駐車場から地元のジャズ・シーン、ロック・フェスの大舞台、そして名門ブルー・ノートへ――踏み出せば、その一足が道となり、その一足が未知の領域へ至る。ニューオーリンズ・ファンクの正統後継者が帰ってきた!
「そこまで時間が経っていたなんて気付いていなかったんだ。アルバムをリリースするまで何の仕事もしないアーティストもいるけれど、俺は絶対に止まっていなかったしね」。
前作『Say That To Say This』(2013年)から早くも4年が経過していたことについて、トロンボーン・ショーティことトロイ・アンドリュースはこのように振り返る。その言葉通り、彼は現代のニューオーリンズ・ファンクを多様なフィールドで休みなく展開してきた。この4年の間にトロンボーン(やトランペット)奏者としてレコーディング参加した作品はマーク・ロンソンからシー&ヒム、ラヒーム・デヴォーン、ロベルト・フォンセカまで多種多様で、経験したパフォーマンスの舞台もグラミー授賞式からホワイトハウスまでさまざま。もちろん伝統的な〈ニューオーリンズ・ジャズ&ヘリテイジ・フェスティヴァル〉のクロージング・アクトを任されるなど地元からの信頼も厚くなる一方だし、さらにはフー・ファイターズのドキュメンタリー・シリーズ「Sonic Highways」出演や、ダリル・ホール&ジョン・オーツのツアーも経験、そして今年はレッド・ホット・チリ・ペッパーズの北米ツアーでオープニング・アクトに起用されてもいる。ニュー・アルバム『Parking Lot Symphony』はそんな忙しい日々の合間を縫って仕上げられたものだ。
彼によるとアルバムの原型となるアイデアは、ニューオーリンズの自宅に戻っていたわずかな期間に録音したものだという。
「自宅で過ごせる時間が2週間あったので、スタジオに行って、〈遊び場〉のセッティングをした。自分の周りにチューバ、トロンボーン、トランペット、キーボード、フェンダーローズ、ウーリッツァー、B3オルガン、ギター、ベース、そしてドラムスを置いて、自分はその真ん中に埋もれていた。すぐに曲を発表するのではなく、時間の経過がそこにどういう感覚を加えていくのかを知りたかったんだ」。
そうして拾い上げたアイデアの原石をツアーの過程で磨き上げ、具体的なレコーディングに移ったのは実に1年後だそう。お馴染みオーリンズ・アヴェニューのピート・ムラーノ(ギター)、ジョーイ・ピーブルズ(ドラムス)、ダン・オーストライカー(バリトン・サックス)、BKジャクソン(テナー・サックス)に加え、ダンプスタファンクのトニー・ホール(ベース)を伴ってスタジオに戻った時、いくつもの宝石を詰め込んだこの力強いアルバムが誕生したのだ。
ヴードゥーの女王に捧げたニューオーリンズ・ソウル“Laveau Dirge No.1”で幕を開ける本作は、ジャズを生んだ聖地の伝統を継承する彼が、シンガー/マルチ・ミュージシャンとして貪欲に自身の領域を開拓してきた道程そのものを記録した一枚だ。自身のルーツへの敬意はもちろん、ブラスバンドのラウドな咆哮からナスティーなファンクのグルーヴ、ブルージーな歌心、ヒップホップ世代のマナーや遊び心といったものが、ここでは見事に渾然一体となっている。
プロデュースを担当したのはアンドラ・デイ仕事で名を上げたクリス・シーフリード。先述の演奏陣に加えて、重鎮レオ・ノセンテリらミーターズ~ネヴィルズのVIPたちも参加し、ソングライティングのクレジットにはアロー・ブラックやベター・ザン・エズラのケビン・グリフィン、アレクサンダー・エバートらも共作者として名を連ねている。ミーターズを取り上げた“It Ain't No Use”はもちろん、アーニー・ケイドーのカヴァー“Here Come The Girls”(アラン・トゥーサン作)は、地元色の深みを表現すると共に、昨今の若手によるヴィンテージなソウル・オマージュと並べても遜色のないモダンな輝きが感じられるはずだ。それこそブルーノ・マーズのやり口と比べたくなるJB風味の“Tripped Out Slim”もいまの時代にジャストな響き方をするだろう。
一方ではバンド演奏でトラップを意識したような“Familiar”もあったり、本人が「ハイスクール時代にインシンクやブリトニー・スピアーズを聴くことはダサかったんだけど、あのベースラインとメロディーはファンキーだよ」と説明する“Where It At?”は往年のシェイロン・スタジオ流儀をテディ・ライリーの作法にまで遡らせたようなポップ・ナンバーだったり、チャレンジングな意匠と共に「音楽は団結をもたらす」という言葉通りの親しみやすさが伝わってくる。
「自分の前にどんな障害があったとしても毅然と対応していくことを伝えている。このアルバムはそんな人生の記録なんだ」。
そういえばヴァーヴ・フォアキャストからブルー・ノートへの移籍もトピックとなろうが、それは単に便利な見出し文のようなもの。カラフルに広がるファンキーでワイルドな音楽性そのものが『Parking Lot Symphony』を美しく響かせている。
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