坂本龍一のなんと豊穣な地下活動期
坂本龍一にとっての80年代という時代は、坂本のアイデンティティのベクトルを、YMOというポピュラリティを獲得したことの反発として、より先鋭的に同時代性へと向けた時代だといえる。それは、音楽による自身の投影を、いわゆる従来のポップスの世界にではなく、坂本の培ってきた現代音楽、即興音楽、アヴァンギャルドといった領域で精力的に展開させたものだった。81年に発表された、YMOの『BGM』と『テクノデリック』の2作品は、いい意味で期待を裏切る作品であり、その前後の坂本の活動は、坂本のおかれた状況への違和感の表明でもあったのだった。それは、パンク以降の状況を反映した、分裂気味ではあるが、より坂本の欲求に忠実な、より自由かつ濃密な活動と言える。アヴァンギャルドとアナーキズムの可能性の試行が許容され得た、ある意味では坂本が時代との共犯関係を結んだ時代であった。
そして、サウンドストリートのようなラジオ番組のレギュラーを持つなど、坂本は当時の日本のサブカルチャーを牽引する存在となったと言えるだろう。なにしろ、ラジオから突然、藤森安和の詩「15歳の異常者」が坂本による朗読で放送され、ゲストには高橋悠治やデヴィッド・ボウイが登場した、そんな番組はほかになかった。当時の最先端のポップスを牽引しながら、ニュー・アカデミズムやサブカルチャーとも通じる、そんな坂本のパーソナリティが全開していたのだ。
『Year Book 1980-1984』は、そんな80年代前半という時代の、正式には音源化されて来なかった録音を中心に、特に今回は坂本の言う「地下活動」に焦点をあてている。多くを望むのは欲張りというものだろうが、Phewのコンサートは全編聴きたいし、タコや「FRONT LINE」も入れてほしいし、EP-4もB-2 UnitsもTokyo Meetingもピテカンセッションも、もっともっと聴きたくなってしまう。収まりきらないほどの多角的で膨大な活動を精力的に行なっていたのがこの時代なのである。