KNOCK ON THE DOOR
[ 特集 ]理想の〈アメリカ〉を求めて
アメリカがどこへ向かおうとも、アメリカーナはいつだってここにある。先行きの見えない時代だからこそ、ルーツに根差した音楽と旅に出ないかい?

★Pt.1 FLEET FOXES『Crack-Up』
★Pt.2 JEFF TWEEDY『Together At Last』
★Pt.4 SUFJAN STEVENS/BRYCE DESSNER/NICO MUHLY/JAMES McALISTER 『Planetarium』
★Pt.5 「American Epic」と巡る1920年代の米国/ジョン・フェイヒーに愛を込めて
★Pt.6 ディスクガイド

 


DAN AUERBACH

 アメリカ南部から延々と続く長い道。太陽は燦々と輝き、代わり映えしない景色がさっきから続いているけど、別に焦ることなんてないんだし、このまま車を走らせて気ままに行こうぜ――そんな様子が思い浮かぶ、陽気なカントリー・ポップで始まるダン・オーバックのソロ2作目『Waiting On A Song』が最高に心地良い。ガツガツしたり急いだりせずに、日光を浴びながら自分のリズムで生活することの喜びみたいなものが滲み出ていて、聴けばこちらも大らかな気持ちになってくる。彼はいま、イイ感じで毎日を過ごし、楽しんで音楽を奏でているんだな……ということがよくわかるのだ。

DAN AUERBACH 『Waiting On A Song』 Easy Eye/ワーナー(2017)

 ブラック・キーズを結成して以来、ずっとツアーを続けてきたダン。ブラック・キーズの活動を休止したら、今度はリチャード・スウィフト(シンズ)らと組んだアークスでツアーに出るといったふうに、彼は立ち止まることがなかった。そこで〈充電期間を設けよう〉と初めはそう思っていたようだ。しかし「〈よし、ちょっと休憩しようか〉と決めたその瞬間が、思えば『Waiting On A Song』の始まりだったんだよ」と語っている。

 当初はアルバムを作る気などまったくなく、ただナッシュヴィルにしばらく留まって、いろんな人に会おうと考えていたらしい。が、ある人物との再会でインスピレーションが湧き起こり、創作欲求に火が点くことに。その人物とはジョニー・キャッシュ作品などを手掛けてきた名プロデューサー&エンジニアのデヴィッド・ファーガソン。デヴィッドは地元のミュージシャンを次々とダンに紹介し、とても自然な流れで制作が始まったそうだ。まず、ダンとデヴィッド、そしてニール・ダイアモンドらのバンドでも活躍してきたシンガー・ソングライターのパット・マクラフリンの3人が集い、曲作りを開始。およそ200もの楽曲が出来たとか。そこから厳選したナンバーをデヴィッドの友人たちと録音。ドブロ・ギターの名手であるジェリー・ダグラスや、ロックンロール・ギターの大御所であるデュアン・エディ、ヴェテランの個性派シンガー・ソングライターであるジョン・プラインほか、豪華な面々が参加している。

 ダンと言えばまず〈歪んだギター音によるブルース〉といったイメージが浮かぶが、このアルバムにブルースの要素はない。じゃあ何があるかと言えば、古き良きカントリーやフォークのゆったりした感じだったり、70年代前半に流行ったソフト・ロックのドリーミーな感覚だったり。アル・グリーン的なタッチのシャッフルもあるし、果てしなくメロウな曲もあって、本隊では見せないフニャッとした歌い方がまた音と合っている。このレイドバックしたヴァイブレーションは、ナッシュヴィルでのんびり作ったからこそ生まれたものだろう。しかも何ともノスタルジック。この夏はこれさえあればOK、ってくらいの傑作です。 *内本順一

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