainspotting』
★Pt.2 生粋のフリースタイラー、輪入道がさらけ出す拭えない過去―逃げ場をなくして今を繋ぎ止めた新作『左回りの時計』を語る
★Pt.3 タイプライター&YMGが生み出すありそうでなかった何か―世代やエリア越える豪華メンツ揃えたプロデュース・アルバム
★Pt.4 Eccyが発見した自分らしさとは? Shing02やどついたるねんら招いてパーソナルな物語紡いだ8年半ぶりのフル・アルバムを語る

 


ちゃんみな
早熟な未成年はシンデレラ・ガールか、あるいは時代に選ばれた才能なのか?

 

 アクの強い挑戦的なヴィジュアル、多様な声のキャラで魅せる唯一無二のラップ、そこに止まらない魅力的な歌唱やダンスも含めたトータルな表現力……と、〈現役女子高生ラッパー〉〈練馬のビヨンセ〉などの触れ込みで俄に人気者となっている、ちゃんみな。きっかけになったのは、これまたBS番組「BAZOOKA!!!」の人気企画〈高校生RAP選手権〉だ。昨年4月、その第9回大会に出場した彼女は、持ち前のキャラクターも相まって大きな話題になり、そこから間を置かず、同級生のラッパー・めっしをフィーチャーした初音源“未成年”を配信リリース。続く“Princess”もヒットしているが、それらの楽曲から明らかになったのは、いわゆるバトルMCとはまったく異なる、例えばニッキー・ミナージュらを想起させるようなアーティスト性だった。

 98年生まれ、日本と韓国の血を引き、両国やアメリカを行き来しながら育ったちゃんみなは、日本語、韓国語、英語を話すトリリンガル。子どもの頃からピアノやバレエを習いながら音楽/表現活動に目覚め、小学生でダンスにも才能を発揮し、中学の頃に歌を、そして高校生になってから作曲とラップを始めたという。件の〈高校生RAP選手権〉出場は観客や視聴者を大いに魅了する結果となったが、そもそもフリースタイル志向はまるでなく、彼女が主眼を置いているのは韻やパンチラインの精度よりも歌とラップを渾然一体にしたフロウの個性であり、それも含めた総合的な表現が彼女を魅力的に輝かせている。そもそもブームと別の地平を見ている存在がバトルで脚光を浴びたというのもおもしろいが、そのようにトントン拍子でお茶の間へも侵攻しているシンデレラ・ガールが、ここにきてメジャーから初めてのアルバムをリリースすることになった。

ちゃんみな 未成年 ビクター(2017)

 そのまま『未成年』と題されたアルバムは、インディーで配信した2曲をニュー・ミックスで収め、彼女が客演したTeddyLoidの配信曲“ダイキライ”(DAOKO“ダイスキ”へのアンサーソング)もボーナス収録した、ここまでの彼女のキャリアをおさらいできる側面もある一枚。気になる新曲は、世界を視野に入れて活躍するRyosuke“Dr.R”SakaiCrystal KayHappiness他)をはじめ、OYMWJIGGAKLOSALU他)、RYUJA加藤ミリヤ2WIN他)、@djtomokoことTOMOKO IDA、さらにはDIGITAL NINJA774、そしてTeddyLoidらが参加。ソングライティングではCREAMMinamiも助力している。

 エッジー&ブーティーな先行カット“FXXKER”やアーバン・ポップの世界標準に則った“LADY”はRyosuke“Dr.R”Sakaiが手掛け、主役のポテンシャルを確実に引き出している。774によるレゲエ“ナニモコワクナイ”もフューチャー・ベースの“Wonderland”からも新たな表情が窺えるし、心情を吐露した“She's Gone”に映る素顔も魅力的。ここから羽ばたく末恐ろしい才能に今後も注目していきたい。

ちゃんみなが参加したタイプライター& YMGのニュー・アルバム『LA LA PALOOZA』(BTB/VLAD MUSIC)

 

『未成年』に参加したアーティストの作品を一部紹介。